コーポレートベンチャーキャピタルCVCの実務 vol.3『投資判断の方程式』
【即戦力となる実践的な考え方とテクニックが学べるnote】
(⚠有料化を検討中の記事)
『足を引っ張る大企業』『ベンチャーを支える大企業』どちらになるかはCVC担当の腕次第。
前回記事vol.2はこちらから。
前々回記事vol.1はこちらから。
〚投資判断の方程式〛
=①市場成長性
×②経営者の魅力度
×③ビジネスモデルの優位性
前回に続き①市場成長性の話を進めていきます。
①市場成長性
〚投資検討(意思決定プロセス)で起こりうる失敗〛
実際に投資検討を行う際は、投資決定をする役員と議論を重ねる必要があります。
自分だけが投資したいと思っても意味がありませんので、如何にして投資実行まで推進するか、あるいは健全な判断によって投資を取り止めるか、を自らファシリテートしていく必要があります。
この投資の意思決定プロセスにおいては、やはり投資役員やメンバーとの認識の違いやコミュニケーション齟齬によって思わぬ方向へ議論が流れてしまうことがよくあります。
私自身、調査報告や合意形成には非常に苦労をしました。
そのため社内意思決定プロセスにフォーカスしたシリーズを作成することも考えてはいますが、まずここでは『市場成長性』の範囲に限定して『失敗』を共有したいと思います。
経験則から代表的な例を3つ共有します。
①データの信憑性
②環境変化の解釈
③リスク認識
1つずつ説明していきます。
①データの信憑性
〚そのデータ、どんなデータ?〛
ネットにはあらゆるデータが転がっています。たとえば旅行業界に関する市場規模のデータを1つ取っても、旅行代理店の統計調査レポート、調査会社のアンケート調査レポート、政府の統計データ、コンサルティングファームの戦略レポート、旅行関連協会が出す調査レポート、などがあります。
複数あるデータ(エビデンス)からどの数値を参照するかは、投資検討先のベンチャーの性質によって実は柔軟に変えていくことも必要になるため、なかなかセンスが問われるところです。
「柔軟に対応せよ」ではノウハウになりません。
私の失敗経験としては、投資検討する役員が納得する数値を提出できなかったことに加えて、ベンチャービジネスの優位性を検討するには不要なデータの調査に時間がかかってしまったということがあります。
ここで重要なことは投資検討しているベンチャービジネスが成功するか否かを議論するためにデータが必要なんだ、ということです。
そこで必要な視点は調査の背景を知ることです。投資案件ごとにデータ調査をするわけですが、この調査の背景にまで目を配ることは汎用的なテクニックになります。
結論から言えば、この4つの視点でデータを読むということです。
• サンプル数
• サンプルの属性
• データの恣意性
• 時系列データの有無
• サンプル数
そもそもサンプル数が少なければデータの正確性に欠けますから信用度は下がります。知りたいデータにどのくらいのサンプル数が最低限必要なのか?は根拠を持っておくべきです。
• サンプルの属性
「ネットでのアンケート調査」であれば、若年層比率が高くなり高齢者のニーズが排除されてしまう可能性が出てきます。投資検討しているベンチャービジネスに関係する範囲でデータが取れているのか?を注視する必要があります。
• データの恣意性
コンサルティングファームはチャリティで調査活動をするわけないですよね?必ずクライアント獲得を目的に作成されているわけですから、データの切り方が操作されている可能性に気を配りましょう。
• 時系列データの有無
同じ調査手法で十数年分のデータが溜まっていれば信憑性はかなり高まります。今回が初めての調査結果と比べてどちらを選びますか?時系列で見てはじめてデータに意味が出てくる調査か否かを判断すべきです。
このようにデータの出どころ、そしてデータの根拠や意図を読み取ることで投資検討における共通認識を持つことができるようになります。
投資実行に都合の良いデータをつまみ食いのように集めて切り貼りすることは論外ですし、何も考えずに数字だけをまとめても、その数字には何の意味も見い出せないでしょう。
②環境変化の解釈
〚誰もが変化に敏感とは限らない〛
特に専門外の領域に対しては注意を払う必要があります。「消費者の行動がこんなに変わったんです!」と伝えたところで、その分野に精通していなければ、実感が沸きませんから、それをビジネスチャンスと認識することは非常に難しいでしょう。
たとえば、ITリテラシーのないシニア役員に対して、「YouTubeがメインストリームです」とか「今はインスタグラムで連絡先交換が主流でコミュニケーションもそこで完結してますよ」なんて言っても理解されないわけです。
このように投資検討に関わるすべての役員とメンバーがその領域に精通しているわけではないことを前提としなければなりません。
ビジネスチャンスと捉えている市場環境の変化や消費者行動の変化については共通認識化が非常に重要となりますから、その変化を十分に理解してもらうためのエビデンスを用意することが不可欠となります。
ここで、一番の有効打は直接消費者やユーザーへのヒアリングデータだと考えています。
実際のユーザーの声というのが何よりもの証拠となるということです。
私の経験では、友人を介してターゲット顧客となりうる人を紹介してもらい複数人にアンケート調査をしたり、クライアントとなる企業の担当者にアポを取って実際に話を聞いたりしました。
その意見をまとめた意見書を投資検討資料に添付し、議論のネタにすることで、「本当に環境やユーザーが変化している」ことを理解してもらうように努めました。
③リスク認識
〚それってリスクじゃないの?〛
↓続きの記事
コーポレートベンチャーキャピタルCVCの実務 vol.4『投資判断の方程式』https://note.com/mem_yu/n/nd86d604f9842
vol.34
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