The 備前 岡山県立美術館
素朴でありながら多彩な表情を見せる備前焼。この焼きものの魅力をアピールする巡回展「The 備前」は東京国立近代美術館工芸館を皮切りとし、窯業地と縁ある全国各地の美術館を経て、故郷岡山へ帰ってきた。岡山県立美術館での展覧会(https://c.sanyonews.jp/event/zabizen/)に接することができたので、そのメモ。
備前焼とは
備前焼は岡山県東部、備前市伊部(いんべ)地域を中心に生産される焼きもの。焼きものといえば光沢のある表面がイメージされそうだが、備前焼はガラス質となる釉薬を施さないため、土そのものの風合いが特徴となっている。
(画像は岡山県立美術館HPより)
展覧会概要
「The 備前」では備前焼の魅力が3章構成で紹介された。
Ⅰ章 源流としての備前焼ー茶の湯のうつわを中心にー
備前焼と茶の湯は切っても切り離せない関係がある。備前焼が脚光を浴びた桃山時代から江戸時代初期の花入、水差、茶碗、茶入れが中心の展示。本来作品ではなく、窯焼きのときの道具として使われる陶板(大きな甕を焼くときにこれで蓋をし、この板の上にも器物を置いて焼く。備前焼は窯焚きに日数がかかるため、効率化を狙ったもの。)が並べられていたのが興味深かった。なるほど、「牡丹餅」と呼ばれている器物の痕跡が面白い。
(陶板 画像は岡山県立美術館HPより)
II章 近代の陶芸家と備前焼ー写しと創作ー
人間国宝。文化財保護法においては「演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(以下「無形文化財」という。)」と規定されている。要は文面上、無形の「技」を保護することとなっているが、その「技」を持つとして認定された人がいわゆる「人間国宝」として称される。
備前焼は金重陶陽、藤原啓、山本陶秀、藤原雄ら人間国宝を多く輩出してきた。桃山時代のうつわが持つ美観を取り込もうとした彼らの作品に迫る展示。
改装のため閉館中となっている岡山県立博物館所蔵の古備前展示もあった。
III章 現代の備前焼ー表現と可能性ー
備前焼の魅力を踏襲しつつも、新しい表現の可能性を探る作家たち。素朴な風合いはそのままに独自の造形を現したもの。備前焼特有の表情を表現として活かしたもの。現在進行形の「備前」がここにあった。
この章は撮影可となっていた。
所感
歴史ある工芸だけに、作家の血縁関係が目に付くところではあった。江戸時代に整った窯元六姓のうち森・金重が今なお備前焼の中心的存在として続いていることはその象徴である。一方で、長崎出身の隠﨑隆一、岡山出身ではあるが窯元の家系ではない(と思われる)島村光らの作品も、ネイティブでないからこその表現のように思われ興味深いものであった。
本展覧会において、血縁関係にある作家は次の画像のようであった(太字が本展覧会展示作品製作者、赤字は「人間国宝」)。
展覧会巡回の様子
この展覧会は国立工芸館館長・唐澤昌宏氏の監修によるものであった。愛知県立芸術大学大学院美術研究科修了、愛知県陶磁美術館学芸員を経て、2003年に東京国立近代美術館主任研究員、2010年より館長となった人物である。なお、国立工芸館は2020年10月25日に金沢市にて移転オープン予定である。
展覧会は窯業地と縁ある全国の美術館を巡った。
・栃木(益子焼)の益子陶芸美術館
2019年5月14日-6月30日
http://www.mashiko-museum.jp/museum/ex190514/index.html
・山口(萩焼)の山口県立萩美術館
2019年7月13日-9月1日
https://www.hum.pref.yamaguchi.lg.jp/exhibition/special/2019/07/036355.html
・滋賀(信楽焼)のMIHO MUSIUM
2019年9月14日-12月15日
http://www.miho.or.jp/exhibition/the-bizen/
・兵庫(丹波焼)の兵庫陶芸美術館
2020年3月7日-7月26日
https://www.mcart.jp/exhibition/e3104/
・愛知(瀬戸焼)の愛知県陶磁美術館
2020年8月8日-9月27日
https://www.pref.aichi.jp/touji/exhibition/2020/t_bizen/index.html
巡回の幕開けは東京国立近代美術館であった。
https://www.momat.go.jp/archives//cg/exhibition/thebizen2019/index.htm
同じ展覧会であっても、フライヤーデザインがヴァリエーション豊かなことも、面白い。