将来はカカオ農園主に!?
自他共に「カカオばか」の異名を持つ佐久間悠介は、食品開発部カカオ1グループで「meiji THE Chocolate」を担当しています。カカオの原産地にもくまなく足を運び、カカオ農家と熱く語り合い、プライベートでもチョコレートのリサーチを欠かさない佐久間が「meiji THE Chocolate」のリニューアル秘話を語ってくれました。「カカオばか」ならではの、チョコレート愛に満ちたお話が始まります。
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ひたすらカカオ豆をいじりまわす毎日。
私は大学で生物学を専攻し、病気の原因となる細菌や微生物の研究をしていました。薬学系の学校だったので、就職先としては薬品会社が一般的なんですが、薬の開発はスパンが非常に長く、会社勤めの間に商品を開発できるのはせいぜい1回程度。もっと多くの商品を市場に出してみたいと考えて、会社説明会で会った明治の人事担当者に「食品の仕事をしたい」とアプローチをして入社に至りました。チョコレートもカカオを発酵させてから加工するので、生物学とのつながりはあるんです。
チョコレートは好きでしたし、明治といえばチョコレートなので、できればチョコレートの開発に携われたらといいな。そう思っていたら、基礎研究部カカオグループという部署に配属になりました。当時は少人数のマイナーなグループです。そこではひたすらカカオ豆をいじりまわし(笑)、カカオをどう焼いてどうすりつぶせば美味しいチョコレートができるかを研究する毎日を送っていました。
入社2年目からは、カカオ豆の原産地に足を運ぶようになりました。カカオ豆は農家から現地の会社を経て船便で日本に運ばれ、商社経由でメーカーのもとに届きます。現地の農家と明治との間にたくさんの人が介在しているため、話が伝言ゲームのようになって、こちらの要望がうまく農家に伝わらないんですね。100個サンプルが届いても、使えるのは5個ぐらい。向こうからすれば、どうして5個しか使ってもらえないんだ、という思いがあったと思います。
この問題を解消するにはダイレクトにコミュニケーションを取るのが一番です。ブラジル、ベネズエラ、ペルー、ベトナム。メイジ・カカオ・サポートが支援しているカカオの産地はすべて訪れました。
(明治がサポートしているブラジルのカカオ農園にて)
憧れの、ザ・チョコレート
基礎研究カカオグループで4年半を過ごした後、グループ会社に異動になりました。チョコレートの生産を行う会社です。その後、2014年4月から本社に移り、菓子の商品開発部に配属になって、meiji THE Chocolateの担当になったのは2017年10月からです。
カカオの研究経験があったこともあり、実はその前からmeiji THE Chocolate開発者となる山下の手伝いをしていました。その流れもあって担当になった形です。私は周囲から「カカオバカ」と言われるほどカカオ好きなので(笑)、「meiji THE Chocolate」は憧れの商品でもありました。
どれぐらい「カカオバカ」なのか。自分で表現するのは難しいですが、チョコレートは本当に大好きです。カカオの原産地に行くと、条件をたくさん立てて発酵試験を行い、向こうにいる間に100種類ぐらいのサンプルを作るのです。それをチョコレートにしてすべて試食していました。研究所でもそんなにテイスティングをする人はいないよとよく言われていましたね。
仕事でこれだけチョコレートを食べても嫌になったことはありません。プライベートでも、チョコレートショップを見かけるとつい入ってしまいます(笑)。最近は専門店が増えているから、行き先が多くて大変です(笑)。
カカオの個性が伝わってない!?
