【漫画原作アイデア】『Another World-もう一つの世界-』シナリオ・設定まとめ
1タイトル
『Another World-もう一つの世界-』
2ジャンル
ミステリーファンタジー
3ターゲット読者層
10〜20代男女
4あらすじ
人は死んだ後どうなるのか?生まれつき体が悪い海斗はよくそんなことを考えていた。病気のせいで自分は長くは生きられない。どーせ人より早く死ぬなら、生きているうちに死後の世界について勉強しておこう。そう思った海斗は、車椅子生活を送りながら死後の世界について言及しているあらゆる書籍を読み漁った。しかし死後の世界について調べれば調べるほど、まだ分からないことが多いという現実に直面した。次第に死への恐怖と不安が高まっていく中、ついにその時が訪れた。海斗が目を開けると、そこには見たことがないほど美しい草原が広がっていた。そこで紫音という名の謎の女性に出会う海斗は、彼女に案内されながら美しい謎の異世界を旅することになる。そこは本当に死後の世界なのか?そして紫音の正体とは?この世とは違う全く別の世界「Another World」で海斗が目にする衝撃の真実とは!?
5登場人物
■如月海斗(きさらぎ かいと)
生まれつき体が悪く、二十歳を迎えることができないと医者に宣告された少年。死後の世界について独自で学ぶ中、突然の事故で意識不明状態となる。余命を宣告されても明るく振る舞えるほどの精神力と優しい性格を併せ持つ。勉強は割と得意。だが死後の世界の存在について思い悩み、葛藤する。
■紫音(しおん)
Another Worldで海斗が出会った謎の人物。黒髪に紫色の着物を着ているとても若く美しい女性。とても知的であり、Another Worldについての知識が豊富。褒め言葉にとても弱い。海斗の死の真相について何か知っており、海斗が死んだ原因となった事故を調べるために彼をサポートすることになる。
■東条探(とうじょう さぐる)
東京地検特捜部の捜査官。如月家を巻き込んだ事故の真相を追っている。非常に鋭い推理力と洞察力を兼ね備えている。休日はパチンコと酒に溺れているのが唯一の欠点。
■不詳の犯人
海斗とその家族を巻き込んで大事故を起こしたとされる謎の人物。最初は事故と警察は判断したが、特捜部が捜査を進めていくうちに、これは意図的に起こされたものであることが判明する。不詳の犯人とは、名前も性別も住所も一切何も情報が掴めない殺人犯に対して使われる名称である。
6世界観・設定
■Another World
海斗が死後にやってきた謎の世界。世間一般に言う死後の世界なのかどうかは不明。草原や川、空や山など、見た感じは美しいというところ以外は現実世界とはそれほど大差ない。Another Worldにはいくつもの階層があり、その人の魂のレベルが高ければ高いほど上の階層に行ける。最も上の階層は神の世界に繋がっている。
7脚本
第一話
・人は死んだ後どうなるか?・高校に進学したばかりの海斗は、常に死について考えていた・海斗は生まれつき重度の脳腫瘍を抱えていた・そのため彼は自宅で過ごしたことがほとんどなく、幼少期から海斗にとっての家は病院の病室だった・数年前に海斗の主治医は「この子は二十歳を無事に迎えることはできないでしょう」と彼の両親に告げていた・父と母は泣いていた・しかし海斗は、正直そう言われても何も感じなかった・むしろ、この苦しいだけで何の面白みもない人生が早く終わってほしいとだけ思っていた・確かに死ぬのは怖い・だが、この先もこの苦しみが続くくらいなら死んだ方がマシだった・それから、いつも通りの日々が過ぎていった・高校に進学できる年齢になっても、海斗は学校に行けなかった・人生で友達ができたことは一度もない・小さい頃はよく、友達をつくって一緒に遊んだり一緒に学校の宿題をしたりすることに憧れていた・しかし、今はそんな願望すらも考える気力が湧かない・海斗は、普段は明るく振る舞っている父親と母親が裏でこっそり泣いているのを知っていた・だから海斗も病室で両親と会っている間は笑顔で明るく振る舞っていた・だがそれは、決して両親を安心