【ボカロで学ぶ】ドラムにおける「フィル」「キメ」「ブレイク」について
こんにちは!!
今年もやってまいりました、
ボカロリスナーアドベントカレンダー企画!!!!(2回目)
今年も満員御礼、ゆるめの2枠目が生まれる盛況ぶりです。私は2枠目の方でも参加してるのでそちらの記事もぜひ。
さて、今回のテーマはタイトルにある通り「フィル」「キメ」「ブレイク」です。
この記事を書く発端となったのはこちら!
この記事中で「フィル」「キメ」が最近のボカロ曲でどれくらい使われているのかといった話が、またそれに付随して「ブレイク」についての所感が書かれています。これに便乗しようという記事です。
とはいえ、便乗といっても1週間足らずでこの記事と同じように調査するのは時間的に無理があります。そこで、記事中でも定義の説明自体はありましたが、自分が重点的に話せるドラムの観点でこれらの要素をもう少し深堀りしていこうかなと。
まずは、言葉の定義
順番にいきましょう。
ここは由緒正しき「リズム&ドラム・マガジン」の用語解説を参照します。
どれも厳格な定義はない
ひとまず定義を貼りはしましたが、これらは厳密に定められたものではありません。
セクションや小節の繋ぎでない場面で使われるフレーズを"フィル"と呼ぶこともありますし、"キメ"を必ず決められた通りに演奏するとは限りません。ブレイクについては説明で示唆されている通り、演奏者全員でなくてもブレイクと呼ぶケースがあります。
"サビ"の定義があやふやなのと一緒ですね。音楽には例外がつきものだと考えていただければ。
さらに厳格な定義はないということがどうなるのかというと、この後具体的に例となる曲を挙げて「ここでフィルやってますね!」といった話をしていく予定なんですが、そこでフィルだと指摘したフレーズが他の曲でもフィルとは限らない可能性もあります。解説をするためにこうして要素を抜き出してお話ししていますが、実際には曲の前後の流れが密接に絡んでいるので、全部が全部画一的に捉えるのは難しいんです。なんてややこしいんだ。でもそれが音楽の深み、おもしろみでもあります!
※後から注意書き
定義を読んで気付いた方もいるかもしれません。この「フィル」「キメ」「ブレイク」はどれも様々な音に対して適用できるテクニックです。ベースのフィルもあるし、ギターのキメもあります。
ここで皆さん、記事タイトルをご覧ください。そう、この記事ではドラムに基準に書いていきますのでそのつもりでお願いします。
理由は単純、私がわからないから!!有識者による様々な音から見た解説をお待ちしております。
またこれらは三角形と四角形のような排他的な分類ができるものではありません。フィルでもありキメでもある、といったことは十分起こり得るので(というかその例についても触れます)、そのつもりで読み進めてください。
さて、ここからは各要素について焦点を当ててより詳細に書いていきたいと思います!例となる曲の下に「この再生時間に注目して聴いてね!」という指標を置いておくので、参考にしながらどうぞ。
個別解説 ~フィル編~
ではいよいよ、具体的なフレーズを交えて考えてみましょう。
・・・・・・と、その前に!
フィルの定義についてもう少し深く書かせてください。
どこからがフィルなのか
「急に何を言っているんだ?」と思うかもしれませんが聞いてください。
先ほどの定義を見ると、フィルは繋ぎとして使われるフレーズということですよね。ではそれ以外のドラムは何なのか、という話になりませんか?
繋ぎとしてのフィルということは、メインで使われているドラムフレーズがあるはずです。このメインのドラムフレーズは"ビート"と呼ばれるものです。8ビートとか、4つ打ちとかがビートの一種ですね。これらはセクション内で多少の変化はあれど大枠で決まったフォーマットのあるものです。
ビートの話を深堀りしようとすると話が大きく逸れてしまうので今回はしませんが、つまりこの8ビートとか4つ打ちとか、そういったビートから異なる動きを見せているフレーズがフィルなのだ、と考えることができるでしょう。
定義が厳密でない以上「ここからはフィル」という考え方は人によるもので、ここではあくまで「自分の思うフィル」というのを軸に説明させてもらうことはご承知おきください!
お待たせしました、ようやくフィルの具体例に入っていきます!
