【ショートストーリー】獣コブ
これは、どこにでもある普通のお噺
鏡に映るある美しい少女の左の頬には
獣の形をした大きなコブができていた。
母に訊いた。
「どうして私の頬には獣の形をしたコブがあるの?」
「そんなのないわよ。気のせいよ。
いつもあなたは美しいわ。」
友達に言った。
「私の頬にくっついている獣の形をしたコブが怖い。」
「そんなの見えないよ。きっと夢で見たのよ。」
鏡を見ないでコブに触ろうとしたけど
コブが見つからない。
ある日森に流れる小川で水面に顔を映すと、
獣はまだ少女の頬についていた。
そこに老人が通りかかった。
「もしや、獣の形をしたコブが見えるのかね?」
「はい。」
「コブを取りたいかね?」
「お爺さん、コブの取り方知ってるの?
知っているなら教えてください。」
「よかろう。だが簡単ではないぞ。
少し時間がかかるが言う通りにすれば必ず取れる。」
「はい、お願いします。」
「まずその獣が鏡に映っていたら
左側の顔だけ笑顔を作り
『私に奉仕してくれてありがとう。
神のご加護がありますように。』
と言いなさい。
次に鏡に映る自分に向かって
『オーケル、オーケル、プローテロウーハ』
と呪文を3回唱えるのじゃ。」
「え、それだけ?」
「簡単に聞こえるが簡単ではないぞ。
続けていればある日突然獣はいなくなる…」
「はぁ…」
「その手の獣の好物は『囚われた心』じゃよ。
存在を気にするとピッタリと
どこにでもくっついてくる。
存在を気にしないと
自由にあちこち動き回り
お前さんのところからも離れる。」
「本当にそうなら良いけど…」
「信じるか信じないかはお前さん次第じゃ。
ガーハッハ!」
老人は軽快に鼻歌を歌いながら去って行った。
<完>
拙い文章ではありますが、最後まで読んで下さりありがとうございます。