武蔵美通信 編集論 課題1

 私が幼い頃、母が何度も読み聞かせてくれた2冊の子供向け絵本を比較して行きたいと思う。
 まずは外観から。どちらも角背、みぞ付き、左綴じの上製本。で読みやすさと丈夫さを両立した腔背、かがり綴じ。子供向け絵本として理にかなった作りだ。また、上製本であることで見た目にも上質感が生まれるため、大人であっても手に取りたい美しい一冊となるのではないだろうか。
 「あくたれラルフ」の表紙サイズは219mm×233mm、やや横長の絵本である。背景は白地。マットな質感で、サラサラとした手触りが心地よく、上品んな印象。表紙のイラストは子供向け絵本としてはやや過激にも思えるが、白い背景と優しい手触りが良い意味でこのシーンの緊張感を和らげ、この絵本をアートとして昇華しているように思える。対して「カングル・ワングルのぼうし」の表紙は、274mm×208mmで、黒地でツルツルとした質感。メインカラーを黒にしたことで画面が引き締まって見える。さらに、ピンクで描かれたタイトル文字が、地の黒色との対比で目を惹き、アーティスティックな雰囲気を醸し出している。
 どちらも表紙面から贅沢にカラー絵があしらわれており、どんな物語が始まるのか、想像力と本を開きたい欲求を掻き立てる。
表紙を捲ると、「あくたれラルフ」には鮮やかな両面黄色の見返しが貼り付けられており、「カングルワングルのぼうし」にはイラストがコピーされた見返しが貼り付けられている。後者はめくると白無地なので、片面コピーのようだ。
どちらも文庫本などに比べるとかなり厚みのある紙が使われており、多少雑に扱っても破れにくそうである。
さらにめくると、どちらの絵本も白い紙を背景に、本のタイトル、作者、出版社と、イラストをあしらったページが現れた。この二冊は、このページが折丁の冒頭部分だと考えられる。見返しをのぞいた全てのページ数を数えると、「あくたれラルフ」が48ページ、「カングル・ワングルのぼうし」が32ページ。どちらもきっかり16の倍数で、つまりそれぞれ3台と2台である。念の為ウェブ上でも調べてみたが、ページ数に間違いはなさそうだ。どちらも滑らかな手触りで見返しと同程度の厚みの紙だが、質感から前者はおそらくマットコート紙、後者はほんのり光沢があることから上質紙と推測する。1ページのサイズは、前者が21
さらにページをめくると、それぞれ先ほどのタイトルページの裏にあたるページに、「OOへ送る」と言った旨のメッセージがあり、下の方には小さい字で、またしてもタイトルを初めに、作者や発行年月日などを含む詳細情報が描かれている。それだけ絵本を作るという行為に各々が誇りを持って取り組んでいるのだろう。その次のページ、3ページ目からはいよいよ本文が始まる。
「あくたれラルフ」は、表紙と同じようにページ端から1cm程度のところに枠組みに見立てた線が描かれていて、その中にイラストが収められている。これにより洗練された雰囲気が漂うことに加え、読者側が物語に入り込みすぎることを防ぐ効果があると考えられる。あくたれラルフは、あくたれ猫のラルフを中心に展開していく話だが、ラルフのあくたれ具合は大人から見ても決して可愛くないレベルまで到達してしまっている。あまり物語に入り込みすぎると本気で腹立たしくなってくるし、間違っても子供に真似されるようなことがあっては困るのだ。あくたれラルフは、あくまでも絵本の中の出来事として現実とわけ、ユーモラスなイラストと併せて半ばアート作品を鑑賞するような心持ちで楽しむ作品であると私は思っている。この本では本文最初のページと最後のページをのぞいて、見開きの左のページに文章が、右のページに枠線に囲まれたイラストが印刷されている。これがこの本の紙面デザイン上の抜け感を生み、大人が見ても楽しめる洗練された作品を作り上げている。
一方、「カングル・ワングルのぼうし」は画面いっぱいに絵があしらわれている。一枚の絵を誌面の中に収めようとしていないようだ。これにより絵本の中の世界の広がり、臨場感のある作品となっている。
どちらの絵本も起承転結のあるストーリーとなっていて、繰り返し表現が使われている。前者ではラルフのあくたれエピソードを繰り返し描くことであくたれ具合を強調し、後者はカングルワングルの元に訪れる生き物を数ページに渡り繰り返し描くことで賑やかさや楽しさを強調し、終盤にかけての盛り上がりにつなげている。

2023年提出/評価A

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