『ボードレールの五つの詩』を訳してみた/3、噴水
作曲:クロード・ドビュッシー(フランス 1862 - 1918)
詩:シャルル・ボードレール(フランス 1821 - 1867)
作曲年:1887 - 1889
3. Le jet d'eau -噴水-
Tes beaux yeux sont las,pauvre amante!
かわいそうに、目が疲れているじゃないか!
Reste longtemps sans les rouvrir,
目を閉じて、そのまましばらく休んでいなよ、
Dans cette pose nonchalante
où t'a surprise le plaisir.
その切ないポーズ、いや、急に嬉しいサプライズが
舞い込んだ時のような、その格好のままでね。
Dans la cour le jet d'eau qui jase
Et ne se tait ni nuit ni jour,
中庭で、昼も夜もひっきりなしに流れている
噴水のおしゃべりの音を聞いていると、
Entretient doucement l'extase
Où ce soir m'a plongé l'amour.
今夜も僕は、愛に浸りながら、
少し幸せな気持ちになれるんだ。
La gerbe d'eau qui berce
たくさんの花を揺らす
Ses mille fleurs,
水の柱、
Que la lune traverse
月の光が
De ses pâleurs,
青白く差し込むと、
Tombe comme une averse
(噴水は)にわか雨のような
De larges pleurs.
大粒の涙をこぼす。
Ainsi ton âme qu'incendie
L'éclair brulant des voluptés,
身を焦がすほどの快楽が突き抜け、
君の心に火がつく。
S'élance,rapide et hardie,
Vers les vastes cieux enchantés.
広い広い空を目指して、激しく、大胆に燃え盛っている姿は、
まるで、何かに取り憑かれたよう。
Puis,elle s'épanche,mourante
しかし、気をやってしまうと、炎は小さくなり、
En un flot de triste langueur,
悲しくなるほど弱々しい波となって、
Qui par une invisible pente
知らぬ間に引いていき、
Descend jusqu'au fond de mon coeur.
僕に埋もれてしまうのではないかと思うほどに、
その身体をぐったりとあずけて来る。
La gerbe d'eau qui berce
たくさんの花を揺らす
Ses mille fleurs,
水の柱、
Que la lune traverse
月の光が
De ses pâleurs,
青白く差し込むと、
Tombe comme une averse
(噴水は)にわか雨のような
De larges pleurs.
大粒の涙をこぼす。
O toi,que la nuit rend si belle,
あぁ、愛しい人、夜は君をさらに美しくする。
Qu'il m'est doux,penché vers tes seins,
D'écouter la plainte éternelle
Qui sanglote dans les bassins!
湧き水のようにわんわん泣いて、
いつまでも苦しさを吐き出している君の声を聞きながら、
その胸に身を寄せていられるとは、
僕はなんて幸せ者なんだろう。
Lune,eau sonore,nuit bénie,
月の光、水のせせらぎ、そして、聖なる夜に
Arbres qui frissonnez autour,-
風そよぐ木々たちよ…、
Votre pure mélancolie
おまえたちは、心が締め付けられるような切なさを映し出す鏡として
Est le miroir de mon amour.
まったく言うこと無しだよ。
La gerbe d'eau qui berce
たくさんの花を揺らす
Ses mille fleurs,
水の柱、
Que la lune traverse
月の光が
De ses pâleurs,
青白く差し込むと、
Tombe comme une averse
(噴水は)にわか雨のような
De larges pleurs.
大粒の涙をこぼす。
おもしろい!と思ったところ、個人的解釈
ちょっと右に文が寄ってる箇所、短いながらも情景が浮かんでくるような比喩表現が美しいですね。歌にしやすそう。だから歌になってるのか?
Qu'il m'est doux! 「なんて甘いんだろう!」=「めっちゃすけべ!」
って使える…ってコト?使っていきたいフランス語ですね。すけべなイラストとか見たときに、キルメドゥ!
まとめ
とても客観的な詩ですね。性行為の最中なんじゃなくて、その記憶を思い出しながら、夜、一人で「あ〜あれよかったな〜」て悦に浸ってる感じ。
噴水を眺めながら、思い出す、詩的な表現を交えて…これがボードレールっぽさ、ってコト!?
それに、この詩を訳してから、BUMP OF CHICKENの歌で、『66号線』を思い出しました。というのも、歌詞の中に、「僕の知らない記憶に襲われて、泣いちゃった大切な人、近くにいられて、嬉しかった」っていう一節があるんですけど、大切な人が苦しんでいる場面に遭遇することが苦じゃない、むしろ嬉しいと感じる、という点で、ボードレールと同じ感性を持ってるんだな〜って思いました。まぁ、厳密に言えばちょっと違うかも…
私が辛いな〜ってメソメソしてる時に「(私は)あなたより大変忙しくて、涙の一つも溢す暇もなかったんだからそんな簡単に泣くな」みたいなことを言われた時もありました。確かにその通りだな、とその時はスン…としましたが、私がもし、周りの親しい人が苦しんでいる場に遭遇したら、ボードレールや、BUMPのように考えて、「私に苦しみを打ち明けてくれて、ありがとう」と言える人になりたいと思いました。
全然見ず知らずの人が突然泣き出したら、ちょっと自信ありませんが…
では、今回はこの辺で。À bientôt!