見出し画像

【セイントデビル~聖魔伝~】デビルマンの影に埋もれたもうひとつの神々と悪魔の戦いの物語

#マンガ感想文 #石川賢 #辻真先 #神々と悪魔の最終戦争 #絶対に読むべき埋もれた名作 #近親相姦的姉弟愛 #愛憎の連鎖 #デビルマン

故・石川賢御大が「デビルマン」から鳥肌が立つほどの影響を受け「『身の程知らずにもああいう作品を描いてみたい』と思ったほどだった」「朝日ソノラマさん(初出誌『マンガ少年』/休刊)から連載の話をいただいた時も、一にも二にもとにかく描いてみたいのは『デビルマン』のような作品だった」と言わしめるほど「デビルマン」の影響を多大に受けて描かれた作品だが、オマージュだのリスペクトだのという安易な表現はふさわしくないし、もしこの感想文を読んで「セイントデビル」に興味を持たれた方がいたとしたら、デビルマン既読の方々はデビルマンの世界観やストーリーをすべて取っ払ったうえで読んで欲しい。この作品は、デビルマンとはまったく別の作品なのだから。

海上で、三重もの超常現象に遭遇した大型タンカーの乗組員達が、出産して間もない状態の女性が乗った一隻のボートを発見し、救助した。長袖のワンピースを着ていたのだろう彼女の両袖と裾はズタズタで、恐らく下着も裂けている。臍の緒が繋がったまま産声を上げている赤ん坊は可愛らしい女児。タンカーの乗組員がその子を取り上げると、彼らの目の前で女性の下腹が盛り上がり、再び赤ん坊が誕生する。二人目は大柄な男児。双子だった。

ーーそれから15年後。双子は高校生に成長していた。しかし双子といえど男女の二卵性双生児である姉と弟は、美醜の対極の容姿に成長していた。妖艶なほど美しく聡明な姉の名はテレサ、対して尋常でない程の巨漢ながら気も頭も弱く、醜悪な容貌の弟の名はユンクと名付けられて同じ学校に通い、刑事である母方の祖父、剛造の男手ひとつで育てられていた。

双子の出産時、死亡したかに思われていた女性は生存していたが、警察病院に収容され、生ける屍と化していた。女性の名は大間朝子。彼女がテレサとユンクの母親であることには間違いないのだが、朝子は当時学内の探検部に所属する大学生で、3ヶ月の航海に出発した直後だった。妊娠の気配以前に、3ヶ月で出産出来るはずのない娘の身に何が起こったのか皆目見当のつかない剛造は孫達が不憫でならず、父親としても祖父としても苦悩するしかない。

しかし祖父の預かり知らぬところで、テレサとユンクは互いの身が窮地に陥ったときにのみ発揮される魔的な異能力を既に表していた。テレサが数人の男達に拉致されてレイプされる寸前、ユンクが巨体化して男達を惨殺してテレサを救い、ユンクを怪物視する陰険な教師の差し金による応援団の集団リンチを受けるユンクを、テレサは強力なテレパシーによってクラスメイト達を操って応援団達を襲撃させ、さらには本を一瞬で斧に変化させ、黒幕の教師に学園長を殺害させてユンクを救う凄惨な結末を、テレサはどちらも「天使のような悪魔の笑顔」で見届ける。

しかし、テレサが野球部のエースにして眉目秀麗、頭脳明晰な帰国子女である伊達秀介に恋心を抱いてしまったことから運命の歯車は狂い始めーーというより、テレサとユンクは逃れられない互いの宿命に導かれて行く。

ユンクと共有する自分の異能力を持て余し、普通の女の子になりたいと思いながらも、秀介の恋人、ユリーの存在を知ったテレサは、皮肉にもその嫉妬心から瞬く間に魔女の血を覚醒させてしまう。

一方で、人間界に潜み続けていた堕天使ルシフェルはテレサの正体に気づく。普段はコテコテの関西弁を話す老獪で狡猾な老人の姿で暮らすルシフェルは、ホムンクルスを造り出し、その能力を応用して何度でも自身の肉体を再生させる魔術を駆使し、宍戸教授、曽根狂作、曽根京子と言ったいくつもの分身を使い分け、テレサのみならずユンクと剛造にまで接近し、あらゆる手段を使って三人の命を狙い始める。リリスの後継者にして現魔軍統率者である魔女イシュタルと大天使ガブリエルとの攻防、さらに朝子の身に起きる超常現象的異変とが交互に描かれ、物語はさらに壮大に展開して行く。

