フジロックは修行であるって、意外と言ってる人が少ない件。2011年フジロック体験記編Vol.3
※今回は、ど近眼という過酷な運命を背負った一人の若者が、恐るべき事件に巻き込まれた話である。
私は人生の半分くらいを、メガネと共に過ごしている。
朝起きてまずやることは、暗闇から手探りでメガネを探すことだし、夜寝る前にはメガネを外して今日に別れを告げる。
そんな人にとってメガネの破損は、生活に支障が出るレヴェルの事件である。
まず外を出歩くのは危ないし、文字も読めない。
そんな悲劇が、まさかのフジロックの夜に起きた。
大事なことなので、冒頭にこの時の教訓を書いておく。
モッシュピットにメガネはNGである。フジロックでメガネを壊したら死ぬと思え。
The Birthdayが夜のレッドマーキーでライブをやった。
調子に乗った酔っぱらいの私は、あろうことかメガネをかけたままモッシュピットに突入したのだった。
愚かな私に、容赦ないモッシュとクラウドサーフィンの嵐が降り注ぎ、一番盛り上がったタイミングで私は顔面を蹴っ飛ばされた。
そうしたら、私の目から、何かが解き放たれた。
私のメガネは、美しい弧を描きながらモッシュピットの上に飛んでいった。まるでそこに行くことがあらかじめ約束されていたかの如く、よりにもよって一番激しい場所に落ちた。
一瞬雨粒か、自分の冷や汗かのどちらかが背筋をスーッと通ったのを覚えている。
しかしこの場において、どうにもならないことは明らかなので、一旦まず目の前のライブに集中することにした。
終演後、レッドマーキーには無数の服やタオル、ゴミが泥まみれになって散乱していた。
会場には地面を血眼で凝視している人がたくさん残っていた。私と同じく、大切なものを落としたのだろう。
しかし諸君の落とし物など、取るに足らないものである。
メガネ以上に大切なものはない。お前ら自分の荷物探す前に、俺のメガネ探しやがれ。
いくら探しても、私のメガネは見つからない。時間が経ち、焦りと共に視力もどんどん下がってきている気がする。
悲しいことに、当時の私の辞書には諦めるという文字がなかった。とにかくあの汚ねえ泥の中から綺麗なメガネが発掘されることを信じていた。
途中、年上の知らない人とコミュニケーションをとりつつ、私の脳内はメガネに支配されていた。
そして、私はついに現実を知る。
泥の底から、メガネのツルらしきものを探り当てた。いよいよかとそれを引きづり当てると、何と片耳のツルしか持ち上がらなかった。私の目を強制するレンズの部分がない。それより、このツルも私のメガネの一部か分からない。
何だ、これは。
私はツルを凝視したが、よく見えない。黒色に思えるが、傷と泥だらけでどうなのか信じられない。
私は諦めて、ガラケーで近所の眼鏡屋を調べたが見つからなかった。
シティ育ちの私は、ここでようやくどこに居るのかを理解した。
私は戦慄した。
あと二日、耐えられるのだろうか。それどころか、今日を生き延びられるのだろうか。
ちょうど同じくらいの時間に、お目当てのArctic Monkeysがグリーンでやっていたが、それどころではない。
見たことのない雨と、夜中の寝室みたいな暗さ。
昔話の不気味なものとか、怪談話にありそうな環境である。山奥なので、猪とか猿が出てきてもおかしくない。
頼れる人もいない。
どうする、私!?
次回へ続く