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最近読んだ本 星の航海者 笹本祐一


宇宙開発SFというジャンルがあるらしい。
そして宇宙開発SFでは、人間が音速を超えるえ移動手段を確立していることが、物語る上での必要条件であるらしい。
恥ずかしながらSFというジャンルに詳しくないため、私はこの本のあとがきで読んで初めて知ったのだが、なるほど、人の人生を描くにしろ、開発宇宙での生活を描くにしろ、ノロノロと移動していては語るべき話も始まらない。
この本は、その必要条件である超音速移動手段を封印して、書かれた所謂縛りプレイ作品であると筆者はいう。
私はSF小説の作法に詳しくはないが、それを抜きにしてもとても独創的なつくりをした作品であったと思う。
主人公のメイア・シーンは恒星間調査員として、開発された星々の間をその身で旅し、見聞きしたことを記録することを生業とするジャーナリストだ。300年以上前の、まだ2200年くらいの、まだ私に馴染みのある時代の地球に生まれ、冷凍睡眠を繰り返しながら、調査を続け、今は最先端の地球型開発惑星「ディープ・ブルー」の調査に降り立つため、宇宙空間を移動中である。
そしてディープ・ブルーでは、数百年ぶりに来訪するメイア・シーンを迎えるため、現地のガイドは彼女の半生と彼女が今まで残してきた記録を調べている。
本書の大半は、メイア・シーンが残した記録やジャーナルの記事をそのまま掲載する。彼女が生まれた時代の地球の、宇宙開発に取り組む科学者、投資ファンドの社長、法哲学研究者との対談記事や、冷凍睡眠の実験に参加した自身のレポートなどバリエーション豊かな断片的な記録を通して、彼女と彼女が生まれた時代の地球を描く。
興味深いのは、SFと銘打ちながら、科学の妙を凝らした未来の技術や生活などよりも、宇宙開発を推進する人々の思惑や信念についてより焦点があたって描かれている点だ。宇宙開発は一世一代で成し遂げられるものではない。宇宙での生活はおろか、調査機を飛ばしてその記録を待つという一実験の結果を得ることにさえ、数十年の時間がかかる。
「何故、自分がその結果を見ることはないことが明らかな実験・調査・投資を、あなたはそれほどの熱意をもって推し進めることができるのか」とメイア・シーンは対談の中で幾度も彼らに問う。もちろんその答えは様々だが、彼らはとても人間臭くて、自分はどうなのだろうかとなにか考えなければと思わせられるようだった。

次巻はいざディープ・ブルーに降り立ったメイア・シーンが描かれることと思う。地球に住む現代の延長にいる彼女は、新しい科学と倫理に基づいて開発された星で何を感じ、記録するのだろう。


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