まずは、わざわざスクロールするのが面倒だと思うので先ほどの定義をもう一度貼っておきますね。
フィル具体例①
(冒頭)
説明のわかりやすさの上で「最初にそこそこ長いフィルがある有名曲」を考えた時、最初に思い浮かんだのがこの曲でした。このドコドコやってる感じ、これがフィルです。
聴き取りやすさを優先しすぎて先ほどの定義にあった『各セクションや小節の繋ぎとして使われる』と違うんじゃないかと思われてしまうかもしれませんが、ここで言われている繋ぎとはつまり"次のセクション、小節への橋渡し"ということです。この曲においてはイントロへの橋渡しをしているということですね。
(冒頭)
先ほどの曲と比べると短いですが、こちらの最初にある「ドドターン!!」というドラムフレーズも立派なフィルです。次のセクションを予期させるような役割を果たしていれば長かろうが短ろうが関係ないってことですね。
(冒頭)
長さは関係ない、ということは1回しか叩いてなくてもフィルだと言えるということです。一番最初にドゥン!!って鳴っている音がありますね?これ、フィルです。
(0:36)
先ほどの例はさすがに最初の一瞬すぎてわからないよ、というみなさんの声(妄想)にお応えして、曲の途中で入っている例も出しました。
ドラムンベース地帯に入る直前でスネアが1回叩かれていますね。これも後に違った展開になるだろうという示唆をもたらすフレーズとしてフィルと言えるでしょう。
フィル具体例②
まずフィルが聴こえやすいようにということで少々特殊な冒頭のフィルをまず説明しました。次はオーソドックスなフィルを見ていきましょう。
(1:39~1:40)
曲中で使われているフィルとなるといくつもあるのですが、その中でも1サビの直前をピックアップしました。フィルをなんとなく体感で理解している人からしたら、こういうフレーズの方が馴染みがあるかもしれません。
次にくるサビへ向かうためにボルテージを上げていく意味合いで使われているフィルになります。
ちなみにこちらの曲も冒頭でフィルが鳴っています。スネアが2発叩かれていますね。
この曲を始めとした4拍子の曲においては4や8がリズムの基準になるのですが、ここでは4連打ではなく2連打、それも冒頭です。最初から音を鳴らすのでは4連打よりも2連打の方が早く曲に入るので、その分疾走感や青さを感じられます。
(0:05~0:06、0:42~0:43、0:53、1:03~1:04、1:40、1:51、2:02、2:24、2:34)
急にものすごい数書きましたが、同種のフィルを抽出しました。これまではイントロやサビの直前といったわかりやすい場所にありましたが、ここで挙げているフィルはAメロの真ん中だったりサビの真ん中だったり、ちょうどいい切れ目ではあるのですがセクションの繋ぎ目とは違うところにありますね。こういった場所にあるものもフィルです。上の定義だと『小節の繋ぎ』と言われていたのに相当するのがここです。
このように、後の展開への架け橋として用いられるフィルは小節やセクションの最後に配置されることが多いです。
繰り返しますが上で再生時間単位で取り上げているのは同種のフィルについてなので、フレーズの異なるフィルも他にあります。そう考えるとフィルってたくさんあるんだなと感じませんか?多い曲は隙あらばフィルというくらいの頻度で出してきたりします。
フィル具体例③
(2:22~2:23、2:29~2:30、2:41~2:42)
これまでは次のセクション、次の小節への繋ぎとなるフィルを紹介してきました。しかしここで紹介するのはむしろ小節の頭で使われているフィルです。直前に「フィルは小節やセクションの最後に配置されることが多い」と言いましたが、さっそく例外です。
これまでのパターンと違うタイミングでフィルがくることで、意表を突くような音使いになっているのが伝わるでしょうか。こういった用法もあります。
個別解説 ~キメ編~
次はキメの話いってみましょうか。
ここもまずはキメの定義を貼り直していきます。
キメ具体例①
(0:22~0:28)
『この夏』『今世最大の』『現実が』『やってくる!』というテロップに合わせて鳴っているのがキメですね。ジャーーン!!という陽気な音と同じタイミングでドラムを叩いています。
キメとはその名の通り決めどころで、タイミングを合わせて音を鳴らすことで強調されてリズムのアクセントになります。たとえばライブなどでこの曲が流れたら、キメのタイミングで拳を突き上げたりジャンプしたりしたくなっちゃいます。
(2:01~2:07)
2サビの後のセクションに注目してください。ここは音が絞られているのと、リードギター以外の全ての音が同じリズムで鳴っているのでわかりやすく聴こえるでしょう。
映像による効果もありますが、2サビまでの華やかな曲調から一転して緊張感が漂っていると思いませんか?ここはフィルの時に話した"ビート"が存在せずキメのみとなっているセクションで、規則性のあるリズムではないのでいつ音が鳴るかわからない、という意味で緊張感が表れています。さらにその後のセクションでは逆に無機質な程に規則的でキメの部分とは別の意味で緊迫した展開となっており、2サビから間奏、そしてラスサビへと緩急ある進行をもたらす素晴らしいキメですね。
キメ具体例②
(1:02~1:04、2:01~2:03)
せっかくなので今年のバージョンを。
サビの直前ジャーンジャッジャッジャジャッジャッジャッ!!というフレーズがありますね。すべての楽器がこのタイミングで音を鳴らしており、紛うことなきキメです。
でもちょっと待ってください。ここってサビの直前なのでフィルじゃないですか?
