春のちょっとポタシリーズ7 長井と最上川とレトロ駅舎と(山形)
はじめに
山形置賜、最上川のほとりにある長井は好きな町のひとつだ。その周辺の田園風景も自転車向きで、これまで何度も訪れてはポタっている。
しかしこれまではついつい市街の西側に偏ってしまうきらいがあった。そこでたまには最上川の東側の一帯を探索してバランスをとろうと思い立ったのである。
その辺りを走るのは初めてではないが、前回走ってからはもう何年も経っている。ずいぶん久しぶりな気がする。
大まかなルートは、川沿いの道をたどって南から東へ走り、東側の伊佐沢地区を北上してループを描くというもの。
さらに、ルートの南北に位置する山形鉄道の二大文化財駅舎〜西大塚と羽前成田〜をもランドマークとして訪ねるという目的も盛り込んだ。
最上川に沿って
長井の町の中心部、河川敷の公園から走り出す。
この付近の流域には堤防上によい道が作られている。河川管理用の道路で一般車は通れないのでサイクリングに最適だ。
山形県並びに各自治体は車道の端っこにペンキで青い線を描いて標識を立てればサイクリストが寄ってくると思っているようだが、まずは河川に沿ったこのような道の活用を図るべきなのだ、といつも思う。
真の最上川について考察する
国道287号の橋で川を渡る。
この川は飯豊の山から流れてきた白川だ。ひらけた景色の中をまっすぐ流れてきてるのでパッと見では最上川のように見える。しかし橋の北側で人家のない方に屈曲して地味に流れていくのが最上川である。
渡ってからそちらの方に走っていく。合流点は公園になっており、「最上川発祥の地」と刻まれた碑が建っている。
川の発祥とは如何なる言意か、この上流だって最上川じゃんと思うが、米沢周辺では古くから松川と呼ばれており、現在でも「愛称は松川、本名が最上川」という状態だ。その松川が白川と合流して誰もが最上川と認める部分がここからですよ、ということらしい。ややこしい。
最上川といえばさきに訪れた村山から大石田あたりの区間が有名で、誰でもあれは最上川だと知っている。その下流は最上地方というぐらいだからなおさらである。しかし上流に行くにつれその流れは曲がりくねり、合流する川も多くなり複雑になる。山形県民に白地図に最上川を描きなさいと言ったら正確に書ける人の割合はどのぐらいいるだろうか。
公園から先の最上川沿いは車道は無く、「トロッコ道」と称する遊歩道が続いている。かつて治水工事に使われた簡易鉄道の軌道跡だ。
前回訪れた際にはこのような案内はなかった。よって前回ここに来たのは平成26年=10年前以前だったということになる。
入ってしばらくの部分を除いて一応コンクリ舗装されてはいるが、歩く人もまれで脱俗感を味わえる道だ。
西大塚駅
視界が開けて人里に出る。
ここから先、さらに川沿いの道をたどってフラワー長井線の西大塚駅を目指す。
最近のローカル鉄道はラッピングなんちゃらでムダに派手な塗装のものが多いが、田園風景にそぐわないこと甚だしい。写真に撮ってもなんだかなあという感じだ。思えば旧国鉄ディーゼルカーの朱色とクリーム色の塗り分けは日本の自然に溶け込む秀逸な色彩センスであった。あれのほうが見栄えがいいし、鉄道マニアも喜んで集まると思われる(実際最近やっているところもある)。
そんなことを考えているうち西大塚駅に着いた。
1914年開業当時の姿をとどめる佇まいは鉄道界のレジェンドのひとつであり、Nゲージで模型化までされている。
スマート伊佐沢
ここから北上して伊佐沢地区を目指す。
途中のグラベルの道はいい雰囲気だった。
川を渡ると伊佐沢地区だ。細長い盆地に上中下3つの伊佐沢集落が連なる。
上伊佐沢は久保桜という古木で名高い。春の開花の一週間足らずのために駐車場までつくられている。
その近くのコミュニティセンターの敷地になにやら真新しい建物が。
スマートストアとは何か。細い店か、と訝しみながら入ってみる。
要は無人コンビニであった。スマホアプリを用いたセルフレジで、支払いは現金以外で成される。一見客用スマホも用意されていた。
山形市内ですら無人コンビニはないのにこのような鄙にいきなり設置されたことにたいへん驚いた。
かつてこの集落に光学レンズの工場があったが数年前に閉鎖されてしまった。悲しむべきことだ、と思っていたら最近になって跡地に山形工科短大が移転していて驚いた。工場の建屋をそのまま居抜きである。
木造建築や木工の技術者を養成する学校で、これまではなぜこんな山奥に、と思うようなところにポツンと建っていた全寮制の学校だ(移転を機に通学制になった)。
そのため昼間人口が一挙に増えたわけだが、周辺にはコンビニはおろか商店などもない(食堂が一軒ある)。なるほど、あのスマートストアはおそらくは学生や関係者の便を図るものなのだろうかとも推察した。
羽前成田駅の荘厳
ふたたび最上川のほとりに出て、東岸の道をたどって北上する。こちら側は専用道ではない。
国道287号の大きな橋でふたたび西岸に入る。目指すは長井線の羽前成田駅だ。県道を折れて駅に向かう道からすでに雰囲気がある。
すばらしい。
数年前訪れた時は駅名標は山形鉄道標準のものだったが、今はよりレトロで国鉄風のものになっており好ましい。
大きな杉並木を背景ににした美しい建築はまさに文化財と呼ぶに相応しい。近年中国のドラマのロケでも使われたという。
この駅も模型化されている。わたしは買った(まだ作ってない)。
折しも列車が入ってきて写真を撮ることができた。駅にはわたししかいなかったので乗降客ゼロだ。乗らなくてすみません。
山形鉄道の運行スタッフの大半は他の地方からの移住者だとどこかで見た覚えがある。よいことである。
しばし待合室に座して雰囲気を深呼吸する。
1922年に建てられてからここで繰り広げられたであろうさまざまなドラマに想いを馳せる。
長井の町
駅をあとにし、長井の町に向かって裏道をたどっていく。
このようなクルマが通ることを想定してない時代に作られた細い道が随所に残っているのが長井の町のメロウネスのひとつだ。山形でも双月町界隈にこのような路地が残っている。
街の北端にあるあやめ公園を通っていく。あやめの開花は6月以降なのでまだまだ早い。
長井の町に入る。
中心部の商業はもはや残り火でしかないが、古い建物が随所に残っているのはよい。お気に入りの建築のいくつかに挨拶回りをしていく。
「水のまち長井」と銘打っているが、最上川のことだけではない。裏通りを流れる水路の織りなす風情もこの街のよさだ。
白つつじ公園はちょうど白つつじの盛りであった。
かつて公園内にあった昭和レトロ建築の市立図書館は、市役所の隣に完成した総合文化施設「くるんと」内に移転していた。
見るからにハイカラで、なんとドトールも入っている!
この町のイメージに合うかどうかは別にして、これも近年出来た道の駅「川のみなと長井」と併せて長井の新しい顔となるだろう。
長井、ドトールもすき家もダイソーもあるからすでにちょっとした都会といってもいい。
今回は数時間での駆け足ポタだったが、長井の町と周辺の風物を味わうには一日をかけてもよいくらいだ。
上杉神社以外あまり見るべきものもない米沢より、置賜の旅は長井のほうがおもしろいのではなかろうか。
長井の歴史的建造物についてはここに詳しい。
67㌻から。