「meiji THE Chocolate」は発売後、2016年に一度リニューアルしています。その後、2年が経過した時点でヘビーユーザーにヒアリングしたんですが、その結果が自分としては衝撃的でした。
カカオに対するこだわりを伝えていたつもりだったのですが、たくさん食べてくれているヘビーユーザーの方々の中にも、カカオについて深く語れる方がほとんどいなかったのです。
「力強い深みコンフォートビター」「華やかな果実味エレガントビター」のように、チョコレートの質感を表現するワードを商品名にしていましたが、その名前で呼んでいる人はほとんどいません。「あの赤いの」「この青いの」と、パッケージの色で商品を呼ぶ人の方が多数派でした。
チョコレートをコーヒーやワインのように語ってもらえる、大人の嗜好品にしていきたい。それが「meiji THE Chocolate」のコンセプトです。にも関わらず現実はそうなっていない。ユーザーでもチョコレートごとの特徴を間違えたり、そもそもチョコレートの香味を表現するワードが出てこない。これまでチョコレートについて語れる言葉や情報を提供してきたつもりが、全くお客様に届いていなかったことを思い知らされて、ショックでした。
そこで、今回のリニューアルでは、産地を前面に打ち出すことにしました。参考にしたのがコーヒーです。コーヒーはいまや産地ごとに語るのが一般的になっていますよね。嗜好品の入り口として産地は大事なワードです。それまでは複数の産地のカカオをブレンドしていましたが、ピュアに産地の特徴を伝えるため、産地のカカオを100%使用することにして、それぞれの特徴を伝えていく方針に切り替えました。
そして、新たにペルーとドミニカ共和国を追加し、それまで2品あったミルクタイプは思い切って一旦カットしました。パッケージもカカオの産地を感じてもらうデザインに変更しています。
ミルクタイプは日本のチョコレート市場の3分の2を占めています。はずすことには勇気がいりました。ずいぶん議論もしました。でも、たとえ茨の道であってもチョコレートを嗜好品にしていくためにまずはこの方針で進もうと決めたんです。
垣根を作らず、専門店と協力をしてこの流れを盛り上げたい
ワインやコーヒーと同じようにチョコレートの香味を表す言葉はたくさんあります。その中でも非常に伝わりやすい表現が、ナッティ、フルーティ、フローラル、スパイシーという言葉です。この4つをお客様にお伝えしたいと考え、それぞれの特徴を顕著に持っている産地を明治カカオサポートの支援先から選びました。それが、ベネズエラ、ブラジル、ペルー、ドミニカ共和国の4つの産地です。
(今年リニューアルしたTHE Chocolate。左から、ベネズエラ、ブラジル、ペルー、ドミニカ共和国)
とはいえ、材料はほぼカカオと砂糖だけ。産地の違いをちゃんと出すために、研究所といっしょにカカオのローストや粉砕の条件など、細かいところまで詰めに詰めました。ようやく完成したところで全部食べてみて、よくカカオでこれだけの幅が出たなと我ながら感心しました。
リニューアル後は、「産地の差がわかりやすくなった」という声を多数いただきました。正直、いままでは「何が違うかのかよくわからない」という声もあったんですが、選びやすくなったという声が届いています。ブラジル産のコーヒーとブラジル産の「meiji THE Chocolate」を合わせて楽しんでいますという方も多いようです。いわゆるマリアージュですね。
発売前に、各国の在日大使館にごあいさつにうかがったら非常に喜んでいただき、発売後には大使がSNSに「meiji THE Chocolate」をアップしてくださったり、ブラジルのカシャッサ(さとうきびの蒸留酒)の関係者の方から「ブラジル産の『meiji THE Chocolate』と合わせて何かイベントができたら」というお声がけをいただいたりしています。予想外のうれしい反応です。
「meiji THE Chocolate」は、ビーントゥバーの専門店のようにおしゃれな空間で売るものではないですし、もともと我々のようなメーカーは、お客様と対話をしながらチョコレートの魅力を伝えていくことは、得意ではありません。でも、手に取りやすい売り場と価格で良質な商品をお客様に提供できる。「meiji THE Chocolate」をきっかけにチョコレートの魅力に触れ、そこからお気に入りのビーントゥバーのお店を見つけて、カカオについて語っていく人が増えていったら、こんなにうれしいことはありません。
デパ地下に並んでいる高級チョコレートとは別軸で、お客様がビーントゥバーのようなちゃんと作られたものに価値を見出すようになったのはチョコレートにとっての一大革命だと思うんですよ。これからも、メーカーと専門店が垣根を作らず、手を取り合ってこの流れを盛り上げていきたいと思います。
カカオバカとしては(笑)、カカオの研究所にまた戻り、いずれは明治が所有するカカオ農園の農園主になりたいという夢を持っています。カカオの世界は奥深いです。やれることはまだまだたくさんありますね。
ちなみに、チョコレートは太りにくいんです。僕の体型はチョコレートではなくてラーメンによるものです。
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