させたいからではなかった・正直、今まで病室でばかり過ごしていたせいでまともに関わったことがない親のことなんてどうでも良かった・親にも家族にも、そして自分が生まれたこの世界にも大して思い入れがなかった・ただ海斗は、自分が最後どのように死ぬかだけを考えていた・自分は人より早く死ぬ・それは確実に言える・だったら人生の最後は、病気の苦しみや痛みに屈して泣きじゃくりながら死ぬよりも、それに屈しずに病気に最後まで抗った自分の運命を笑って思い返しながら死にたい・自分は絶対に病気には屈しない・そのような死に対する強い思いだけが、海斗にとっての原動力だった・ある日海斗は、病室に備え付けてあるテレビを一人で見ていた・チャンネルを適当に変えてると、あるドキュメンタリー番組に目が止まった・それは、海外の臨死体験者に対するインタビューを取り上げたものだった・臨死体験の話は海斗も聞いたことがある・事故や病気で一度死んだ人間が、その後生き返って死後の世界で経験したことを語るのだ・番組内では、臨死体験者が経験した幽体離脱や死後の世界で出会った亡き家族などの話題を取り上げて、さも死後の世界は本当に実在するかのように熱く語っていた・しかし海斗はそれを冷ややかな目で眺めていた・(人間が死んだら脳も死ぬから、死んだ後に考えたり何かを見たりすることはできない。そんなこと小学生でも分かる…くだんね)・そう思ってチャンネルを変えようとしたその時、海外の高名な物理学者が番組内に出てきて、死後の世界について解説していた・「死後の世界の存在を証明する方法は今のところありません。ですが、現在我々が研究している量子力学という最先端科学を用いれば、仮説くらいなら立てることができます。量子力学は非常にミクロな世界を研究するものです。ミクロの世界では、我々の世界では考えられないような不思議な現象が多く確認されています。この量子力学の研究が進めば、いずれは死後の世界だけでなく、神や天使、ユニコーンやケンタウロスなどの世界中に伝わる伝説の生物の存在も証明することができるかもしれません」・海斗はテレビを消して考え込んだ・「量子力学……!」・それから海斗は、量子力学について勉強を始めた・両親に頼んでネット通販で量子力学に関する本を片っ端から病室に届けてもらった・量子力学について深く知れば、もしかしたら死後の世界のことをもっとよく知ることができるかもしれない・そう思った海斗は、それから一日中、病室で量子力学の本を読み漁った・他にも日本や海外に伝わる神話や伝承も調べた・日本神話の黄泉の国やギリシャ神話のエリュシオン、エジプト神話のアアルなど、世界中に伝わる死後の世界のことを調べまくった・死後の世界について学んでいる間は、病気の痛みや苦しみが頭から吹っ飛んでいた・元々勉強が得意な方だった海斗は、本を読んで知識を一方的に頭に入れている時間を、心地よく感じ始めていた・そんな海斗の様子を見た彼の両親は、本を読んでいる時に海斗が見せるワクワクに満ちた表情を見て、しばらく彼の好きにさせておこうと考えた・いつも両親の前で笑顔を見せていた海斗だったが、彼の両親はそれが無理して取り繕っている顔であることを知っていた・しかし本を読んでいる時の海斗に表情には取り繕っている様子がどこにもなく、心の底から読書を楽しんでいることが伝わってきた・それから数ヶ月後、海斗が病院でレントゲンを撮った時、驚くべき事実が判明した・海斗の脳腫瘍の大きさが以前の検査時よりも半分の大きさに縮小していたのだ・海斗の主治医は驚いていた・「信じられない……!今までどんな方法でも改善しなかったのに……まさに奇跡だ!!」