#8 映画「竜とそばかすの姫」感想
田舎に住む目立たない少女が、インターネット世界で有名人となる。そして、インターネット上で嫌われている者を救う、物語である。ジャンルは、「ミュージカル」と「ヒューマン」。現実世界と仮想世界(本作ではUと呼ぶ)の両世界が対比されている。特に、匿名での誹謗中傷に対する細田の見解が脚本に如実に現れていた。
【脚本】
正直イマイチだと思った。前半はテンポが遅く、後半はテンポが早すぎで、調子が狂う。まず、気になったのは冒頭。映画は最初の10分が超重要だと言われる。10分以内に観客が面白い、あるいは面白くなりそう、と思わせないといけないからだ。本作は、冒頭がすごく長く感じる。仮想世界Uの説明が長い。その割に、Uという世界に魅力を持てなかった。『サマーウォーズ』のOZは、時代を先取りしたような仮想世界ですごく魅力的に映った。そのようなワクワク感はUにはなかった。あと、“竜とそばかすの姫』というタイトルならば、この10分以内に竜の存在をほのめかすべきなのではないかと思う。登場が遅い。
伏線がショボい。「竜の正体は?」がこの作品の醍醐味である。観客は、いろいろな伏線を探しただろうが、正体が分かって拍子抜けしたのではないだろうか。
ミュージカルなシーンが多い。多くて、しつこく感じた。音楽そのものは良かった。しかし、音楽で感動をゴリ押ししている感は否めない。新海監督の『天気の子』でも思ったが、壮大な音楽を映画館の大音量で流せば、なんとなく圧倒されてしまう。感動を錯覚させているのだ。
登場人物が多い。すずの高校友達や合唱のおばさまたちは、正直魅力的なキャラクターではなかった。幾田りら演じる別役弘香ぐらいしか印象がない。おばさま軍団は本当によくわからない。究極言えば、いらないと思った。
「竜のその後」が描かれていない。すずは竜を虐待から解放したわけだが、それ以後竜が描かれておらず、後味が悪い。サマーウォーズはその辺の状況が最後まで丁寧で一件落着といえた。本作は、それがない。
【演出】
素晴らしい映像技術だと思う。さすがと言う以外他ない。Uの表面的なデザインは素敵だと思う。
【役者】
すず/ベル:中村佳穂
竜:佐藤健
しのぶくん(久武忍):成田凌
カミシン(千頭慎次郎):染谷将太
ルカちゃん(渡辺瑠果):玉城ティナ
ヒロちゃん(別役弘香):幾田りら
ジャスティン:森川智之
イェリネク:津田健次郎
スワン:小山茉美
ひとかわむい太郎・ぐっとこらえ丸:宮野真守
吉谷さん:森山良子
喜多さん:清水ミチコ
奥本さん:坂本冬美
中井さん:岩崎良美
畑中さん:中尾幸世
すずの父親:役所広司
【音楽】
良い。が、上でも記したようにしつこさが残る。男女の恋模様、仮想現実、親子関係。この作品は扱っているテーマが多すぎで、それに加えてミュージカルは重い。ただ、音楽自体はすごく良い。
【総評】
傑作ではないが、酷評するほど悪くないと思う。細田氏は、脚本の実力はさほど高くないと思っていたが、本作もそのイメージを覆すには至らなかった。そうは言うものの、日本のアニメ映画をリードすべき監督だと思うので、次回作に期待したい。
【満足度】
80点
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