いつまでも続編待っています『騙王』秋目人
最近読み返した本を紹介しよう。
私はファンタジー作品を好み、中でも政治や歴史について深く語られている作品が好きなのだが、その系譜に連なるのがこの『騙王』だ。
主人公のフィッツラルドは、辺境国ローデン国の第二王子として生まれた。戦と政治の才覚はあるが、血筋を重視する王家の中では決して王になることはないだろうとされる彼が、万難を排して王位をつかみ取ろうとする物語が一巻では描かれる。
本書の魅力は、『騙王』というタイトルからも推察できるように、フィッツラルドとその周囲の人物によって繰り広げられる、権力と金と己の願いの成就をめぐる騙し合いだ。
フィッツラルドと、大商会のオーナーで悪名高い高利貸しであるセドリックとの問答から本書は始まる。
隣国と戦続けるための金がないから出資をしろ、勝利の暁にはぶんどった賠償金を元手にたっぷりの利子をつけて返そうと言うフィッツラルドに対し、セドリックは負け戦には出資はできないという。それはそうだ。債務者が死んでしまっては取り立てられないし、素寒貧になった所をいくらつついても金は出てこない。
しかし、フィッツラルドも、はいそうですかとは引き下がるわけもなく、あの手この手と見えとはったりでセドリックを頷かせんとする。
商談の場に、必勝の戦略を書き込んだ地図を広げておき、セドリックが「それは何か」と問えば「見られてもいたくもかゆくもない」と言う。そこにあるのはおそらく隣国にしてみれば大枚をはたいてでも欲しい、黄金の戦略図。
フィッツラルドは、セドリックが自分だけでなく敵国の将とも出資金の問答をしているのを知っている。だから、餌を商談の場に見せびらかし、セドリックの出方をうかがう。
この高利貸しは戦略図を敵に売るのか、それとも必勝の戦略を観てフィッツラルドへの出資の見返りを確信するのか、はたまた、戦略図は売られることを待ち望み、敵を術中に嵌めんとするのか。
そんな化かし合いを繰り返しながら、フィッツラルドは己の願いの成就のためにつき進む。彼の周りにいるのも、また事情と高き信念を抱えた者たちばかりで、彼らは利害があれば利用し合い、時に裏切り、しかるべき時が来るまでひっそりと息をひそめ、爪を隠す。
複雑に絡み合う人間の思惑の隙間を縫うように、博打を打ち続けながら歩を進めるフィッツラルドと、すべての策謀を乗せて歴史の流れに身を任せるローデン国の行く末から目が離せない。
追伸
先日Abema TVでアニメ『現実主義勇者の王国再建期』を観て思ったことがある。この作品は、おそらく流行のなろう小説の先駆けになり得た作品だろうに、12年前に出版されたばかりにあえなく打ち切りになってしまったことがとても悔やまれる。