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オスカーにおけるカテゴリー詐称 Part II
2月22日、つまり今週土曜日、名古屋の中日文化センターで講演をします。講演と言うか講義と言うか、オスカー予想の仕方や今年の傾向などについてなんとなくレクチャーめいたことをする、と言う主旨ですが、既にチケットを買って頂いている方には感謝しかありません。そのための資料をせっせと作っていたら、いつの間にか今日になってしまいました。今日はBAFTA明けの月曜日です。
先週、10本中9本の作品賞候補を見終わりました。Nickel Boysはアマゾンで配信が始まるまでお預けですが、その他の9本を見た事で、大体予想が出来る状況は整ったわけです。最後に見たのはWickedでしたが、これが素晴らしすぎて、この作品がここまで大した賞を獲っていない事に残念な思いになりました。私としては、この作品こそアカデミー賞作品賞を獲るべき作品だと思いました。そんな風に思ったのは『タイタニック』以来です。これは、その作品が2024年のベスト1と思うかどうか、自分にとって一番の作品かどうかとはまた別の問題で、私にとってのナンバー1はいまだに『リアル・ペイン』なのですが、オスカーにふさわしいという意味においては、どう見てもこの作品なのではないかと思ったわけです。すべてにおいて文句なしでした。
Wickedまでの9作品を観て再び感じたことは、今年のカテゴリー詐称のおおいこと!Wickedもシンシア・エリヴォとアリアナ・グランデのダブル主演作品で、アリアナが助演に回るのはどうなんだろう?と思わせるものでした。今年はこれに加えて、前回書いたゾーイ・サルダナと私の大好きなキアラン・カルキンがいます。この3人は、主演としてエントリーされた俳優と同程度(サルダナは主演以上)のスクリーンタイムを持ち、話の筋においても彼等をおいて語れない重要性を持つ役割を担っています。つまり、彼等の役柄がなければストーリーが進まないくらい重要な登場人物なのです。
かつてこのような状況では、二人とも主演でエントリーされました。私がオスカーを見るようになってからの例で一番鮮明に覚えているのは『テルマ&ルイーズ』のジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドンです。二人とも受賞はなりませんでしたが、主演女優としてノミネートを受けました。作品が強く、女優達の演技も卓越するものであれば、両方主演でもノミネートはされるのです。90年代までは常に、そのような扱いでした。『アマデウス』ではモーツァルト役のトム・ハルスとサリエリ役のFマリー・エイブラハムが主演男優にノミネートされ、エイブラハムが受賞しています。タイトルを冠した役柄を演じた俳優でなくても(つまり今年のサルダナ)、受賞は可能なのです。
エミリア・ペレスで主演を演じたのに助演女優賞にエントリーされ、ほとんどの賞で受賞を続けるゾーイ・サルダナは、オスカーでもフロントランナーになりました。共演の主演女優、カルラ・ソフィア・ガスコンが問題を起こしても、うまく立ち回って、現状フロントランナーの位置を維持しています。彼女は本作で本当に素晴らしい演技と活躍をしているし、そもそも主演の活躍なのだから助演で受賞は当たり前、とは私も思います。が、本来の主演でノミネートされて、しかも受賞していたならば、彼女は初のラテン系女優として主演女優賞を受賞出来た、と言うことを考えると、今回カテゴリー詐称の状態でエントリーされたことが悔やまれてなりません。また、本人もオスカー獲得に躍起になって、最近のスピーチはちょっと鼻につくようになってきました。それもよろしくありません。
オスカーは、予定調和よりもサプライズが感動を呼びます。無難に受賞するために主演級を助演に置くよりも、並みいる競合に打ち勝って受賞する方がずっと印象に残ります。そういう意味において、今年はカテゴリー詐称が多いのが私には少し残念です。
(それでも『リアル・ペイン』は最後まで応援します。)