育成世代の指導者がやってはいけないこと
いま私は日本リーグの現場にいます。
日本で最高峰のリーグであり、
チームも日本一を目指すという集団です。
しかし、育成年代でもトップカテゴリーでも、
アプローチの仕方は基本的に変えていません。
指導しているときに意識していることをまとめてみます。
すべてを与えること
すべてを与える、というのは非常に危険です。
いい環境を提供するというのと、
すべてを与えるというのは同じではありません。
トレーニング環境にしても、
プレイの選択肢にしても、
すべてを与えてしまうと、
それがすべての基準になってしまいます。
その環境以外の場所でプレイができない、
パフォーマンスが落ちる、
力が発揮できない、
となると、結局変化に弱い選手になってしまします。
限られた環境下でしか
パフォーマンスが上がらない選手を育てたいわけではないです。
海外でプロ生活をしていて実感したのですが、
アウェイの試合では本当にいろんなことが起きます。
移動も長いし、バスが遅れたりとか、
食事がコントロールできなかったり。
日本リーグのように、
前日入りしてホテル宿泊でコンディション整えて、
なんて環境ではないです。
だからこそ、自分でコンディションを整えないといけないし、
そのすべを試行錯誤するし、
どんな状況でも、どんな環境でも、
最低限のパフォーマンスをするという
心と体の準備が必要です。
普段から与えられてばかりだと、
一番大事な試行錯誤と、
経験というものが得られないんです。
思考停止に導くこと
すべてを与える、ということと直結する
といっても過言ではないのですが、
何もかもを与えてしまうと、
思考停止になってしまいます。
プレイにしても
「こうしろ」
「絶対にこれだ」
「できなかったらペナルティ」
というアプローチをすると、
「こうしておけば怒られない」
「言われたことをやってれば機嫌がいい」
「はい、すみません」
と言って怒りが通り過ぎるのを待つ。
という風になってしまいます。
そこには一番大事な「判断」というものがなくなってしまいます。
「怒られないように」
というモチベーションになってしまいます。
「怒られないようにプレイする」
ことが目的ではないはずです。
競技スポーツをしていたら、
ある程度の強制力や制限が出てくるかもしれませんが、
「何も考えずに」プレイするというのは、
本当に限定的でその指導者、その環境下でしかパフォーマンスができない選手になってしまいます。
だから、思考停止に陥らせる指導者は
教え子が次のステージに上がった時に嘆くのです。
「うまくなっていない。指導してくれない」と。
いやいやいや。
それは思考停止にさせて、
型にはめた指導をしていたせいであって、
言われないとやらない、
怒られないとできない、
考えることができない選手を作っているからなんです。
Vリーグの監督に育成年代の指導者で一番やってはいけないことは何かと問うたとき、真っ先に返ってきたのはこの答えでした。
余白を残す
すべてを与えず、
思考停止に陥らせず、
どうしたらいいのか、ということになりますが、
私自身の回答としては、
「余白を残す」
ということです。
これはプレイの選択肢だけではなく、
選手の発言、トレーニング内容、トレーニング時間などがあります。
トレーニングを計画するときもそうですが、
あまりびっしりと詰め込んでやり過ぎると、
いっぱいいっぱいになってしまうんです。
例えば、普段のトレーニングの最後に
フリーの時間を設けるとどうなるでしょうか?
選手はその日のトレーニングでできなかったことをやることが多いです。
納得いっていない部分があるからですよね。
あとはベテランになると調整に入るかもしれないし、
後輩で気になった子がいたら教えるという作業になるかもしれません。
育成年代で気をつけなければならないのは、
「とりあえず自分の好きなことをする」ということです。
必ずしも「好きなこと=強くなること」ではないはずです。
本当に自分に必要なものは何なのかを考えて、
多少なりともきついことでも自分で設定して取り組まないと力になりません。
好きなシュートを好きなコースに思い切り打ってるだけでは
なかなか課題を克服することにつながりません。
余白というのは、頭の余白でもあるので、
しっかりと自分を見つめて考えるということになります。
この自分を見つめるとか、
弱さを受け入れるというのが、
結構難しいのです。
余白の部分で、その弱さと向き合える選手は、
伸びる選手だと思います。
フリーの時間を設けることで、
選手の取り組みを観察してみると面白いですよ。
まとめ
競技スポーツの現場を例に書いてきましたが、
これは教育の現場、家庭での教育でも同じことが言えると思います。
先日の知人との会話の中で
「孫がこのプリンじゃない。ママの味じゃないから食べない」
と言って駄々をこねたと話していました。
子供が欲しがるものを与える
子供に不自由させない
というのは大事なことです。
でも、すべてを与えてしまって、
それ以外は受け入れない、できない、食べない、
というのはあまりにも生きる世界観を狭めてしまいます。
自己主張するのも大事ですが、
我慢するというか、それしかないのなら受け入れる。
与えられたもので最善を尽くす、というのも大事なことです。
もちろん5歳くらいの子供なので難しいのかもしれませんが、
一昔前なら「じゃあもう食べるな!」ってひっぱたかれたかもしれませんね(笑)
与えられた環境下で、自分のやりたいことをするためには
どうすればいいのか考える。
あるものを使って理想に近づいていく。
これがないと何もできない。
あの人がいないと力が発揮できない。
面白くないからやる気が出ない。
そんな限定的で、
常に誰かに何かをしてもらわないとダメな選手、
内発的動機づけができない選手を育成したいわけではないはずです。
家庭での教育も、
いつかはその家を出ていくことを考えると、
すべてを与えることが思考停止につながっていくことを
強く認識したほうがいいかもしれませんね。
強くたくましく魅力的な人として
生きていってほしいのであれば、、、ですが。