物語にならない赤い星
夜道を歩いていると東の空に異様に赤く光る星がある。
北から羽田空港に向かってゆく旅客機が横切る。
その点滅する光に負けない程の強い光だ。
何て言う星だろうと興味が湧いて調べてみると火星だとわかった。
天体について知らないことばかりだが、
赤い星は地球から遠ざかっているという知識はあって、
あの星は離れてゆくところなのだなあと勝手に納得した。
救急車のサイレンが近づいてくると高い音になり、
離れてゆくと低い音になるというあのドップラー効果が
光の波長でも当てはまり、
波長が短いと近づく星で青く見え、
波長が長いと離れる星で赤く見えるという。
ところがである、それは遠い遠い恒星でのことで、
火星は近い惑星だからドップラー効果などではなく、
単に火星の表面が赤さびで覆われているから
赤く見えているのだそうだ。
それにしても周辺の星と比べても、赤さが際立っていて
錯覚ではないかと目を擦ったほどだ。
紀元前から中国では火の星と呼び、遣唐使が我が国にやってきて、
あれは火星だと教えてくれた。
いにしえ人は、夜ともなればすることもなく、
ひたすら夜空を見上げて物語を紡いでいったのだろう。
火星は戦火の象徴だったり、熱情の血の色だったり、
忌み嫌われたり、不吉な星と呼ばれたりした。
西に現われたり東に出たり、太陽を周回する惑星たちは恒星と違って
落ち着きなく動き回る。
だから惑わす星、惑星と気味悪がられた。
不規則に動き回られたら、捉えどころがなく想像の糸が結べない。
くだんの赤い星の物語は、何かあっただろうか。