"無理ドラム”について【ボカロリスナーアドベントカレンダー】
こちらは「#ボカロリスナーアドベントカレンダー2022」の参加記事になります。
なんと、第二会場もあるよ!
私は12/2の担当です。ギリギリ間に合った!
それでは本題いっくよ~~~
※前提
本題……の前に!
この記事の前提となる話を先に書かせてもらいます。
・タイトルの通り、ドラムにフォーカスした記事となります。平常運転です。
・ドラムの中でも、クラブミュージック等の打ち込み楽曲ではなくいわゆる生音、実際のドラムで演奏してそうな音をしたものが対象です。
・無理ドラムと言ってますが、決して貶す意図はありません!詳細は後述するので、まずはそれだけ。
以上です。
では改めて、本題へゴー!
”無理ドラム”とは?
最初にタイトルの解説を。
結論から言うと、これは私が勝手に作った造語です。
「演奏が困難なフレーズ、もしくは演奏の際に違和感のあるフレーズを用いたドラム」という意味で使っています。
だいたい文字通りですが、例外も多々ありです。
さっそく曲を挙げて説明しましょう。
・BPMに対して手数が速すぎるドラム
まずはこちら。
イントロでは超高速でツクチーツクチーツクチーとハイハットが鳴っており、Aメロではひたすらツクツクツクツクツク・・・と刻んでいます。さながらビートマシン。
これはマメ知識なのですが、BPMが高いというのはニアリーイコールでドラムがしんどいということです。音ゲーやる時とかライブで曲のリズムに合わせて乗る時も、曲がめっちゃ速かったら体が間に合わなくなりませんか?それと大体一緒です。
さらに問題なのがバスドラ。ハイハットが裏打ちしているのに対し、バスドラは4つ打ちでなく8ビートのリズムで踏んでいます。”ハイハットが裏打ちでバスドラが4つ打ちでない”曲は、ドラムの難易度が1,2段階上がります。聞いてるか?「ぼっち・ざ・ろっく!」・・・
「ローリンガールって叩いてみた動画あるじゃん!演奏可能じゃん!」という意見もあるかもしれませんが、そういった人たちは超人だと考えてください。超人のレベルを人間に求めてはいけない。あとはアレンジして演奏している方もいるので、全員が原曲再現をしているわけではないというのもあります。
現にこの曲、作者のwowakaさんが立ち上げたバンド「ヒトリエ」のライブでも披露されることがあるのですが、そちらでは原曲通りでなく、もっと手数を抜いて演奏しています。なんなら裏打ちもしていません。(ヒトリエのドラム担当であるゆーまおさんの名誉のために注釈しておきますが、あの方ならおそらく原曲通りに演奏するのも可能だとは思います)
世のドラマー達は、「ライブでローリンガールやろうぜ!」と言われたら安心してヒトリエバージョンで演奏しましょう。
こちらはビートマシンというよりは、総合的に複雑なリズム取りやフレーズがそこかしこで見られ、それがBPM200での演奏を求められているという点で難易度が高いです。高BPMは暴力。
ただここでお伝えしたいのは、作者のツミキさんは現役のドラマーであるという点です。つまり「演奏難度が高いことを承知の上で作った」もしくは「意図的に演奏難度を度外視して作った」ということ。
演奏が難しいドラムになってしまうというのは、裏を返せば難しいドラムフレーズも簡単に作れることになります。これがDTMのおもしろいところ。リスナーにとっては演奏可能だろうが不可能だろうが関係なく、良ければ良いんですよ。DTMが広く一般化したことで昔では考えもしなかったようなドラムを作れるという点で、ドラムの可能性が大きく広がったと言えます。
演奏こそ困難ですが、この曲のドラムは個人的にもとても好きです。5拍子のイントロにポリリズム的なビートを乗せる部分や、間奏の雨のようなスネア連打が特に。じゃあ演奏してよと言われたらキレますが。
冒頭で「貶す意図はない」と述べた意味が伝わったでしょうか。
では次の曲を。
・ハイハットの仕事量が多いドラム
冒頭の0:08~あたりから16分の刻みに複雑なタイミングでアクセントが入っています。それだけならまだいいのですが、リズムはそのままに途中からスネアが追加されます。そこからイントロ後のAメロ(0:48~1:03)あたりではさらにゴーストノート、ブレイク、フィルといった要素も追加され、おそらく演奏再現は不可能なんじゃないかというレベル。あまりに難解すぎる。
私が過去にベタ褒めしている推しPのトーマさんも、こういったタイプの曲を投稿しています。
2番Aメロ、動画時間にして1:16~1:28付近では16分と8分が入り乱れる刻みに、こちらもまた難解なアクセントが入っています。これは演奏可能だと思いますが、実際の演奏を想定していないDTMならではのフレージングを感じます。
トーマさんもドラム経験者であるためこれは作為的なものだと思われます。他の曲でも演奏可能ではあるものの実際の演奏であまり見られないような挑戦的なドラムが散りばめられており、その絶妙なバランスに自分はハマっているのかなーと。
再現可能かどうかに良し悪しは関係ないという例その2です。
・腕が2本では足りないドラム