・もちろん両親もそれを聞いて喜んでいた・実際、海斗の症状はその後、大幅に改善された・痛みや吐き気などで苦しむ回数が以前よりだいぶ減ったのだ・海斗の両親は、海斗が最近読書という本気で熱中できる趣味を見つけたのが関係していると主張していたが、医者はそれを信じようとはしなかった・しかし海斗には症状が改善した理由が何となく分かっていた・確かではないが、これもおそらく量子力学で説明できる・だが海斗はそのことを誰にも話さなかった・どうせ話しても誰も信じてはくれないと思ったからだ・海斗にとって一番重要なことが死後の世界への理解を深めるという部分は、その後も一切ブレなかった・症状が良くなったとしても、脳腫瘍が完全に消えることはない・日本の医者がわざと中途半端な治療だけして無駄に患者の症状を長引かせていることは海斗も知っていた・こんな大して美味くもない病院食を毎日食べて、ろくに運動も出来ず、周りには自分の本音を話せられる人間が一人もいない・こんな生活を幼少の頃からずっと続けてきた・いずれはどこかで限界がくるはずだ・肉体の限界ではなく心の限界が……・心を壊して惨めにカッコ悪い死に方をするくらいなら、自分の心が完全に折れる前に笑って死にたい・海斗は最期に笑って死ぬことが、この腐り果てた自分の人生への復讐になると思っていた・海斗は常に「死」という見えない鎖に縛られてきた・しかし、その鎖から解放される時は近い・何となくそう予感していた海斗は、だからこそ死後の世界への理解を早く深めようと思い、以前よりさらに熱心に読書に打ち込んだ・しかし量子力学や世界中の神話や伝承を調べれば調べるほど、海斗の中では死後の世界への理解が深まるどころか、次第に疑念感の方が大きくなっていった・理由は単純だ・全てただの仮説止まりだったからだ・神話や伝承はもちろんだが、量子力学でさえまだ完全に実証されている学問ではない・そもそもミクロの世界での現象がどれだけマクロの世界で通用のかさえ分かっていない・それに極めつけは、量子力学を語っている者の中に最近流行りのスピリチュアル系の人が多く含まれていることだ・確かに海斗も数年前まではスマホでスピリチュアルの話をよく聞いていた時期があった・科学的な証拠は全くないが、スピリチュアルの話を聞いていたら少しは気晴らしになっていた・神様の存在や自分の人生の使命など、スピリチュアルではそんな話題ばかり取り上げているが、文字通り死ぬほど苦しい人生を送っている海斗のような人間にとっては、そんな胡散臭い話でも聞くだけで気が紛れていた・しかしそれは決して長続きはしなかった・普段は強気でいる海斗の中にも、死に対する不安や恐怖は常にあった・時間の流れとともにそれらの気持ちは徐々に大きくなっていき、もはやスピリチュアルの話を聞けば気持ちが紛れるというレベルではなくなっていた・今では海斗は、スピリチュアルの話を聞くと説明できない怒りが腹の底から湧き上がってくるため、そのような話題は意識的に避けるようになった・そして現在、再びスピリチュアルに直面する海斗・海斗の中で死後の世界に関する学習意欲が一気に萎えてしまった・バタリとベッドに倒れ込む海斗・「やっぱり死後の世界なんてないのかもしれないな」・死んだ後は美しい天国で永遠に幸せに暮らすことができる・(そんなのは昔の人たちが苦し紛れに考えたおとぎ話だ…)・海斗がそう考え始めていた時、突然海斗の主治医が数日だけ自宅に帰ることを許してくれた・症状が大幅に改善していることが理由だった・それからしばらくして、海斗は周りの人の手を借りながら、両親の運転する車で家に帰った・今更家に帰れても何も嬉しくない・海斗はそう思いながらずっとムスッとしていた・しかし家に帰ってみると、そこには祖父母や兄妹、親戚一同が集まって海斗の一時帰宅を祝ってくれた・その日は一日中、家で大勢の家族と団欒の時間を過ごした・最初は素直になれなかった海斗だったが、次第に家族の愛情を受け入れ始めた・海斗は大勢の人とこんな賑やかな時間を過ごすのが初めてだった・それに、今まで笑顔を無理やり取り繕っていた両親も、その時は心の底から笑顔で楽しんでいるのが分かった・(あぁ……僕の人生って、言うほど悪くなかったんだな)・自分の周りにはこんなにも味方がいたのだとようやく実感した海斗は、その日人生で初めて声を出して笑った・楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていった・病院に戻る時がやってきた・祖父母や兄妹、親戚の皆一人一人にお礼を言ってハグをする海斗・それから海斗は再び両親の車で病院に戻った・車の中で海斗は再び死後の世界について思いを馳せていた・(死んだ後のことを考えるのはもうやめよう。