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求愛の楽器から憎悪の武器へ

8万年前の狩猟採取の時代のことだった。
集落のある若い女が動物の内臓から取り出した腸管だろうか
ヒモ状のものを木の枝に結んで干していた。
身を包む毛皮がはだけないようにヒモで縛ったり、
ヒモの用途は少なくなかった。
沢山のヒモが木々にヒラヒラと風になびいていた。
たまたま木の枝の両端に結んでいたヒモがあって、
風を切って微かな音を出しているのに気付いた。
女はこのことを兄に伝えると、兄はひらめいた。
曲がった棒の両端にヒモを結び、ヒモを弾くとブンっと鳴った。
早速これを持って好きな女の所に行き、求愛の歌に合わせて鳴らせた。
弦楽器の始まりである。
これを知った他の男たちは我先に湾曲した枝を探してヒモを結んで、
求愛の歌の伴奏に使った。
やがて、集落の宴には欠かせない楽器となった。
 
時は進んで7万年前になると農耕牧畜の時代になった。
大きな集団社会になって定住し、近隣の集団との軋轢が始まった。
不作で苦しくなったら別の集団から作物を収奪したりして、
争いが始まった。
石や槍を投げて戦ううちに、あの楽器に先を削って
尖らせた棒をつがえるとよく飛ぶことを思い付いた。
更にその棒の先に尖った石片を貼付けたり、
真っ直ぐ飛ぶように羽根も付ける工夫が加わった。
「弓と矢」が出来、楽器は武器に変わった。
7万年前の地層から鋭く尖った矢尻が出土している。

沢山の弓矢を沢山の人々が作るとなると、
「言葉」による意思疎通が必要で
急速に言葉が発達しただろうと類推されている。

求愛の楽器が憎悪の武器に変わる過程で
「言葉」が発達したとは、なんと哀しいエピソードなんだろう。

画:Capoera Gerais Tokyo ブログより 
ブラジル楽器ビリンバウを演奏する様子


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