#14 映画「スパイダーマン:スパイダーバース」感想
“普通“を希求する少年が、クモに噛まれスパイダーマンの能力を得て、普通ではなくなってしまう物語である。キャッチコピーは「運命を受け入れろ。」
ジャンルは「アクション」「SF」「ヒーロー」。要素に「タイムパラドクス」「超能力」。
スパイダーマンシリーズでは初となるアニメ映画。第91回アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞作。興行収入(日本国内)は9億円。
【脚本】
フィル・ロードとロドニー・ロスマンの2人による共同執筆。
脚本は超王道のスパイダーマン物語。パッとしない貧弱な主人公がスパイダーセンスを獲得しヒーローになる。しかし、パワーは強くなっても心は強くなっていない。救えないものがある(基本的に大切な人の死)。そこに葛藤を抱える。そして、その葛藤に向き合いながらヒーローを続けることで人間として強くなっていく。スパイダーマンシリーズは基本的にこの文法に沿った脚本で、本作も漏れなくそうだった。
スパイダーバースで特徴的なのは主人公(マイルス)が「普通であること」にこだわっている点である。冒頭からマイルスは普通を望んでいた。学校でわざと0点をとったり、遅刻したり。頭の良い彼は、進学校の生活は普通ではなく望んだものではない。そんな彼は、運命的にスパイダーマンとなった。そして、ピーター・パーカーと約束もした。この時点で彼の中に葛藤が生まれる。普通ではもういられないのだ。そんな中、もう1人のスパイダーマンであるピーターBパーカー、グウェン、ペニーパーカー、スパイダーマン・ノワール、スパイダー・ハムと出会う。スパイダーマンとして身も心も完成している彼らと、身も心も不十分なマイルス。マイルスの心は砕け散った。そこで、大切な人の死に直面する。その後は言うまでもない。普通から脱皮したマイルスは正真正銘スパイダーマンとなる。「普通と超能力の葛藤」がスパイダーバースで描かれている。
もう一点特筆すべき点は、キャラクターの扱いが絶妙な点である。6人もスパイダーマンがいると普通は扱いづらくなる。全員がスパイダーマンという癖のあるキャラだからだ。しかし、この「全員がスパイダーマン」という公式をうまく利用していた。キャラの初登場時にほぼ必ず「もう一度説明するね」のセリフが入る。これにより、キャラの深堀りを必要最低限に抑えられたのでは。だから、キャラの渋滞感は感じられなかった。
欲張ってもう一点。歴代作品のファンが喜ぶオマージュが盛りだくさんな点。ダンスシーンを見て思わずこちらもにっこり。
【演出】
本作の最大の見どころが、新しい映像表現である。これぞ「マンガ動画」である。映像に文字を加えるという、一歩間違えればギャグコメディと化す表現方法で映画を成立させたのは素晴らしい。見ていて飽きない。
好きなシーンがある。マイルスがスパイダーマンのウェブシューティングを試すために階段を上がりビルの屋上に上がるシーン。ここはギャグシーンなのだが、当時のマイルスを丁寧に表現した素晴らしいシーンだと思う。彼が正真正銘のスパイダーマンになった後、ビルから降下するシーンと対照的である。成長したことが分かる。
【音楽】
ヒップホップが印象的だった。おそらくマイルスの出自や人種的な背景に理解があると、もっと印象的なのだろう。映画の雰囲気にあっているという感想しか出せない自分の無教養さが恥ずかしい。
【総評】
監督はボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン。
アカデミー賞も納得の出来栄えだ。映像改革の点が高く評価されたのではないか。おそらく邦画では絶対に生まれない表現方法だと思う。
次回作があれば間違いなく見に行くだろう。
【満足度】
90点
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?