周りには味方もたくさんいるし、症状も改善してる。こうなったら最後までとことん生きてやる!)・死ぬ覚悟を持つよりも生きる覚悟を持とう・そう考え方を改めた海斗の中には、今までに感じたことがない不思議な感情が湧き上がってきていた・それはきっと「希望」だ・海斗は心の中でそう決めつけた・その瞬間、とてつもない轟音が響いたと思ったら、全てが暗転した……・どれだけ時間が経ったのか全く分からなかった・しばらく何も見えない真っ暗な状態が続いた・一体何が起きたのか、海斗は全く理解できなかった・恐る恐る目を開けてみると、目の前には地平線まで続く果てしない草原が広がっていた・遠くの方には山脈が見える・耳を澄ませると、鳥のさえずりや川のせせらぎが聞こえた・上を見上げると、そこには見たことがないほど美しい青空が広がっていた・実際、ずっと病室生活を続けていた海斗はそんな景色を見たことは一度もなかった・「どこだ……?ここ………。そうだ!父さんと母さんは!?」・その時、海斗の背後で声が聞こえた・「あなたの親御さんは無事ですので安心してください」・海斗が声の方を振り返ると、そこには紫の着物を着たとても美しい女性が立っていた・黒髪を後ろでポニーテールにしている女性で、結構若い・そして不思議なことに、海斗はその女性とどこかで会ったことがあるような気がしてならなかった・しかし具体的にいつどこで会ったかは分からなかった・「……あなたは?」・すると女性は言った・「私の名前は紫音。あなたの案内役を上から任された者です」・「上から?誰から任されたんですか?そもそもここはどこなんですか?早く両親のところに帰りたいんですが……」・「大変言いにくいのですが……あなたは交通事故に遭って意識不明の状態にあります」・紫音の衝撃的な告白に一瞬頭が真っ白になる海斗・「…………………ハ?」・紫音は話し続けた・「ですがそう深刻にならないでください。あなたは今、生と死の狭間にいます。あなたは本来脳腫瘍が原因で死ぬはずだったのですが、一度に二つも想定外の出来事が起きたことで、あなたの人生の歯車に狂いが生じたのです。つまり、あなたの運命は修正することができるということです」・紫音が何を言っているのか全く分からなかった海斗・次第に怒りが湧いてきた・「何を言ってるんですか?あなたは。深刻にならないでくれだって!?ふざけるな………!!せっかくいい感じになってたのに……やっと人生を楽しめると思ってたところなのに………!交通事故で意識不明だって?そんな話信じられるわけないだろ!!あんなタイミングで事故なんか起きるわけないだろ!!もしそうだとしたら、神様は何で僕をそんなに苦しめたいんだ!?僕の人生を狂わせて何が楽しいんだよ!!!僕が本当に意識不明なら、今ここに存在する僕は何なんだよ!?ここは一体どこなんだよ!?天国とかふざけたことは言うなよ!?僕が納得できる答えを言ってみろよ!!!!!」・今まで溜まっていた怒りを一気にぶちまけた海斗の目からは、涙が溢れてきた・(ふざけるな!!どうして僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!?僕が一体何をしたって言うんだ!!!??)・すると、紫音が悲しげな表情で静かに言った・「あなたがそういう目に遭ってるのは、あなた自身がそう望んだからです」・紫音のその答えに今度こそブチ切れて彼女に殴りかかろうとする海斗・しかし紫音は臆することなく話し続けた・「そして、この世界はあなた方が言うあの世や天国のような場所ではありません」・海斗の拳がピタリと止まった・「な……ここがあの世じゃないのなら、一体ここは何なんですか!?僕は何でここにいるんですか!?」・すると紫音の表情が急に引き締まって、堂々たる声でこう告げた・「ここは現世(うつしよ)と常世(とこよ)のちょうど中間地点。現世での使命を果たし切れずに肉体を離れた者たちが第二の人生を始めるためのプラットホーム。人はこの世界のことをこう呼びます。『Another World』と」・海斗は目を見開いた・「Another World……?」
