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あこがれの踊り子号

久し振りに恥ずかしい思いをした。
 
コロナも明けて、大学時代の仲間が伊豆の網代で
旧交を温める事になって、73歳だから波の会と洒落込んだ。
宴会は温泉ホテル18時というシンプルなもので
それぞれ工夫してやってこいという大人の案内が気に入った。
爺さん達が駅で待ち合わせて、つい興奮して傍若無人に
大声で笑い合うのはいい図ではない。
それぞれがそっと集まるというのが高齢者には奥ゆかしくていい。
 
さて、ネットで伊豆へ旅すると検索すると、
「伊豆に行くなら踊り子号で」というキャッチフレーズに
心が躍った。
伊豆の踊子と聞いただけで甘酸っぱい青リンゴのような
恋を思い浮かべる。
ネットには時刻表も事細かに表示されている。
東京駅12時発に乗れば、網代まで連れて行ってくれる。
右の窓からは白い富士山が、左からは陽光に輝く
伊豆の海が見えるはずだ。
鼻歌交じりで、ボストンバッグに着替えの下着や靴下、
ヘヤーブラシに歯磨きなど旅の必需品を放り込んだ。
 
当日、勇んで東京駅のみどりの窓口に切符を買いに行くと
大混雑で12時発の踊り子号に間に合わないんじゃないかと
ヒヤヒヤしながら待った。
やっと順番が来て窓口に立った。

係員に「12時の踊り子号網代まで」と言うと、
こちらに顔を向けて、身を捩りながら
「申し訳ありません、踊り子号は2年前に
廃線になったんですけど・・」と小声で言った。
なんじゃと声が出そうになるのをグッと呑み込んで、
一拍置いて「そうですよね、新幹線を一枚下さい」
と事なきを得た。
青春の青リンゴがグチャッと落ちた絵が浮かんだ。

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