三ツ矢重工第13研究所長、曽根狂作としてのルシフェルの捨て身の罠にかかってしまったテレサとユンクは殺人の濡れ衣を着せられ、ユンクは射殺されてしまうものの、彼は生前の「大間ユンク」とは別人のように凛々しく雄々しい容貌と品行方正さを兼ね備えた最強の戦士たる天使として、天界に異世界転生する。

テレサはかろうじて生き延び、表向きはユンクとともに死んだことにされて秀介の家に匿われ、仮初めの幸せなひとときを過ごすが、秀介が真に愛しているのはユリーであり、不慮の事故により生死の境をさ迷うことになった秀介の命を救う代償として、テレサは自ら魔界に赴き、魔女としてイシュタルの配下に下る。          

その頃、朝子とともに田舎に移り住んだ剛造は正気を失っていた。テレサとユンクがともに神々と悪魔の永劫の戦いの指揮者とも言うべき魔界の女王、魔女リリスと軍神にして大天使ガブリエルが果てなき戦いの果てに見出だした異形の愛の果てに産まれた忌み子達だった事実を知り、発狂したのである。

天使長ミカエルの目を逃れるべく朝子の胎内に隠れたガブリエルとリリスはそこで魔女の母親の血を継いだ娘と天使の父親の血を継いだ息子の双子を成し、朝子の身を母体としてテレサとユンクを出産させていたのだ。

そして天使長ミカエル率いる神々と、イシュタル率いる魔軍との戦いの火蓋が切って落とされる。 

「われに宇宙の正義あり/万物の真理あり/断じて魔の存在を許すまじ!!」

「義は神のみの属性にあらず/勝者すなわち正義の使途なり/勝利の冠を得たのちは/人はわれらを『神』と呼ぶべし」

ミカエルもイシュタルも、互いに己らが存在こそ正義であると信じて疑わない。そして神軍、魔軍の先鋒はともにテレサとユンクである。

【神と魔が予期せぬことをまして人間が知ろうや/次元を超越した戦いがふたりの戦いが生む波動が三次元空間にひずみをきたし/そのショックが全地球の核弾頭を破壊することを!!】

人間達は何ごともなく永遠に続くと信じて疑わない平凡な日常生活の中、恐らく自分達の身に何が起こったのか知る間もなく、世界中すべての核が同時に爆発を起こしたことにより、地球上の生命は一瞬にして滅亡する。核シェルターに避難して命は守られたものの、閉鎖された空間で極限状態に追い込まれた人間達は欲望を剥き出しにして恥態と醜態の限りを晒し、いつ訪れるかわからない滅びの道しか残されない哀れな可能性だけを残し、生き延びる。

「デビルマン」の飛鳥了ことサタンは人間としての仮の姿が了というれっきとした男性でありながら、実体は両生具有の堕天使、元天使長の暁のルシファーであるが故に不動明を愛してしまったが、明には既に美樹という最愛の女性がおり、叶うはずのないあまりに一方的な片思いに過ぎないが、「セイントデビル」のテレサとユンクは実の姉弟にして魔女と天使という相対的な存在ながら、限りなく近親相姦的な愛情と愛憎の関係にある。

デビルマン最終話で了は明も地球上の生命も愛もすべて失ったが、テレサとユンクは【殺し合い】ならぬ【殺し愛】の果てにも、その愛は決して失われない。

ガブリエルとリリスは朝子の体を借りたまま、息絶えたテレサとユンクを、その手に初めて我が子らを抱きながら、天使の梯子がいくつも射す雲上の中、天に昇るーー。

《人の終わりたるときは始めに過ぎず 彼のやむるときは惑いのうちにあらん 人は何なるか 何の用か彼にある その善は何なるか また その悪は何なるか》

©️講談社漫画文庫全②巻/電子書籍なし

















いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集