イントロの本格的な演奏が始まる前、0:09~0:24あたりの部分を聴いてみてください。
以前書いたnoteで取り上げている、スネアの音とクローズリムが入り乱れています。(スネアとクローズリムがわからない方は参考までに読んでみてください)
普通にスネアを叩くのとクローズリムでは叩くのに使うスティックの持ち方が違うため、この密度で入り乱れたフレーズを片手で叩くことはできません。
やろうとするなら片手でリムショット、もう片方の手でスネアを叩くことに鳴るのですが、同時にハイハットも叩いているので腕2本では叩けないフレーズなんです。腕が4本あるカイリキーなら演奏可能です。
続いてもう1曲。
これについては画像を使って説明しようと思います。まず、ドラムの演奏について。
ドラムというのは、両手両足を使って演奏しています。
左側と真ん中になんか踏むところがあり、ここに左足と右足を置きます。そして上向きになっている太鼓やシンバルやらを両手で叩く、というのがドラムの演奏です。
では本題に戻って、上に貼ったモザイクロールについて。
これモザイクロールの、冒頭のドラム部分を抽出したMIDIノートです。
注目してほしいのは赤丸部分。
これらはどちらも手で叩いているのですが、このうち下の赤丸部分の5つは両手でスネアを交互に連打するフレーズになります。
また、よく見ると下の赤丸部分の5つ目は上の赤丸と同じタイミングで叩いていることがわかります。つまり最後の5つ目ではドラムの2箇所を叩いている、両手を同時に使っているってことです。
両手で交互に連打した直後に両手を同時に使っているということは、どちらか片方の手が連続で叩いていることになります。
たとえば下の5連打を右、左、右、左、右で叩くとしましょう。上の赤丸は5つ目と同時に叩くので、空いてる左で叩きます。そうすると、4つ目でも5つ目でも左手で連続して叩くことになります。伝わってますか…?
これの何が問題かというと、両手で連打するというのは片手で叩くのでは間に合わない手数だから両手を使っているというところです。間に合わないから両手で交互に叩いているのに、4つ目と5つ目で同じ手を使っているのでは結局間に合いません。
そんなわけで演奏が不可能もしくはとても困難で、違和感なく演奏するには腕が足りないのがこのフレーズ。カイリキー案件です。
これ、ドラムの演奏方法をある程度知った上で作る必要があるのでけっこう難しいと思います。実際の演奏に寄せたロックを作ろうと思っている方は意識した方がいいと思う一方で、先に述べた通りDTMならではなフレーズでもあるので、こういった既存のフォーマットを顧みない考え方から革新的なフレーズが生まれると考えれば個人的にはおもしろいと思います。
ちなみに、今回の場合もしこれを回避したい時の解決法はざっくり2つです。ひとつはこの「モザイクロール」のリメイク版で用いられています。
いまやお馴染みのタッグとされているRockwellさんの編曲によるリメイク作品ですが、同じ部分を抽出したのがこれです。
下の赤丸部分が変わっていますね。具体的には2~4つ目で叩く場所が変わっていますが、重要なのは4つ目。
ここで叩いているのは”バスドラ”という、右足を使って叩く横向きの太鼓になります。上のドラムセットの画像だと、真ん中下に鎮座してるでっかいやつ!
つまり4つ目で手ではなく足を使っているため、「4つ目と5つ目で手が連続する問題」を解決しているのです。
解決法その2。
曲中では1サビ中間、1:00~1:01あたりです。
先ほどの例は「4つ目までのフレーズを変える」でしたが、こちらは「5つ目のフレーズを変える」です。厳密に言うと5つ目のスネアを抜いています。
4つ目と5つ目を叩く手が連続するのが問題なので、要は前半を変えるか後半を変えるかという違いですね。
「アザレアの亡霊」で上に紹介したトーマさんですが、こういったカイリキー案件はしれっと回避しているあたり、ドラム経験者としてのスキルを感じます。
・演奏の際に違和感のあるドラム
では最後です。”無理ドラム”の定義の後半にフォーカスをあてた部分ですね。
これなんですが、ここまでの項目のように一貫性のある要素がなく、非常に説明がしにくいです。
そういうわけで「結局お前、曲のことディスってるよね?」という怒られを回避する意味でも、ここでは個人的に好きな無理ドラムを紹介することで煙に巻いていこうと思います。
「演奏時に違和感のあるドラム」の、個人的な代表例がこの曲。該当部分はAメロ(00:21~00:32)、2番にあるCメロDメロ(1:28~1:50)です。
おそらく「地球最後の告白を」の1A前半のような、刻みとバスドラがメインになるパートから着想を得たリズムだと思うのですが、アクセントとなるスネアやタムの位置がほぼ確定していて毎パート登場するという、ビートの一部とされているところが”違和感”の理由です。しかもここからフィル等が付け足されることはなく一定した進行だというのが、「ずっと同じペースで変なことしてる」という良い意味の気持ち悪さがあります。
これがマジカルミライでも流れたわけですが、このビートを大部分で汲んだ演奏だったことでドラマーに感動した私の気持ち、伝わるでしょうか!?