そう、ここはキメでありフィルでもあるというパターンです!キメとはつまるところリズムの強調によるアクセントなので、次のセクションへの繋ぎとして変化を持たせるフィルと合わせることで相乗効果を生み出しやすいんです。
(0:20~0:22、0:45~0:47、1:23~1:25、3:56~3:58)
これはキメとフィルの合わせ技です。上にピックアップしたのは「ジャージャージャージャッ」というキメがある箇所ですが、ほとんどの場面でその直後に短いフィルが追加されています。キメとしてはジャージャージャージャッの部分まで、フィルとしてはその後の「ドコターン」の部分も含めてといった感じでキメとフィルの範囲が同じではないパターンです。親和性があるとはいえど特徴が同じというわけではないので、こういう場合もあります。
キメ具体例③
基本のキメに加えてフィルとのコンボ技も紹介しました。次に紹介するのは「シンコペーションによるリズムのズレはキメと同じ効果を生む」という例です。
(0:07~0:14、1:00~1:04、1:15~1:19、1:22~1:28、2:07~2:11、2:22~2:26、2:29~2:43、2:51~2:55、3:05~3:09、3:24~3:28)
シンコペーションとは弱拍と強拍をズラすことです。ここではひとまず「拍の頭がズレる」と考えてもらって大丈夫です。
この曲は間奏とサビでシンコペーションが多用されており、特に局所的に多い箇所を再生時間に残しました。「ジャージャッジャージャッ」と歯切れの良いリズムが強調されていることがわかるでしょうか。
この曲ではシンコペーションによって拍の頭が表拍でなく裏拍となることでリズムの際立つタイミングが変わるので、それだけでキメを多く使っているように聴こえるんです。ただ逆にキメたいわけでないところでもキメのように聴こえてしまう可能性があるので、うまく調整して使う必要があります。
個別解説 ~ブレイク編~
最後にブレイクです。
もう一度定義置いておきますね~
ブレイク具体例①
(0:41)
ブレイクはひとつの曲の中でも使用箇所が多いので絞り込んで紹介させてください(これまでも絞っていたのでやることは変わらないですが)。
1サビ直前でボーカルの切れ目に合わせて無音になっているところがありますね。これはブレイクの代表的な使用例のひとつ、「サビ前ブレイク」です。
この曲のサビは"アウフタクト"という、拍の頭より早くメロディが始まるという技法をボーカルメロディについて採用しています。サビの歌詞冒頭である『そして』の部分がサビより手前の無音部分で聴こえるので、際立ってリスナーの耳に届きます。これによって、後に続くサビの歌メロに自然と意識を向けさせることができるんです。
(0:38~0:41、1:25~1:27)
同じくサビ前ブレイクが使われている曲ですが、こちらは「酔いどれ知らず」とは違ってブレイクより前の歌メロを強調しています。
上の再生時間だと前者と後者で歌詞がほとんど同じなのですが、後者は前者より文字数が長く変わっていて、それを強調する意図だと推察できます。同じ際立たせ方をすることによって、逆に変化を見出させるという工夫が仕込まれているわけですね。
ブレイク具体例②
(0:13、1:11~1:12)
キメの具体例②でキメとフィルの合わせ技の話をしましたよね?あれと同じことがブレイクにも言えます。上に挙げたブレイク部分はどちらもフィル→ブレイクの順に配置。
フィルの中でもスネアを連続で叩く手数の多いものが使用されています。連打による盛り上げを中断することで流れを切り、この後に次のセクションであるサビが来ると示していますね。
(1:00~1:02、2:22~2:24)
こちらはキメ(フィルでもある)→ブレイクの合わせ技ですね。曲全体としてリズム(ドラム)の主張があまりないタイプの曲なので、相対的にここは大きな変化点だと認識されやすくなっていると思います。
