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【ショートストーリー】夜中の囁き
<登場人物>
ご主人(オーストラリア在住)
アロカシアの葉1
アロカシアの葉2
ご主人:「あー、眠れない。」
午後11時に床につき午前1時に目が覚めるなんて...
床下からゴソゴソと何か物音がする。
ご主人:「やっぱりうちの床下には狐が住んでいるのかね。」
(狐が静かな時は、屋根でポッサムが大運動会だし
この家は一体どうなってんだか)
ご主人:「それにしても狐さんもよく動くなー
少しは静かにしていてくれよ」
とりあえず、目を瞑っていれば眠れるか?」
目を瞑って暫くすると、床下の狐以外の音が微かに聞こえてきた。
ご主人:「いや待て、これは音ではなく、誰かの囁きのように聞こえる。」
葉1:「あ、ご主人が起きてしまったみたい。」
葉2:「起きても私たちの声は聞こえないよ。」
ご主人:「マジかよ?もう、やめてくれよー。
眠れない夜はこれだから嫌いだ。
なんで、人が囁く声まで聞こえてくるんだよ。」
葉2:「新しい葉っぱが出てきたので、この子が
元気に開けるように私達で何とか支えないと」
葉1:「そうなんだけど、最近この植木鉢が小さいのかしら?
全員窓側に傾いてしまってるから支えるのが難しいわね。」
葉2:「そうだな、そろそろ鉢を大きくしてもらわないと...
あるいは、土をもう少し足して貰うとか。」
ご主人:「え?何の話だ?鉢だとか土だとか...」
葉2:「それにしても、ご主人がくれるお水は美味しいからなー。
雨水だもんな...」
葉1:「そうですね、ご主人様は私たちの命の恩人ですもの。
あのお店の片隅でひっそりとまともに水も貰えず
すっかり葉を出す元気を失くしていたところ
あの方がお水をくれて...」
ご主人:「え?何?これって去年ホームセンターでタダで
貰ったアロカシアが葉っぱ同士で喋ってるってこと?」
昨年の冬にホームセンターに行った時に
無料という張り紙がしてあった箱に入っていた
アロカシア。よく見ると、小さな芽のようなものが見えて
何とかしてあげたいと思い、家に持ち帰ったのだった。
家に帰って鉢から取り出して根を見ると、
長くて太い立派な根っこが広がっていた。
ご主人:「これは、大事にしてやれば育つな。」
僕はまず十分な空気と水をあげようとガラスの花瓶に
雨水を注いでそこにアロカシアを入れてあげた。
そう、簡易ハイドロポニックだ。
小さな芽のような葉っぱはぐんぐん成長して
葉を開き、2枚目の葉も出てきた。
ご主人:「やっぱり思った通りだ。」
その後、アロカシアは成長し続けたのだが、
ある日、葉の先に雫ができることに気づいた。
その雫は、大きくなるとスーッとテーブルの上に落ちるのだが、
すぐにまた新しい雫が葉の先につく。
ご主人:「そろそろ植木鉢に戻して欲しいのかな?」
僕は寒くなる前にプラスチックの植木鉢に移して
それを小洒落た鉢に入れてあげた。
ところが、それでも葉先に雫をつける。
毎日毎日絶えることなく。
僕は深く考えず毎日なんとなくその様子を見ていた。
今は、見事な葉を10枚ほど広げて、
私の目を養ってくれている。
それで十分だ。
葉1:「本当にお水が美味しくて嬉しいと
私達愛されているのだな〜と
葉から涙が出てしまいますね...」
葉2:「そうだな。」
ご主人:「え?ちょっと待て。
あれは嬉し涙だったってことか...」
観葉植物の会話なんて聞きたくなかったけど、
聞こえて良かったのかもな。
ご主人:「明日、リポットしてやるか…」
-End-