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なぜnoteをはじめようと思ったか

なぜnoteをはじめようと思ったか。

きっかけ 〜読書との再会〜

学生生活の終わりから社会人生活の始まりへの移行は、想像だにしなかった状況が世界を覆う時期と重なった。不要不急の外出を控えた数ヶ月、本を読むことの面白さを思い出した。

小学生の頃は、ジュール・ヴェルヌの夢溢れる科学の世界や、コナン・ドイルの描く名探偵の活躍、人も自然も分け隔てなく豊かな交流を繰り広げる宮沢賢治の美しいイーハトーブに心惹かれたものだったが、中学校以降、勉強や部活動が生活の中心を占めていったために本の世界からは離れていた。題名や著者名だけは知っているけれど……という作品が増えていくことから目を背け続け、気付けば大学院生として送る月日もわずか。冒頭の状況も重なったことで、本に手を伸ばすに至った。

本を複数読むと、ある本のメッセージが他の本でのメッセージに重なることが度々あった。著者も時代も、作品全体の持つ意図も異なっていても、である。この面白い現象——メッセージの読み取りを解釈が媒介しており、その解釈には読者私自身の興味・関心が多分に反映されることに起因するものであろうが——の一例が「文章とデカルト、谷崎、外山」だった。

デカルトと「近代」はもはや不可分。

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ルネ・デカルト(1596-1650)は「現在の科学技術文明を基礎付けた、『近代哲学の父』とも呼ばれる哲学者」(梅原, 2013 *1)である。哲学、というと人文科学の一分野のイメージが強い。大学で「哲学」を学べるのは文学部、となっていることもこのイメージを確かにするものだろう。
しかしながら、哲学の原義は「知を愛する(φιλοσοφία)」であり、哲学の対象は様々なものに及ぶ。直交系座標の発明はデカルトの業績であるし、彼が『方法序説』で唱えた「明証・分析・総合・枚挙」の内、特に「分析」は要素還元主義に大きな影響を与え、物理学や化学の発展をもたらした。

多少とも重要だと判断するすべてのことを、その真理の発見に応じて書きつづける、しかもそれを、印刷させようとする場合と同じくらいの周到な注意をもって書きつづけることが本当に必要なのである。
(デカルト,1637)*2

当時のヨーロッパでは1633年のローマ法王庁によるガリレイ断罪をはじめ、新しい科学・哲学は中世に育まれた規範から弾圧を受けていた。そんな中でデカルトは先の文章を残した。幸いにして日本国憲法は言論の自由を保証し、世界人権宣言でも謳われている。インターネットの普及した現代、文章を残し広めることへのハードルは格段に低くなった。一方でSNSとポピュラリズムの結びつきは憂慮すべきものがある。


谷崎の文章はうつくしい。

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谷崎潤一郎(1886-1965)は東京日本橋生まれの小説家である。『陰翳礼讃』『細雪』あたりが代表作として紹介されるようだ。晩年はノーベル文学賞の候補となっていた(サルトルが受賞拒否した1964年も谷崎は候補だった)。『文章読本』はそんな彼の美しい日本語に浸りつつ、「日本語の文章を書く心得」に触れることができる。

鑑賞者の側に立つ人といえども、鑑賞眼を一層確かにするためには、やはり自分で実際に作ってみる必要がある、と申すのであります。
(谷崎,1934)*3

谷崎はこの文章に続けて音楽、舞踏、料理、美術、演劇の例を挙げ、自分で経験することで感覚が鋭敏になり、鑑賞力が進歩することを説いている。

言語は万能なものではないこと、その働きは不自由であり、時には有害なものであることを、忘れてはならないのであります。
(谷崎, 1934)*4

谷崎ほどの文筆家でさえも(あるいは、だからこそ?)言葉にこのような考察を与えていることには注目したい。


今年7月、外山滋比古氏は惜しくも鬼籍に入られた。

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外山滋比古(1923-2020)は愛知県生まれの英文学者、言語学者。東京教育大(現 筑波大)やお茶の水女子大、昭和女子大などで教鞭を執り、現評論やエッセイでも活躍した。

思考は、なるべく多くのチャンネルをくぐらせた方が、整理が進む。頭の中で考えているだけではうまくまとまらないことが、書いてみると、はっきりしてくる。書きなおすとさらに純化する。
(外山,1986)*5

書くことの効用をエッセイストにこのように書かれてしまうと、この上ない説得力である。


……こういう訳で、noteを始めようと思った。

(唆されたことにしてしまおう、という魂胆である。)


これから

こんな調子ではじめてしまったので、文学作品についてこれから語るのだろう、と予想されるのが道理。
、本を読むことを再開したのはこの数ヶ月。様々な著者に触れることから進めている段階で、とても文学作品のみでは話題を持たせることができない。長く続けてきた音楽、高校生頃からの名勝・史跡巡り、大学生の頃に魅力を知った美術。こんなあたりの話が出てくることになりそうである。

文章にすることで、これらの世界への理解を深めたいと願いつつ。


出典

*1  梅原猛(2013).人類哲学序説 岩波書店 p.41

*2  René Descartes (1637). Discours de la méthode(ルネ・デカルト 谷川多佳子(訳)(1997).方法序説 岩波書店 p.87)

*3  谷崎潤一郎(2016).陰翳礼讃・文章読本 新潮社 p.198

*4  谷崎潤一郎(2016).陰翳礼讃・文章読本 新潮社 p.127

*5 外山滋比古(1986).思考の整理学 筑摩書房 p.139




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