正統派ホラー『死人の声をきくがよい』ずっと読み続けたくなる謎の魅力
私はホラー作品が好きだ。だけど、ホラー作品にもいくつか種類があると思っている。
①おぞましい何か(幽霊や怪物)が登場する系
②グロテスクなシーンが多い系
③ストーリーが不気味系
この中だと私は断然③が好きだ。映画だと『ヘレディタリー』や『アス』がそれらに該当すると思っている。
①や②のように視覚的に怖いものは、いずれ慣れが出てくる。最初は怖くても何度も思い出したり、視聴することでその怖さに耐性がついてくる。
けれど、ストーリーが不気味なホラー作品は、視覚ではなく「感性」で感じ取った恐怖なので耐性どころか、似たような作品と出会う度に恐怖が蘇ってくるように思う。
正統派ホラーマンガ『死人の声をきくがよい
そんな感性に訴えかけてくる、ストーリーが不気味なホラー作品。
マンガの中では、ひよどり祥子先生の『死人の声をきくがよい』がまさにそうだと思う。
主人公の岸田純は死んだ人間の姿が見える高校生。ある日、彼の前にセーラー服を着た美少女の幽霊が現れる。よく見ると、その幽霊は行方不明の幼馴染の早川涼子。
幽霊が見える男子高校生と幽霊になった幼馴染が、日常に忍び寄る恐怖と狂気にまみれた事件を解決していくホラー作品だ。
岸田純が、遭遇するのは幽霊や怪生物はもちろん、人間の闇が引き起こす事件など、不気味さを漂わせる題材の数々は正統派ホラー作品そのもの。
ずっと読み続けたくなる、不思議な魅力
この作品には、ホラー作品の枠に留まらず、ずっと読み続けたくなるような...そんな不思議な魅力がある。
本作は、全体的に暗い色調で描かれいて、登場人物全員にどこか陰がある。あまり「生」を感じられないその雰囲気には、思わず圧倒されてしまうほどの魅力がある。
そして、早川涼子という存在。彼女は、岸田の身に迫る危険を教えてくれる守り神のような役割を果たしているのだが、常に無感情で一言も言葉を発しない。過去の回想シーンでは、生前はそれなりに表情豊かなで明るい少女であったことが描かれているため、幽霊になった早川涼子を見ていると、命を失ったことで消失してしまったであろう人間的な感情に思いを馳せてしまい、とても切ない気持ちになる。
怖さだけじゃなくて
岸田純が遭遇する怪事件ももちろん怖いのだが、物語に漂う空気、そして早川涼子という存在が一層怖さを演出すると同時に、読み手を惹きつける不思議な魅力を醸し出している。
『死人の声をきくがよい』は全12巻。一気に読むことで、積み重ねるような心理的恐怖が体感できるので、ホラー作品がお好きな方はぜひ読んでみてほしい。