沈思黙考の結末
心理学や哲学や物理学の世界には色々な動物たちが登場する。
●こんもりと積まれた干し草の山が二つ並んでいて、その間にいたロバが
どちらを食べようか迷いに迷い、とうとう一口も食べずに
餓死してしまったというブリダンのロバ。
●丁度いい温かさのスープを啜った女の子の童話から、
暑過ぎない寒過ぎない快適な条件を表すゴルディロックスと三匹の熊。
●俊足のアキレスがどうしても先を行く亀に追いつけないという
数学的パラドックスのアキレスと亀。
●量子力学の矛盾を衝いたシュレディンガーの猫。
●魂の輪廻を唱えたピタゴラスの犬。
学者たちは日々難解な論理や数式や哲学的な沈思黙考に浸る中で、
ふっと無邪気な動物の様子を思い浮かべて、気を楽にしているのだろう。
長年使ってきたオーディオセットからチリチリという雑音が聞こえた。
スピーカーは買い換えて新しいので、きっと古くなったアンプだろうと
疑った。
それから秋葉原のオーディオ専門店に出掛けて、試聴室で幾つかのアンプを
聴き比べて、目星をつけた機種のカタログを貰って帰り、
いそいそと読み比べた。
最新のオーディオ雑誌を買ってきて、自分の判断が正しいか
確かめたりした。
それぞれのアンプには音場を作り出す設計思想があって競り合っている。
プラス面マイナス面が相反して判断が難しい。
考えるのが疲れてきた。
結局自分の耳で聴いて気持ちの良いのが一番だとなった。
改めて部屋のオーディオのスイッチを入れてみると、
聴き慣れた心地よい音をしている。
悩んだ末にもう暫くこれでいいやということになった。
ブリダンのロバになってしまった。