第二話
・ある休日の早朝から、都内に救急車のサイレンが鳴り響いていた・とある交差点の周りには野次馬が集まっていた・交差点の真ん中では目も当てられないほどグシャグシャに潰れた2台の車があった・それから数時間後、事故の詳細をメディアが一斉に報道した・報道によると、交差点を右折しようとした軽自動車にトラックが信号無視で突っ込んできたことで事故が起きたという・軽自動車に乗っていた夫婦は重症を負ったが一命は取り留めた・しかし、夫婦の子供である16歳の少年は打ちどころが悪く意識不明の重体となっている・しかし交差点に突っ込んできたトラックの運転手に関する情報は、なぜか一切報道されなかった・事故から数日後に都内の病院では、事故の被害者である夫婦がベッドの上で目を覚ましていた・警視庁交通課の警察官は二人に息子が危篤状態であることを伝えた・「…………っ!!海斗ぉ……!!!」・母親の悲痛な叫び声が病室に響き渡った・警察官が病室を出ると、目の前の廊下の壁に謎の男が寄りかかっていた・サングラスをかけて帽子を被っていたため顔はよく見えなかったが、若いことは分かった・30代前半くらいか?・その男は夏真っ只中だというのに厚手のコートを羽織っていた・警察官はその男を無視して歩き出したが、その男が突然背後から声をかけてきた・「おい、俺のことを調べなくてもいいのか?」・警察官が振り返った・「何だって?」・「こんな見るからに怪しい男が、交通事故に巻き込まれたばかりの不運な夫婦の病室の前にいるんだ。普通職質くらいはするだろう?」・警察官はその男を睨みつけ、適当にあしらおうとした・「別に殺人が起きたわけじゃないんだ。これは不慮の事故。警察もそう判断してる。これ以上我々の出番はないんだよ」・「本当にそうか?」・男の問いかけに疑問を感じる警官・「あんた、さっきから一体何が言いたいんだ?」・サングラスの奥で男の目がギラリと光った・「これが本当にただの事故って言うんなら、なぜ例のトラック運転手の身元が全く報道されていないんだ?なぜ警察はまともに現場検証しないまま夫婦の車と例のトラックを回収しちまったんだ?なぜ事故当初に現場を撮影していた監視カメラのデータが消えてるんだ?それともう一つ………」・男は警官の目の前に進み出て耳元に囁いた・「なぜ事故の数日前に被害者の男性の職場が火災に遭ってんだ?」・その言葉を聞いて衝撃のあまり目を見開く交通課の警官・「!!!??」(こいつ……なぜそんなことまで……!?)・この男の言う通り、海斗の父親の職場は、事故の数日前に火災に巻き込まれ、会社のコンピューターに保存されていた全てのデータが失われていた・警察はそれも電線が偶然ショートしたことで起きた偶発的な火事だと判断し、捜査を終えた・しかしこの火事についてはメディアで一切報道されていないはず・現場の近くに住んでいる者ならともかく、その辺の一般人がこのことを知っているはずがない・「お前……何者だ?警察の関係者か?」・男はポケットから身分証を出した・「俺はこういう者だ。信じられないなら問い合わせてくれればいい」・身分証の中身を見て再び驚く警官・(特捜部の人間!?)・特捜部の男は目の前の警官を脅すように言った・「数ヶ月前、検察庁に匿名である情報がリークされてな。それは日本のとある要人が東京で何かデカいことをやらかすという内容だった。そして今回の事故……。警察の対応が妙に迅速だったのはどうしてだ?お前らは事前に何か知ってたんじゃないか?だとしたらなぜその情報を俺らに黙ってたんだ?なぁ、教えてくれよ」・真っ青な顔になった警官は何も知らないと吐き捨て、駆け足でその場を去って行った・今度は男の背後に年配の捜査官が近づいてきた・「追いかけるか?東条」・「……いや、あいつは下っ端だ。どうせ大したことしか教えられてない。問いただすだけ無駄だ」・東条と呼ばれた特捜部の男は、病院を出て外の空気を吸った・「それにしても……この国は本当に腐ってんな。笑えるw」・その頃Another Worldでは、海斗が紫音と並んで広い草原の中を歩いていた・「紫音さん、さっきは殴りかかろうとしてすいませんでした。