淡々と
冬の日、AM2:00ごろ。
誰もいない街を歩いた。
ゆっくりゆっくり、雪の中。
2週間前も、この街に来ていた。
経過を眺めたり、ケーブルを持ち上げたり、
作業アシスタントをしていた。
リリースされたばかりの宇多田ヒカル「何色でもない花」が流れていた。
この街は雪が多い。
駅ナカにあるオシャレな靴屋で取り扱っている素敵なブーツは、靴裏に滑り止め加工が施されたスノーブーツが殆どだった。
今日の日中は、飛行機で移動した後、航空便に預けた荷物を受け取るため、空港内の貨物センターまで歩いた。
誰も歩いている人はいなかった。
だから足跡がなく、雪は真っ白のままだった。
リュックを背負い、キャリーを引き、ゆっくり、よろよろ歩く姿を見て「ここら辺の人じゃないでしょ」門番のおじさんが言った。
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夏の日、夕方ごろ。
誰もいない部屋で泣いた。
さめざめ、冷房が効いた部屋の中。
何年か前も、宇多田ヒカルの曲を聞いて、泣いた。その時は「分かってくれない」と思った。
珍しくイヤホンを耳に嵌めて「初恋」か「Fantome」を流した記憶がある。
この街に雪は殆ど降らない。
国道沿いの部屋なので、昼夜問わず車の音がする。数年に数回、雪が降る時だけ、すべてが止まり無音になる。
今日の日中は、ローソンに振り込みに行った後、スーパーに行く予定だった。
誰かしら人が歩いている。
それでも、足跡はなく、路面はずーっとそのままだ。
床に寝転がりながら、スマホを片手にどーでも良いことをネットサーフィンしている、だらだらした姿を見ている人は誰もおらず「背中が床に張り付いているように、起き上がれんなぁ…」と心の中だけで言った。
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電話で、現実に引き戻された。
「病気に甘えるんじゃない」とのことだった。
それはそう、正論だ。
お金周りは、ちゃんとしなきゃいけないのだ。
週明け、貯金を下ろして、口座に入れなければ。
とりあえず、iPhoneのカレンダーに予定をメモする。その後、ご飯をセットして、ローソンで医療保険を振り込んで、スーパーに行こう。
「それだけでいい」と言い聞かせる声すら、煩わしい。
淡々、淡々と。