石は億年
鶴は千年、亀は萬年と長寿の象徴になっている。
それなら億年は、と巡らすと、石だと思い付く。
億年とは寿限無の話に出てくる五劫のすりきれで、
三千年毎に天女がやって来て、羽衣で岩を撫でて
摺り減り無くなる程の時間をいう。
人は記憶を永遠に残したい一心から石に
名前や逸話や歌を刻んだ。
小田原の江之浦測候所は石の芸術の園で、
岩のオブジェや石舞台、化石群が相模湾の潮風に
洗われて瑞々しい。
半日歩き回った美術園での心地よい疲れを癒しに
奥湯河原に宿を求め、温泉の暖簾をくぐった。
40メートルの岩壁に伝う滝水を眺めながら
湯に浸かって、億年の岩に寄りかかり、
一瞬の命の我が身を思っている。