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業務スーパーで買い物する理由

 15年くらい前のことです。アメリカの思想家、環境活動家の
レスター・ブラウンさんが来日して講演を聴いたとき、
目から鱗が落ちる話題がありました。

それは、「なんで日本では地熱発電をしないのか?」という
問い掛けでした。

 日本は世界有数の火山国で、地熱資源量はアメリカ、インドネシアに
次いで第3位で、温泉が一万箇所もあって工業技術水準も高いのに、
世界地熱発電量は世界で10位にとどまっているのは不可解で
宝の持ち腐れだと語りました。

 *地熱発電の世界ランキング 
 1位アメリカ、2位インドネシア、3位フィリピン、4位トルコ、
 5位ニュージーランド、6位メキシコ、7位ケニア、8位イタリア、      
 9位アイスランド、そして日本は10位。

*地熱発電の総合的な技術の世界シェアは東芝、富士電機、
 三菱日立パワーシステムの三社で世界のほぼ70%を占めている。

実際にインドネシアは地熱発電だけで国の電力を賄えることを実証しましたが、この開発には日本の住友商事や富士電機といった日本企業の技術や運営のノウハウが下支えしていました。

ブラウンさんは国の方針として地熱発電の推進を決めれば、
直ぐに世界ナンバーワンになれる素質があると言明しました。

 聴衆から、日本政府が更に原子力発電に力を入れようとしていることに
嘆いているという意見が出ると、ブラウンさんはこのような名回答を発しました。
「私は、新しい技術が受け入れられるかどうか見るのにウォールストリートの投資家の動きに注目します。それは冷徹な経済の見通しの上で決断される結果の動きだからです。
この点で見るとアメリカの投資家は原子力発電ではなく風力発電に投資を
繰り返しています。この意味で原子力発電は投資効率が悪く、古いタイプの
発電と考えています。
設備を建設する費用と同じ解体費が掛かり、安全のための維持管理費用だけでなく、事故に備えた保険料は莫大です」

そして、もう一つとても大切な指摘をしました。

「今までのような石油をエネルギーとした経済では持てる国は持てない国を価格で支配し、世界経済を不安定にしてきました。
世界は、グローバル経済と石油需給による価格とリンクして動かされて
来ましたが、地域発電、地域消費のいわゆるローカル経済化してゆくと
オイルショックのような不安定な経済から脱することが出来ます。
食べ物もエネルギーも地産地消化する方向が最大幸福をもたらす方策と
言うことができます」

 小型分散型の改良型の地熱発電も開発されていて、発電だけでなく暖房や融雪用の温水も温室の暖房も各家庭や企業に熱を供給できるようになり、
日本の北に住む人々の生活が一変します。
最も北極に近いアイスランドでは、すでに地熱による発電に加えて、
快適な暖房生活を実現しています。

 風力、水力、太陽光、バイオ、地熱発電の他、海の波動を使った発電、
山から絶えず流れる川の水を使ったマイクロ水力発電などグリーン電力化に本気で取り組めば、CO2問題だけでなく実際に空気や水がキレイで静かな
社会になって、地域の就業人口も増えてゆくという「いい事づくめ」に
なると確信できました。
 
 従来、地熱発電については観光温泉関係団体から、温泉が枯れては死活問題だとか、国立公園内の環境規制の問題があると、まことしやかな説明を政府関係や御用メディアから聞かされてきましたが、固く蓋をして先送りしてきたのは、現政権が経済界の石油利権や原子力発電の建設利権に呼応してきたからでしょう。
原発再稼働を目指す都合で、再生可能エネルギーの買い取り制度を後退させるという愚策に終始しています。

 そんなグズグズしている政府を横目に、私財を投じて地熱発電に力を入れている人物がいます。
業務スーパーの社長の沼田昭二さんです。
随分と昔のことですが、業務スーパーという看板を見て、店内に入り「業者じゃないんですが買い物できますか?」と店員さんに訊いたことがあります。当初は周辺の飲食業者向けで、店内には装飾がなく開封した段ボール箱にそのまま商品が入っていて、客が自ら引っ張り出すという「お買い物を楽しむ」というより仕入れの倉庫といった設えでした。
一般の消費者にとって、業者向けの卸価格で買い物できるというお得感があって、ついあれこれ余計な買い物をしてしまったものです。
業務スーパーは、今や全国に1,072店舗、年商4,600億円の小売り業に成長しています。

  沼田さんは2016年に熊本県小国町という温泉場で温泉関係者を巻き込みながら地熱発電事業を始めました。
総工費は100億円で、借り入れ50%、あとは私費で賄うといいますから、
大きなリスクを抱えながらの船出でした。
2024年には稼働が始まり、8,000所帯分の電力を供給し年間14億円の
売電収入を見込んでいます。

沼田さんは日本の将来への貢献の意識も強く、次世代の子供たちがエネルギーで困らないようにしなければならないと決意を語っています。

  日本のエネルギー自給率はOECD諸国と比べて12.1%と極端に貧弱です。地熱発電量は総発電量の0.2%という規模に甘んじています。
2022年の電源構成の再生エネルギーは21.7%で、その内訳は
太陽光9,2%、水力7.6%、バイオマス3.7%、風力0.9%、
そして地熱発電は0.3%というお寒い状況です。

 経済は外的要因に強く影響され、ロシアのウクライナ侵攻以来、
エネルギーコストはうなぎ登りであらゆる物の価格を押し上げています。
世界を見渡してみると安い石油を享受して高度経済成長できてきた時代は
完全に終わって、自由主義陣営と共産主義陣営がブロック化し、石油が戦略的に使われ、国の舵取りに強く影響するようになってきています。

  中東も含めて産油国各国があまりにも政情が不安定で、化石燃料の事情に
影響されて景気の振り幅が大きくなり、先進各国が安定した政権運営が
難しく、地球温暖化・気候変動問題を持ち出して、石油依存から脱却する
意識転換プログラムが進められています。
電気自動車という分かりやすい形で脱化石燃料の運動が進んでいます。
多様な発電方式を開発進歩させてゆくという世界的なコンセンサスが
すでに出来上がっています。

  業務スーパーの沼田さんは地熱発電に着目して自ら取り組み、掘削技術が途絶えないように専門学校まで立ち上げて、経営者感覚で先の先まで見通す沼田さんのような人物を大いに応援してゆかなければならないと思います。

 社会貢献に熱心な企業を伸ばそうという消費者意識が高まることは将来に亘って大事なことだと思います。

追記:このところ、自民党総裁選、立憲民主党代表選で立候補者が
   ゾロゾロとテレビで自説を語っていますが、
   地熱発電はじめ国産・自前のエネルギー政策の展望に触れた人が
   一人もいません。哀しい現状です。




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