【短編】怪獣
どんなにあり得ないことが起きたとしても、日常は流れていく。
夕方にテレビでワイドショーをボーっと眺めていると、突如、緊急放送に切り替わった。
どうやら怪獣が現れたらしい。
都内のビル群を破壊しながら、ズンズン突き進む怪獣の映像が画面いっぱいに映し出される。さっきまで、暇で暇でしょうがなく、床に同化しそうになっていた。なのに、数秒後には日常が崩れていく。怪獣。なんだ、あれは。
美咲は丁度、夕飯のおかずを買いに出かけたばかりだ。
「今日何がいい?」
いつものように聞かれたので、面倒くさそうに返す。
「なんでも」
ムスッとした声で、少し怒りながら「バカ」と言い放ち、出ていってしまった。
美咲が行ってしまった後に、中華丼が食べたい口になってしまった。うずらの卵とヤングコーンときくらげがふんだんに入った中華丼。それに馬鹿みたいにお酢を掛けて食べるのが美味いのだ。少し咽ながら掻き込む幸福感。
怪獣はドンドン宛もなく歩き続けている。線路に入ると、怪獣の足にぶつかった車両が煙を上げて宙を舞っている。気にも留めずに、歩く姿は宛ら勇敢に見えた。ヘリコプターで撮影中のリポーターを怪獣の尻尾が襲う。画面は真っ青に染まり、唖然としているアナウンサーに切り替わった。
急に尿意に襲われ、トイレに走っていく。夕暮れのトイレはなんだか寂しい雰囲気を醸し出している。なかなか出ない。こんなにも尿意は頭の中を襲っているのにも関わらず、なかなか出ない。こうしている間にも、怪獣が街を破壊している。
出すものを出し、リビングに走り込むと怪獣は炎を吐いていた。青い炎が高速度道路を覆っていた。
美咲が息を切らしながら、限界に飛び込んできた。
「ね、ねぇ。テレビ見てる」
顔を真っ赤にして美咲がリビングに走ってきた。買い物袋から、きくらげのパックが見えた。
思いが通じたのか。今日は中華丼かもしれない。
「あ・・・」
テレビの画面を食い入るように見つめる美咲の口から、吐息が漏れていた。きくらげのパックの下には、缶詰のヤングコーンが入っていた。ビンゴ。今日は食べたかった中華丼が食べれる。
「ねぇ、うずらの卵は」
「え・・・あぁ、忘れてた」
「アレがなきゃ、中華丼がしまらないよ」
急にビンタされた。