また余談ですが、ドラム目線で見るとこの曲は1番Bメロ前半や2番Aメロ前半など演奏していない部分がけっこうあります。ここについてはセクションとして音を絞っている場所であり、定義の『急に演奏の音を止めること』にも該当しないということでブレイクではないというのが自分の認識です。
さらに余談その2ですが、この曲はスマホゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」、通称プロセカのアニバーサリーソングで、ライブでも演奏されています。ここで紹介したサビ前のキメは原曲では3回叩かれているのですが、セカライでは4回で演奏されていました。
そうなるとキメの定義にある『アレンジ上あらかじめ決められたフレーズ、もしくはリズムのこと』と違うじゃん!となってしまうのですが、これは例外的な用法かなと思います。バンドによっては一部のサビを演奏しないなんて大胆な変更をライブで行うケースもありますし、これを言い出してしまうとキメという概念を成り立たせることができなくなってしまうので、あくまで"基本的には"という枕詞がつく概念だと考えていただければ。
ブレイク具体例③
(0:37~0:42、1:37~1:43)
ここまでのブレイクの具体例を振り返ると、多くがセクションや小節の最後に配置されています。 ・・・似たようなことをフィルの具体例でも言いましたね。もう何が言いたいかおわかりですか?
そう、これはその反例となる「サビの最初にブレイクしている」パターンです。サビ冒頭の繰り返しフレーズを無音の中聴かせ、その直後にがなり声を出すところで演奏が合流するという、非常に耳に残る展開をしています。キメがリズムの強調なら、ブレイクは無音の強調なのです。
1:37~1:43ではブレイク→キメ→ブレイク→キメ→ブレイク→キメ→フィル→ブレイクという順番です。格ゲーのコマンドみたいになってきたな・・・。
間に挟まっているブレイクがキメのアクセントを強調し、終盤にフィルがあることで直後のブレイクによる急停止が印象強いものになっています。ブレイク具体例②と被りますが、フィルやキメと併用することによるシナジーの高さが窺えますね。
まとめ
フィル、キメ、ブレイクのことが理解できると、
「この曲、1サビの前ではフィルの後にブレイクを作ってサビの入りを強調しているんだなぁ。対して2サビの前では1サビではあったブレイクを無くして、途中でキメを挟みながらフィルのままサビに繋げている。なんて練られた構成なんだ!」
という感想が出力できるようになります!!
(これがまとめでいいのか)
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございました!
ジヲさんの記事の反響を見て「これは熱いうちに打たなきゃなんねえ」と急いで用意したのがこのnoteです。所要日数は4日、さらに木金土と予定が入っていたので本当に限界の突貫工事でした・・・!
年内には絶対出したかったしアドベントカレンダーの自分の担当日にもなんとか間に合わせたかったのでめちゃくちゃ頑張ったのですが、もし何か変なところがあったら申し訳ないです・・・!質問なども含めてぜひご指摘いただければと思います。
特にフィルとブレイクについてはどこかで書きたいなという思いがあったので、今回はボカロ好きの皆さんがドラム・リズムにまつわる話題に興味を示しているまたとない機会で、ジヲさんにはいいきっかけをいただきました。ありがとうございます!
本来はこれら3つについて独立した記事を要するものなので、便乗の経緯があるとはいえ本当に基本的なこと、たまに余談を挟んでお送りしました。各要素にフォーカスしきれない、脱線のおそれがあるとして今回見送った内容もあるのでそこは改めて記事を書くかもしれないです。
他にも過去にドラムやリズムを中心とした解説記事書いてるので、よかったらそちらも読んでください!
はい、これで本当に終わりです!!
ありがとうございました!みんなドラム聴いてけ~~