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『ボードレールの五つの詩』を訳してみた/1、バルコニー

作曲:クロード・ドビュッシー(フランス 1862 - 1918)
詩:シャルル・ボードレール(フランス 1821 - 1867)
作曲年:1887 - 1889


 Bonsoir、 メグ・ミです。
今夜は、ドビュッシーの歌曲、『ボードーレールの五つの詩』より、一曲目の「バルコニー」を、稚拙ながら訳してみました。
 フランス語は昔、途中で挫折したっきりだったので、テキスト、辞書、You○ubeなどのフランス語学用の教材をひっくり返して、一から学び直しました。まだまだ勉強中です。
 フランス文学に興味を持ったのはいいものの、日本語訳がどれも古くて、堅苦しくて、微塵も愛の国フランスのロマンを感じとることができなくて(でも参考になりました!)、じゃぁ自分で訳したれ!
と思い立って、出来上がったものがこちら。
 それでは、bonne soirée♪


『ボードレール五つの詩』って?

 その名の通り、フランスの詩人、シャルル・ボードレールの詩集『悪の華』から、フランスの作曲家、クロード・ドビュッシーが詩を5つ抜粋し、美しい旋律をつけた歌曲のことです。当時はワーグナー批判の風評被害があり、ワーグナーっぽい曲として人気が出なかったようです。

※日本語の表現として自然に聞こえるように、所々意訳していますが、原語のニュアンスはできるだけ再現したつもりです。

1.La balcon -バルコニー-

Mère des souvenirs,maîtresse des maîtresses,
敬愛する妻、僕の大切な、愛しい人へ。
O toi,tous mes plaisirs! ô toi,tous mes devoirs!
君は僕の誇りであり、僕の生きがいだ!
Tu te rappelleras la beauté des caresses,
La douceur du foyer et le charme des soirs,

暖炉の優しい暖かさ、そして、魔法のような夕暮れの中で慰め合った、
あの美しい時のことを、覚えているだろうか。
Mère des souvenirs,maîtresse des maîtresses!
愛する妻よ、君は、誰よりも特別なんだ!

Les soirs illuminés par l'ardeur du charbon,
暖炉の炭が赤く燃えると、夕暮れもまた、輝きだした。
Et les soirs au balcon,voilés de vapeur rose.
夕暮れが輝くと、バルコニーは、バラ色の霞に覆われた。
Que ton sein m'était doux! Que ton coeur m'était bon!
君の胸はそれはまろやかで、その鼓動はなんと心地よかったことか!
Nous avons dit souvent d'impérissables choses
僕たちは、この愛が永遠であると、何度も確かめ合った。
Les soirs illuminés par l'ardeur du charbon.
暖炉の炭が赤く燃えると、夕暮れもまた、輝くように。

Que les soleils sont beaux par les chaudes soirées!
あの情熱的な夕べに輝く、太陽の美しさといったら!
Que l'espace est profond! que le coeur est puissant!
はてしない宇宙、そして未知なる力を前に、
僕の心は震えるばかりであった!
En me penchant vers toi,reine des adorées,
そうして、崇拝する女王のもとへ身を寄せた時、
Je croyais respirer le parfum de ton sang.
僕は確かに、彼女に流れる血潮の香りを嗅いだ。
Que les soleils sont beaux par les chaudes soirées!
それは、情熱的な夕べに輝いていた、
あの見事な太陽にも劣るまい!

La nuit s'épaississait ainsi qu'une cloison,
仕切り扉を閉めるように、夜は更けていった。
Et mes yeux dans le noir devinaient tes prunelles,
暗闇に目を凝らすと、君の優しい眼差しが、すぐそこに。
Et je buvais ton souffle. Ô douceur,ô poison!
近くで吐息を吸った時の甘さといったら!僕の身体には毒だった!
Et tes pieds s'endormaient dans mes mains fraternelles.
そうして、いたずらに触れる僕の手の下で、君は足の先から眠についた。
La nuit s'épaississait ainsi qu'une cloison.
それはどこか、仕切り扉を閉めるように更けていく、あの夜に似ていた。

Je sais l'art d'évoquer les minutes heureuses,
…こうして、僕はあの満ち足りたひと時を、何度も思い出している。
Et revis mon passé blotti dans tes genoux.
君の膝と膝の間に身を寄せた時の気持ちを、忘れたくないから。
Car à quoi bon chercher tes beautés langoureuses
Ailleurs qu'en ton cher corps et qu'en ton coeur si doux?

その愛しい体と、心地良い鼓動の他に、
君の悩ましげな魅力を、今はどこに見出せばいいのだろう?
Je sais l'art d'évoquer les minutes heureuses.
だから僕は、あの満ち足りたひと時の思い出を、
決して忘れることはないだろう。

Ces serments,ces parfums,ces baisers infinis,
君と誓い合った言葉、香炉の香り、そして、口づけを交わした記憶は、
Renaîtront-ils d'un gouffre interdit à nos sondes
Comme montent au ciel les soleils rajeunis
Après s'être lavés au fond des mers profondes.

深い海の底で身を清めて若返った太陽が、空高く昇るように、
いつか、測り知れないほどの深淵から、蘇って来るのだろうか。
O serments! ô parfums! ô baisers infinis!
あぁ、あの誓い合った言葉、香炉の香り、そして、愛の口づけを、
もう一度!


“Cinq Poèmes de Baudelaire” (1887 - 1889)

Composer:Claude Debussy (France 1862 - 1918)
Poems:Charles Baudelaire (France 1821 - 1867)
和訳:Megu-Mi


おもしろい!と思ったところと、個人的な解釈

  • 全編:すけべ!推しCPに当てはめるとすごいかわいい。ちなみに詩集『悪の華』が世に出た当時は、「すけべ過ぎる罪」で罰金取られたらしい。

  • 1節目:Mèreは「ママ」ですが、最終節が結婚式っぽい雰囲気なので、多分この人は結婚してるんだろうな、と思って、「妻」と訳しました。

  • 2節目:薄暗くなって、炎の光が際立って来る暖炉と、マジックアワーの夕暮れ空の一文は、恋人たちが相乗効果でヒートアップしてることのたとえ?すけべじゃん…

  • 2-3節目:「この人たち、夕暮れ時にエッティしてる…どうしてだろ?夜じゃないんだな〜」と思っていましたが、フランスの夏は、22時ぐらいにようやく日が落ちるらしいので、多分、時間的には日本の夜に変わりないのか、と気づいた時に、環境の違いでこんなに詩の表現が変わるんだな〜!と関心しました。この夫婦が、いつどこで致してるかは分かりませんが、そういう可能性もあると考えると面白い!でもただのボードレールの性癖かも…

  • 最終節:正教会やキリスト教だと、結婚式で香炉が使われるらしい。 (何かの映画で見たような…)

まとめ

 やっぱり、ロマンティックな詩でした。
 私がもう少し、いえ、かなり若かったら、ゲェ!と思って全編読む前に別の詩に乗り換えていたことでしょう。こういう、愛とか恋とかいうものを極端に毛嫌いしていたので。
 当時、ボードーレールをけしからん罪で罰した人たちも、そんな気持ちだったのかな。
 ちなみにこの詩の主人公はボードレール自身じゃないらしい。

 詩の意味が分かったら、改めてドビュッシーの歌曲を聞いてみてください。この歌を聞きながら眠ると、いい夢が見られる、かも…?

 私もそろそろぬいたちの元で眠りにつくとします。
それではみなさん、良い夢を。Bonne nuit (¦3[___]💤

おやすみなさい

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