ちなみに2020年に投稿されたリメイク作品「二息歩行(Reloaded)」では、原曲の異質なビートをより聴きやすいようにカジュアルに、それでいて手数マシマシにアレンジされています。
最初の方で紹介した「スイサイ/アンブレラ/ロクガツ/ドライフラワ」の作者であるツミキさんの曲です。
こちらはBPM151とスイサイと比べると大人しめではあるのですが、16分ウラのキメや非常に空白の少ないブレイクなど、とにかく詰め詰めな曲構成が特徴。それなのに抜群にライブ映えするつくりになっているため、これがライブ演奏された場合は観客が忙しすぎて死にます。
でもキメのタイミングや音選びがとにかく良い・・・1Aの『群がって競って生命線』でバスドラだけになるところとか、2番Aメロ最後でスティックカウント入るところとか、絶妙。
電ポルPの初期曲はけっこうおもしろいフレーズが使われることがあります。この曲は1サビ後のフィル。
最初の2発はフロアタムも入っているのに2回目の2発では直前にハイハットを入れたせいかフロアタムが入っていないところとか、最後のフィルの直前はバスドラなところとか。なんというか、名状しがたい独特なノリがあるのがとても好きです。
3:12~3:20あたりのラスサビ前の盛り上がり、シンバルが乱舞していてドラムの一番の聴かせどころだと思うのですが、この最後でハイタム→ロータム→フロアタムの3発が鳴っています。
ここは両手で交互に思いっきりシンバルを叩きたいところなのですが、タムを叩くためここだけシンバルを片手で連打することになります。はるまきごはんさんのライブでも披露された楽曲だと思うのですが、この部分は実際どうやって演奏されていたのか気になるところです。
とはいえドラム目線で見た時にこのパートが曲中の花形であることは疑いようもなく、一気に熱量を上げてラスサビに繋ぐこの進行はめちゃめちゃエモい。大好きです。
該当箇所は1番2番のAメロである0:23~0:33と1:12~1:22、サビ前半の0:55~1:04と1:44~1:54、間奏の2:11~2:20、そしてラスサビ2回し目の2:40~2:55です。多い!
ここで使われているのが頭打ちというリズム(この記事参照)ですが、ただの頭打ちでなくAメロでは前半途中でスネア連打がしていて、後半で頭打ちをやめて8ビートになっています。サビと間奏では後半でも頭打ちを続けたり、8ビートになったりを規則的に切り替えています。
この複雑な切り替えや連打のカットインはかなり珍しいビートだと言えます。「二息歩行」で述べたのと同じで、これがフィルのようなアクセントとして使われるのではなく、一定したビートの一要素として用いられているのがかなりおもしろい。連打も曲の疾走感を上げているようで、心地良いです。
ざっと例を挙げてみました。
紹介曲が多くなりましたが、ここが「演奏を考慮しない、打ち込みとしてのドラム」のおもしろさが最もわかりやすく出ている部分だと思っています。
どのドラムも生演奏を想定した時に暗黙のうちに敷かれるフォーマットを打破しているので、作曲者の持つノリやグルーヴ、曲の進行に対する考え方がよりダイレクトに表れているんです。
あとがき
以上、「”無理ドラム”について」でした!
今日のボカロシーンを追っている方は、いま台頭している曲たちから「先鋭的であること、革新的であること」のおもしろさを肌で感じていることでしょう。
ドラムに注目した時、その斬新さを生み出すひとつの要素となるのがこの”無理ドラム”である。私はそう思っています。
もちろんリアルな演奏に寄っていることの素晴らしさが色褪せることはありません。なんなら私は、どちらかといえばそういったタイプの曲が好きなことが多いですし、生演奏を録音したボカロ曲を聴くのはテンション上がります。
だからこそ自分の持つ常識に縛られないドラムを聴いた時に、そしてそれを好きになった瞬間に、我々は新しい世界を目にすることができます。
音楽ってまだまだ可能性がたくさんあるね!楽しいね!
・・・ってことで良い締めになりましたか?w
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