プロジェクトの合理性の再定義、エフェクチュエーション理論×両立思考とセレンディピティ
合理性とは?
例えばプロジェクトや組織運営における合理性は、明確な目標設定とそれに向けた最適な手段選択を重視し、計画的かつ予測可能な行動を理想としています。
しかし、不確実性と複雑性が増大する現代社会では、このアプローチだけでは対応しきれない場面が増えています。
エフェクチュエーション理論
このような状況下で注目されるのが、サラス・サラスバシーによって提唱されたエフェクチュエーション理論です。エフェクチュエーション理論は、企業家が不確実な環境下でどのように意思決定を行うかを解明し、手元にある資源やネットワークを活用して未来を創造していくプロセスを強調します。ここでは、目標は固定されたものではなく、行動を通じて柔軟に形成・変化していくものと捉えられます。
今回の仮説
エフェクチュエーション理論を実践的かつ効果的に活用するためには、両立思考(ambidextrous Thinking)とセレンディピティ(serendipity)の概念を統合する必要があるのではないか?
この2つの要素は、エフェクチュエーション理論の潜在的な効果を最大化し、不確実な環境での価値創造を促進するための鍵となるのではないか?
今回のnoteはこの仮説について書きます。
両立思考(ambidextrous Thinking)の役割
両立思考とは、相反する戦略や思考様式を同時に追求し、状況に応じて柔軟に適用し、バランスをとる思考です。例えば、「短期的な利益と長期的な成長」「効率性と創造性」といった相反する要素を、状況に応じてバランスよく組み合わせることを指します。
エフェクチュエーション理論が強調する柔軟性や創造性を活かしつつ、従来のコーゼーション的な計画性や予測可能性も維持することで、より包括的で適応力のある戦略を生み出す。このあたりでの可能性。
つまりエフェクチュエーション理論単体では、計画性の欠如によるリスク、例えば「資源の無駄遣い」「短期的な視点に偏り」「目標を見失う」といった問題が生じる可能性があります。ここで両立思考を取り入れることで、計画的な要素と創発的な要素を組み合わせ、確実性と柔軟性を両立させたバランスの取れたアプローチが可能になります。
凄く抽象化して話すと、エフェクチュエーションとコーゼーションを両立できないか?という視点です。
セレンディピティ(serendipity)の役割
セレンディピティとは、偶然の発見や予期せぬ出来事を価値創造に結びつける能力を言います。エフェクチュエーション理論は、行動を通じて未来を創造することを強調しますが、その過程で偶然の機会を最大限に活用するためには、セレンディピティの概念を学ぶ事が良いのではないか?
それは偶然の出来事を単なる偶然と捉えるのではなく、それを積極的に意味づけ、新たな戦略や価値創造に結びつける能力の開発。
例えば、ペニシリンの発見やポストイットの開発は、偶然の出来事から生まれた代表的な例です。これは、エフェクチュエーションのプロセスを深化させる可能性があるのではないか?
そもそも合理性とは?プロジェクトの合理性とは?
プロジェクトにおける合理性は、固定された目標達成のための最適手段の選択に注目していましたが、両立思考とセレンディピティを統合することで、合理性はより動的で柔軟な概念へと進化が可能なのではないか?
そこで、合理性を3つの視点から考察します。
動的合理性
合理性を固定的なものではなく、状況や環境に応じて変化する動的なプロセスとして捉えます。これは、エフェクチュエーション理論が強調する「手段から目標を形成する」アプローチと合致します。
従来の合理性のように、あらかじめ目標を固定して最適な手段を考えるのではなく、状況に応じて目標を柔軟に変化させていくことを重視し動的合理性と呼びます。
包含的合理性
両立思考を取り入れることで、相反する要素を統合し、全体としての合理性を追求します。これにより、短期的な効率性と長期的な成長を同時に実現する戦略が可能になります。例えば、既存事業で安定的な収益を確保しながら、同時に新規事業への投資を行うことで、企業の持続的な成長を図ることができます。
私は「ジンテーゼ」(synthèse)という考え方が最もしっくりきます。これは、ドイツの哲学者ヘーゲルの弁証法に関連する用語で、日本語では「総合」とも訳されます。弁証法プロセスにおいて、「テーゼ(命題)」と「アンチテーゼ(反対命題)」 」という対立する要素が相互に対話し、これらが融合して「ジンテーゼ(総合)」という新たな概念や真理に至るという考え方です。
簡単に説明すると、ある主張(テーゼ)があると、それに対する反対の意見(アンチテーゼ)が生まれ、その二人を取り入れて、より高いレベルで調和・統合するのがジンテーゼです。矛盾する要素がより大きく統一的に進化することで、新しい理解や真実を生み出す過程を示しています。
創発的合理性
セレンディピティを活用することで、予期せぬ出来事や偶然の発見を合理的な意思決定プロセスに組み込みます。
これは、不確実性が高い環境下での新たな価値創造を促進します。例えば、顧客からの 予想外の要望を、新たな製品開発のヒントとして捉え、イノベーションを生み出すことができます。
イノベーションの種に気が付くという力とも言えます。
新たな合理性の可能性
本記事の核となる「なぜ両立思考とセレンディピティがエフェクチュエーション理論との融合に必要なのか」に対して、以下のように考察しています。
相互補完性
エフェクチュエーション理論は、創造性と柔軟性を強調しますが、計画性や予測性の欠如といった課題も抱えています。両立思考は、この課題を克服し、エフェクチュエーション理論の長所を活かしながら、計画性と予測可能性を確保することを可能にします。
価値創造の深化
セレンディピティは、偶然の出来事を価値創造に転換する能力であり、エフェクチュエーションのプロセスにおける不確実性や偶然性を積極的に活用します。これにより、当初想定していなかった新たな価値を創造することが可能になります。
適応力の向上
これらの概念を統合することで、組織や個人は不確実で変化の激しい環境に対して高い適応力を持つことができます。変化に柔軟に対応し、新たな機会を捉えることで、持続的な成長を遂げることが可能になります。
仮説の可能性に気が付くための思考訓練としての問い
この新たな合理性の概念を深め実践し、可能性を追求するために、以下の「問い」を考えてはどうか?
エフェクチュエーション理論の柔軟性を考慮しながら、どのように計画性と予測性を統合できるか?(両立思考の活用)
偶然の出来事を戦略的に捉え、価値創造に結びつけるための組織的・個人的な仕組みは何か?(セレンディピティの活用)
不確実性が高い環境下で、固定された目標と柔軟な目標形成をどのようにバランスさせるか?
相反する戦略や思考様式を統合することで、イノベーションが成功する確率は増えるのか?
合理性の再定義によって、組織や社会が直面する複雑な課題にどのように対処できるか?
まとめ
エフェクチュエーション理論、両立思考、セレンディピティは、いずれも不確実性が高い現代社会における価値創造と意思決定の重要な要素です。これらを統合することで、従来の固定的な合理性を超えた、動的な合理性が形成が可能なのではないか?
合理性の概念を再定義し、固定観念にとらわれず、多元的で柔軟な思考を追求することで、新しいプロジェクトマネジメントの可能性ができるのではないか?