ついカッとなっちゃって。だけど、質問したいことが山程あって、何から聞けばいいか……」・すると紫音は優しく微笑んだ・「もちろん分かっています。ここに来た方達は例外なく、海斗さんと同じ反応をする方ばかりです。私が一から説明しますのでどうかご安心ください」・明らかに自分よりも年上に見える紫音がなぜ自分のことをさん付けで呼ぶのか少し不思議に思った海斗・しかしそれを無視して質問した・「あの…一応もう一度聞きたいんですが、父さんと母さんは本当に無事なんですか?」・「はい、あなたのご両親はかろうじて一命を取り留めましたよ」・「かろうじて」という言い回しに少し不安を覚えた海斗・「さ……さっき紫音さんが言ってた、運命を修正できるって話なんですが、それは僕がもう一度元の世界に戻れるってことですか?ま…間違ってたらすいません!」・自信なさげにそう質問する海斗・「その質問に答える前に、まずこのAnother Worldについていろいろ知っていただきたいと思います」・それはそうだと納得した海斗・まずはこの不思議な世界について理解を深めないと、きっと他の説明も理解できないだろう・再び静かに語りだす紫音・「あの世、天国、極楽浄土……。現世の皆さんは死後の世界のことを様々な呼び方で表現されますが、実際はそんな一言で言い表せられるような単純な世界ではありません。この世界は大きく分けて三つの領域が存在します。一つは俗にこの世と呼ばれる現世(うつしよ)、もう一つは死んだ人間や動物の魂がやってくる常世(とこよ)です。通常死んだ魂はこの常世にやってきてしばらく心の傷を癒した後、時間をかけて次の新たな人生を始めるための準備を進めます。そして3つ目が、神々の世界である神世(かみよ)です。ですが、ここは3つの領域の中でも最も特別な場所ですので、普通に生きていただけの魂は通常はこの世界に入ることは許されません」・病院生活の間に日本の神話についても勉強していた海斗は、現世や常世、神世といった単語を神話のストーリーの中で何度も見ていたため、この辺の説明はすんなり頭に入った・しかしその説明を聞いて一つ疑問点が浮かんだ海斗・「確か紫音さん、さっきこのAnother Worldは現世と常世の中間地点だって……。それってどういうことなんですか?」・紫音は質問に答えた・「言葉通りの意味です。この世界に来る魂は、生きてもいませんが死んでもいません。あなたのような、本来の計画には含まれていない想定外の事態によって生死不明の重体となった方に関しては、神世で働いている事務職の天使たちが死者としてカウントしてはいけないというルールがあるんです」・説明を聞けば聞くほど分からないことが増えていく・(………?事務職の天使?天使って職業だったの?)・その時、二人の目の前に美しい川が現れた・信じられないほど水が透き通っており、川の底がはっきり見えるほどだった・「これってまさか…三途の川ですか?」・「海斗さんがそう信じてるのなら、きっとそうなんでしょうね」・ふふっと笑いながら意味深なことを言う紫音にますます困惑する海斗・「それにしても、死んでないとはいえ今の僕って魂だけの状態なわけですよね?それにしてはちゃんと五感が働いているような……。草の匂いもするし、川の流れる音も聞こえる。周りの景色もしっかり見えてる。何よりちゃんと考えることができる。脳がないのに……何で?」・しかしその質問にはすぐに答えなかった紫音・「海斗さん。この世界のことをもっと理解したいのでしたら、あなたがあの病室で一生懸命学んだことを思い出してみてはいかがですか?」・そう言われるまですっかり忘れていた海斗・(そうだ、僕……、あんなに必死で死後の世界について勉強してたのに、何でそのことを忘れてたんだろう?)・海斗の表情を見て微笑む紫音・「では海斗さん、私からの説明はここで一旦止めましょうか。ここから先は、あなたが導き出した死後の世界についての考察の答え合わせをしていきましょう」・その頃警視庁刑事部では、一人の警部が部下が提出した捜査資料に目を通していた・「こ……これは確かな情報なのか?