病理解剖結果報告の旅(1)
脳腫瘍で亡くなった夫の身体は、今後の医療に役立てて欲しいと思い、没後「ブレインバンク」に提供していた。
その病理解剖の結果を、高次脳機能障害支援室の相談員の方にお伝えしたくてアポイントを取った。
もし、頭の病気をしたり、何か頭に衝撃を受けたりして、その後の記憶力やお困りごとを感じている人が居たら、地域に「高次脳機能障害支援室」があると思うので調べてみて欲しい。
協力をしてもらえると思う。
我が家において、この高次脳機能障害室の相談員の方(言語聴覚士さん)は、我が家を蔭で支えつつ、必要な時には表に立って守ってくれた方。
彼の会社や障害者訓練センター、病院、在宅医療、その他もろもろ、すべての局面で支えてくださって、一緒に泣いてくださった方だ。
特に、高次脳機能障害をなかなか理解してもらえず、孤独感を感じていた私を救ってくれた恩人。
その彼女に連絡をすると喜んで時間を作ってくれた。
いつも相談に乗ってもらったり、私が泣きわめいていた相談室で、彼女は病理解剖の結果をじっくりと興味関心を持って「はー、そうだったのかぁ」とか言いながら読んでくれた。
そこで、ふと彼女が夫の<生活歴>の欄に「飲酒・喫煙なし」と書いてあるところを見つけ、「飲酒ナシって書いてありますよー。えーっ!」と笑いながらツッコミを入れてくれた。
「酔っぱらって、自転車で転倒したとかありましたよねー(笑)」
そう。
夫は自転車が大好きで、背中にエンジンを搭載していると良く言われるくらい、どんなところでも自転車で行ける人だった。
そして、お酒も大好きで、普段は寡黙だが、飲むとご機嫌になる人だった。
病状が進行して、もうそろそろ自転車禁止にしないとダメだなと思っていた頃、近くの公園で行われたBBQでご機嫌に酔っぱらい、帰宅途中に自転車で坂を上がろうとして、押して歩いて上がる時にふらついたのか、転倒して鎖骨を折り、大騒ぎになったことがあるのだ。
彼女から、そのエピソードがスルスルと出てきたことがとても嬉しかった。
彼女がそう話してくれたことで、モノトーンに変わっていた夫のエピソードに再度色がついた感じがした。
あの時、こうだったよね、ああだったよね、と話すことが嬉しかった。
高次脳機能障害を理解してもらえず、長く苦しんだ時期があった。
脳腫瘍のことも、本人にあまり自覚がなかったこともあり、知っている人は周辺にいなかった。
孤独な闘いのように感じていたが、あの時、ちゃんと支援者はいたんだよな、と思い出させてくれた。
夫の友人たちに近況報告のメールをした際に、友人のひとりが「もう彼のことは過去の話で終わるんだろうなと思っていたので、こうやって連絡をくれたことがすごく嬉しかった」と言ってくれた、その気持ちが良く分かった気がした。
人は亡くなっても記憶の中で生きていくというけれど、それってこういうことなんだな、と思えた。
同時に、高齢者が昔話を懐かしく繰り返ししていく気持ちも、分かるような気してきた。
話すことで、色をつけなおしたいのかな。
自転車転倒エピソード、それだけで相当盛り上がったよ笑
あの時、ホントに大騒ぎだったよね。
懐かしいね。
この間、色々整理していたら、鎖骨に埋め込んでた金具が出てきたよ笑