【短編】3本
お父さんが疲れた表情を浮かべながら、帰ってきた。僕らはそれを受け入れ、迎い入れる。
「おかえりなさい」
お父さんは袋を取り出すと、僕に渡した。
「今日は3本だけだったよ。すまないね」
残念そうに溜息を洩らす。このところ、本数が減っているのは僕にもわかる。取れなくなりつつあるんだ。
「お母さんは台所か」
僕は頷いた。
夕飯の前にお父さんとお風呂に入る。
「最近はどうも上手くいかなくてな。本数が減ってるんだよ。こればかりは支給物資に含まれないからな。とりあえず、俺たち家族分だけでも頑張らなくちゃって、必死になってな」
僕の頭を洗いながら、お父さんはつらつら話した。
「隣町の連中も新しい技術を使った防御壁を作ってて、それがなかなか攻略できないんだ。笹本さんも策を練ってはいるが、一人ではどうしようもなくてな。俺が口出しするのも気が退けるし」
お風呂から上がると、お父さんは配給ビールを飲みだした。週に二瓶だけ支給されるビールは、僕が生まれる前にあったものより、相当味が落ちているらしい。僕も一口もらったことがあるが、あんなに苦いものの何が美味しいのだろうか。もちろんお母さんに怒られていた。
「さあ、そろそろ食べましょうか」
お母さんが小さいお皿に、フライにしたそれを乗せてテーブルにおいた。
「ケチャップは?」
お父さんはこれにケチャップをつけて食べるのが好き。僕は醤油だと思うけど。お母さんは塩らしい。シンプルが一番いいと言っていた。
配給米はパサパサしているので、スープに入れて食べる。野菜も好き嫌いなんてできない。今はなんでも食べなくちゃいけない。残すこともできない。というよりも、残すだけの量もないのだ。
家畜が消え去った、あの戦争以降、お肉を食べることができなくなった。魚も海上汚染の影響で変異し、人間にとっては毒となった。
お肉が食べたいという欲求は次第に膨れていった。そこで国はある法律を制定した。
各地域を一つの母体とし、他の地域の人間を食べてもいいと。初めは頭が狂ったようだと人々は嘲笑したが、ひとり、またひとりとその味を覚えていくうちに、奇妙さが当たり前となった。
しかし、食べるために命を奪ってもいいのだろうか。既におかしくなっている世の中だが、生殺与奪については考える。そこで殺さずに、一日の必要な最低限のタンパク質と味を楽しむために、指だけの制限がついたのだ。
難しいことは僕にはわからない。
でも、これには醤油が一番合うと思っている。
肉を削いだ骨を口から出す。
「ごちそうさまでした」
明日もまた、これを食べて生きていく。