先日の交通事故で意識不明になった少年の父親が、理化学研究所の提携企業で量子力学の研究をしていたと?」・部下が答えた・「はい。この会社が所有する建物が事故の数日前に火災に遭っているのは、果たして偶然なのでしょうか?」・考え込む警部・「この少年の父親の名前は?」・部下はなぜ警部がそんな質問をするのか分からなかった・「え?捜査資料に書きましたけど?」・すると警部は驚くべきことを言った・「この名前はおそらく偽名だ。この父親の顔写真を見てすぐに分かったよ。こいつはインターポールが長年追いかけている国際指名手配犯だ」・部下は恐る恐る聞いた・「そ…そいつは一体何をやらかしたんですか?」・警部は答えた・「量子力学の実験で得た最新技術を用いた……テクノロジーテロだ!!!」
第三話
・都内某所・とある邸宅の一室で、一人の大物政治家が人相の悪い中年の男と会っていた・「何!?殺し損ねただと?あの状況で失敗するとは、お前の部下は無能の集まりなのか?」・「す…すいません」・機嫌を壊した様子の政治家は、大きなため息をついて気持ちを落ち着かせようとしていた・「まぁいい…。奴は裏社会からはすでに足を洗ってる。今すぐ何かをやらかす心配はないだろうからな」・人相の悪い男は恐る恐る質問した・「で…では、どうして奴をそんなに殺したいんですか?」・政治家は目を細めながら12年前のある事件を思い出した・「奴が起こしたテロで妻と息子が死んだ……!妻はとても美しい人だった。息子は優秀で、いつか私の後を継ぎたいと笑顔でいつも話していたよ。それなのに、奴は今この日本で所帯を持ってのうのうと平和に生きている。如月という姓に変えてな。奴を殺す理由はそれで十分だ」・「…………」・政治家は憎きテロリストの顔を思い浮かべながら心の中で呟いた・(因果応報……お前にも妻と息子の苦しみを味わせてやる……!たとえ私の政治生命が絶たれようとも……!!)・一方その頃、Another Worldでは……・「こ…考察って言っても……僕はただ本に書いてある内容を丸暗記しただけですけど」・紫音の突然の提案に戸惑う海斗・「いいえ、あなたはあの病室で時間をたっぷりかけて死後の世界について考え続けていました。難しいことは何も求めません。あなたが直感で思う死後の世界について語っていただければいいのです」・それでもあまり乗り気になれない海斗・「でも……僕、人とまともに話したことがないから、上手く話せるかどうか……」・「上手く話す必要はありません。大切なのは自分の考えや思いが相手に伝わるかどうかです」・紫音のその言葉を聞いて渋々承諾する海斗・「では、あの中で座りながらゆっくり話しましょうか」・紫音が指差す方向を見ると、そこには巨大な美しい宮殿のような建物があった・「え…えぇええぇ!!!??さっきまであんな建物なかったのに……!!?」・驚いている海斗に向かって紫音が言った・「それも全部、量子力学が答えてくれますよ!」・紫音がウインクしたのを見て海斗は一瞬見惚れていたが、急いで彼女の後を追いかけた・その頃、都内の病院で入院している海斗の両親・母親の里奈が悲しげに夫に話しかけた・「ねぇあなた…私、もう二度もあんな思いはしたくないわ」・海斗の父親は、海斗が産まれた3年後に里奈が再び身籠った赤ん坊を流産させたという辛い経験を思い出した・「あぁ……そうだな。だけど大丈夫だ。天国にいるあの子がきっと助けてくれる」・里奈は感情のこもっていない声で質問した・「それも……前の職場で研究して分かったこと?」・その質問に夫は答えなかった・Another Worldでは、宮殿のような不思議な建物に海斗が紫音と共に入っていった・中の様子を見て驚く海斗・そこは老若男女問わず多くの人たちで混雑していた・紫音が説明してくれた・「彼らも皆あなたと同じ境遇です。不慮の事故や突然の災害などが原因で一時的に肉体を離れ、あの世に行けず立ち往生している方たちです」・よく見ると、一人一人のそばに笑顔で話しかけている人物がいる・「あぁ、あの人たちはここのスタッフです。