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湯気のゆくえ

美味しそうなものが手元に来た時、一緒に食べませんかと言いたい人がいます。

行ってみたい場所ができた時、一緒に行きませんかと言いたい人がいます。

背が高くていいですね。
どんな景色ですか。
私より二〇センチ高い景色。

きっと私が知っていて、あなたが知らないことがありますよね。
全く違う人生の道筋、見てきたこと、聞いてきたこと、過ごしてきた空気。
全部が違うから、できる限り知らせてみたい。

きっとあなたが知っていて、私が知らないことがありますよね。
仕事の話、私の知らない時代の話、共通の感性、違う感性。
同じようで違うから、できる限り知ろうとしないふりをしながらできる限り知りたい。

あなたが遅くまで仕事をしている間に、私はいろんなことをしていて、自慢したいし、偉そうにしたい。

本当にあなたはそのまま一人で死んでいくのですか。
それでいいのですか。

常々、そう問い掛けたくて仕方がない。

つまり、
一緒にいませんか、
と言いたいということ。

あなたのことは嫌いです、という、この上ない甘い告白。

寝る前にコーヒーを飲む悪い子。
タバコばかり吸いにいく悪い子。
油断するとすぐに目を逸らす悪い子。

お酒の力を借りて感じるごまかせない相性。

何もかもが上手くいってしまう相性、
ずらそうとしてもぴたりと合ってしまう会話。

何度会話しても何年多くのことを話しても
全く慣れない一日の最初の会話の始まり。

二人とも人見知り。人見知り。

私だけが楽しみにしていた内側の幸福をすぐに見破る魔法。

ごまかせない相性。

好きな声色、控えめすぎる人柄と優しさ。
茶色い髪。
几帳面で少しうるさい性格。

私にはないものばかり、全て羨ましい。

長い指、大きな手
私もあるから比べたい。
そして勝ちたい。

むつかしい。

何年悩もう。

まるで同じ人間みたいな
心の空間。

何年待てばよいですか
もう三年、まだ三年?



※この話はフィクションです


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