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エイミー・アダムスがオスカー女優になる日は来るのか
11月頭、エイミー・アダムス主演作『Nightbitch』を東京国際映画祭で観た感想を載せようと書きかけていたのですが、アメリカ大統領選挙ショックの気力喪失と業務多忙でアッと言う間に12月になってしまいました。選挙の結果がオスカーに及ぼす影響について、はそのうち書くこととして。
オスカーウォッチャーの私には、個人的な思い入れのある女優が何人かいます。実力はあって何度もノミネートされているのに、何故か受賞に至らない女優達。まぐれで初めてノミネート、とか、止まらない勢いに乗ってオスカーまで駆け抜けた、と言うような女優が受賞する度に、本来なら彼女の方が...と思う、そんな女優の筆頭にいるのが、私にとってはエイミー・アダムスです。エイミー・アダムスはインディペンデント業界で旋風を巻き起こした『Junebug』でオスカーにノミネートされて一躍注目を集めた後、『魔法にかけられて』で女優として名前が知られる存在になりましたが、その時既に32歳。ハリウッド女優としては遅咲きです。ハリウッドでは昔から、40歳を過ぎた女優を主演に据える作品はとても少なく、その少ない役を与えられるのは一握りのスター女優達なので、30代までにオスカーを獲らないと、その後の受賞、特に主演女優賞受賞は至難の業と考えられてきました。最近でこそ、その年齢が40代くらいまで延びた感はありますが、それでもやはり、女優は若い方が有利です。エイミー・アダムスは既に主演女優賞1回、助演女優賞5回のノミネート経験があります。そろそろ獲らないと、最多ノミネート、無受賞の記録を持つ女優になってしまう、と危惧していた時に出て来たのが『Nightbitch』でした。
女性監督マリエル・ヘラーが手掛けるこの作品は、壮大な母親賛歌です。この作品でアダムスは、ストレスを抱えて身だしなみも気にかけない郊外の母親から、ニューヨークで個展を開くアーチストの美しい姿まで、見事に演じ分けており、女優としての底力に脱帽するばかりです。物語は、育児に疲れる専業主婦が夫とのすれ違いを感じる度に少しずつ犬化していき、夜になると犬となって町を駆け巡るという、ちょっと説明しきれない内容なので割愛しますが、母性の本質はとても野性的、動物的なもので、それと相対する社会と言う場所で女性が生きるにあたり、必要なものは何か、アイデンティティとは何なのかなど、色々なテーマが浮かび上がるとても面白い作品です。登場人物に名前がなく、子供の事も「ベイビー」と呼んでいるところに、この物語が特定の誰かの話ではなく、普遍的な内容であることを伝えたい作者の意図を感じました。
今年のオスカーで何が頭角を現すかは、すべてこれからなので何とも言えませんが、現状注目されている作品には『Wicked』『Emilia Perez』『Anora』など、主演女優が強い作品が多く、今年の主演女優賞ノミネートを勝ち取るのは容易ではありません。まずはゴールデン・グローブのノミネーションに滑り込めるか。オスカーノミニー常連の彼女も、絶対に確実とされた『メッセージ』でノミネーションを逃した経験があり、今回も決してオスカー向きの作品ではないので、なかなか厳しい戦いになると思います。どんな役もこなせる唯一無二の女優エイミー・アダムス、何とか50代でオスカー女優になって欲しいと心から思います。