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英語でいうと分かった気になる

 学生時代、家具の事など何も知らないのにアルバイトで百貨店の売り場に
立ったことがある。今にして思えばいい度胸というか、無責任というか、
恥じ入るばかりである。

 若い夫婦が食器棚の扉を開けたり、引き出しを引いたりしている。
やにわにこちらに向かって、「この引き出しの底の素材はなんですか?」
と訊かれた。
ベニヤという言葉が頭に浮かんだが、安っぽく思われてはいけないと、
苦し紛れに「ウッドなんです」と答えた。
すると、ご夫婦はふんふんと納得したように引き出しを閉めた。
英語にすると、なんとなく形になるものだ。
 
 会話の相手が知らない英語を差し挟んできて、それがどういう意味か
問えばいいのに、シャクだから話の前後関係を想像して相づちを打って
やり過ごし、後でスマホ検索するという小物ぶりな自分が嫌になる。
そこに行くと、昔のおじいさんは立派だった。
そんな時、「お前日本人だろ、日本語で言え!」と圧倒したものだ。
それは若い者から教えを請うことがなかったいい時代だったからである。
今は、何かと若い人たちにパソコンやスマホのことで
助けてもらうことが多く、嫌がられないように気遣い、
身を縮めたおじいさんが多くなった。
 
 最近は、とみにマスコミも総理も都知事も英語の言葉をよく使う。
リスキリング、ダイバーシティ、サスティナブル、
ジェネレーションギャップ、インセル、ロストジェネレーション、
スマートシティ、ワイズスペンディング、メルクマール、
スプリングボード、レガシー、コンプライアンス・・・
以上、スマホで検索した履歴を列挙してみた。
 
コロナ禍の3年間、都知事は喜々としてロックダウン、クラスター、
ソーシャルディスタンス、オーバーシュート、ウィズコロナ
トウキョウアラートと言い、ステイホームと迫った。
「犬小屋に伏せていろ!」という犬の調教の言葉を
浴びせられたようで身震いしたものだ。

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