カワセミ
晴れた冬の午後、散歩に出掛けた。
いくつかのコースがあるが
この日は石神井川の沿道を選んだ。
空が広く、遠望出来るので
心も伸びやかになれる。
遊具の解体工事が進む豊島園を
横目で眺めながら石川橋に差し掛かり
何気なく川面に目を遣ると
30羽程の鴨の群れが浮かんでいた。
そこには、真っ白なサギも居て、
鴨の群れに気遣いしながら歩きまわり
獲物を啄んでいる。
そんなのどかな風景があった。
そこに一瞬閃光のように一筋の輝きが
射し込んだ。なんだ?
それは、清流の宝石と呼ばれる
カワセミだった。
初めてこの目で見たという感動を覚えた。
長玉のレンズのカメラを抱えて
カワセミを狙う高齢のアマチュア・カメラマン達が
テレビで紹介されていたが、
一日中、千載一遇の飛来を待つ気持ちが分かる気がした。
翼は瑠璃色、胸にはオレンジ色のアクセントがお洒落だ。
細い枝に停まり、水中の獲物を見つけると一直線に
水に飛び込み捕らえる。
その巧みさからか、英語ではキング・フィッシャー、
漁師の王と呼ぶ。
ギリシャ神話にこんな話がある。
航海に出た夫が嵐で遭難したという不吉な夢を見た
美しい妻、アルキュオネーが心配になって
海に行ってみると、あろう事か流れ着いた夫の亡骸を
見つけた。哀しみのあまり抱き寄せた。
するとその一瞬でアルキュオネーは
美麗なカワセミとなって夫の元に飛んで行った。
カワセミの美しさは異次元のもので
あの世と行き来するイメージと結びつくのだろう。