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選挙と長編ドキュメンタリーで思ったこと

急遽行われることになった衆議院選挙により、NHKでは連日政見放送ばかりが流れる毎日が続きましたが、そんな中によだかれんさんと言う、トランスジェンダーの候補者を見つけました。どうやら今回が初めての選挙ではなく、以前も参議院選挙に立候補されていたようですが、私は今回まで存在を存じ上げず。日本でもようやく普通にトランスの方が選挙戦を戦う時代になったのだなと嬉しく思いました。

同じテーマで、先日たまたまNetflixで新作として出て来たドキュメンタリー映画、『Will and Harper』 を見ました。コメディアンのウィル・フェレルと、長年の彼の友達でSNLの脚本家ハーパー・スティールが、アメリカ横断のロードトリップをする話。ハーパーはもともとアンドリューと言う名前の男性として生まれ育ちましたが、数年前にトランスジェンダーをカミングアウトしたそうです。この旅はウィルの発案で、女性になったハーパーが一人ではなかなか踏み出せない行動、例えば男性の趣味の象徴で、ハーパー自体男性時代に大好きだったスポーツ観戦やバー訪問を、ウィルと一緒に女性として経験していく内容になっています。

南部や中西部の、保守的な場所も訪れる二人は、時に差別を受けながらも、その経験を受け止めながら進みます。終始自然体で進む二人の旅行がとても素敵なのは、それが常に自然なコメディで溢れているからです。何と言ってもSNLの脚本家と演者。トピックに正直に向かい合っていても、根本的に面白い二人の人間性は会話のひとつひとつに反映され、それが厳しくも楽しい人生を物語っていて、私達は共感せずにいられないのです。長年の友人がお互いを助け合い、新たな友情を育む。笑いあり涙ありの素晴らしいドキュメンタリーだと思いました。

旅の途中で印象的なシーンがあります。それは、バスケットボールの試合会場で、たまたま来ていたインディアナ州知事にふたりが遭遇し、知事の希望で記念撮影をするのですが、その場ではハーパーに対して親切に振る舞っていた知事が、翌日には反トランスの投稿をSNSに上げるという、彼の偽善者ぶりを露呈するエピソードです。面と向かって主張をする勇気のない政治家の卑怯な一面が明らかになった、有権者として政治家を見る目を養う必要性を感じた重要な場面でした。

現時点でオスカー候補として名前が挙がっている長編ドキュメンタリーは本作の他に、服役中の父親たちが娘を招待して獄中でダンスパーティを開くために更生活動をするDaughters(Netflix)、虐げられてきたネイティブ・アメリカンの人権について扱ったSugarcane(National Geographic)、そして日本のセクハラ事件を題材にしたBlack Box Diaries (MTV Films)などがあります。これら3作品は、1月のサンダンス映画祭でお披露目され、好評を博した作品です。その後の映画祭でも様々なドキュメンタリー作品が登場し、今月に入っていくつか批評家賞のノミネーションも発表され始めました。オスカーに関して言えば、長編ドキュメンタリーはまず12月に15本のショートリストに絞られ、そこから5本のノミネーション作品が決まるので、まだまだノミネーションに言及するのは早いのですが、話題になっているドキュメンタリーは皆秀作揃いなので、この時期にひとつずつ見てみるのも、良いものです。

本日日本では衆議院選挙、そして10日後にはアメリカ大統領選挙がありますが、世界がより平等に、差別のない環境になっていくことを願ってやみません。


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