Another Worldにやってきた魂のカウンセリングと解決策の提案を主な仕事にしています」・海斗は質問した・「あのスタッフたちって、天使なんですか?」・紫音が答えた・「否定はしません。ですが、天使にも多くの階級があります。その中でも彼らは下の方の階級にあたります。まぁ、上だから偉いとか下の者は上に従うべきという考えはこの世界にはありませんけどね」・海斗は納得したようなしないような感じだった・そこにいたスタッフたちは、海斗がイメージしていた天使とは見た目が大きくかけ離れていたからだ・羽はもちろん生えていなかったし、天使といえば若い女性で美しいというイメージだったが、そこのスタッフの中には中年のおじさんやおばさんも普通にいた・海斗の考えを察したように、紫音が一言付け加えた・「幻滅する気持ちは分かりますよ。ですが、現世の神話や伝承で描かれている天使像は、だいぶ後世の人間による「こうであればいいな」という願望が反映されています。ですのでもしあなたが現世に帰ることができたら、人類史初期の頃の神話を調べていただければ、ここでの出来事が現実だったことが分かると思いますよ」・海斗は不安を口にした・「だけど、どうやって現世に帰ればいいんですか?」・紫音は優しく微笑んでこう言った・「それを教える前に、あそこに座って答え合わせを先にしましょう」・その後、海斗は宮殿内にある休憩所のような場所で紫音と向かい合って座った・自分の考察を上手く話せるか不安でいっぱいになる海斗・もしここで下手なことを口にすれば、強制的にあの世に送られるのではないか?・海斗は急に怖くなっていた・すると紫音が笑いながら言った・「そんなに緊張する必要はありませんよ?私は別にあなたを試そうとしてるわけではありません。ただこの世界についての理解を深めていただかないと、この先の私の説明も理解することができないだけです」・「でも、一体何から話し始めればいいのか分からないんですけど……」・自信なさげな海斗に対し、紫音が提案をした・「では、海斗さんは私がこれからする質問に答えてください。それなら簡単でしょ?」・納得いっていない様子の海斗・「はぁ……」(それじゃあまるで本当に面接みたいじゃないか)・紫音が質問を始めた・「では最初に、現世に存在するあらゆる物質は何からできていますか?」・何だその質問は?と思った海斗・そんなのは中学校レベルの簡単な問題だ・「原子…ですけど……?」・「では、その原子をさらに細かく分解すると何になります?」・「それは……」・その時海斗は、病室で読み漁った量子力学の本の内容を思い出した・「素粒子です」・紫音はさらに質問を続けた・「素粒子にはいくつか種類がありますが、全ての素粒子に共通している特徴は何ですか?」・さらに学んだ内容を思い出す海斗・「………震えている?」・ニコッと微笑む紫音・「そうです。もう一つだけ付け加えると、回転もしています。ですが今は回転については置いておきましょう。それではその素粒子が持っている震え、つまり振動という性質についてもうすこし掘り下げてみましょうか。あなたもテレビで観たことがあると思いますが、たまに声だけでグラスを割るという特技を持っている方がいますよね。あれはなぜ声だけで割れると思いますか?」・海斗は考えた・確かこれもどこかで読んだことがある・「確か……共振の原理を使っていたと思います。つまり、グラスの持っている周波数と同じ周波数の声をぶつけることで割っている…だっけ?」・「その通りです。それではここからが重要なんですが、人間の周波数とはるかにかけ離れた周波数を持つ存在があなたの目の前にいるとしたら、その存在はどう見えると思います?」・「存在って…たとえばどんな?」・「今は存在の種類は置いておいて、とにかく量子力学の面から見て、自分の周波数とは全く共振しない存在がどう見えるかをお答えください」・手を前で組んで思い悩む海斗・いくら考えても全くいい答えが思いつかない・その時、紫音がヒントをくれた・「海斗さん、理科の実験を思い出してください。氷のような固体を温めるとどうなりますか?」・「溶けて液体になります」・「では液体を温めるとどうなりますか?」・「気体になります」・「それでは、固体と気体を比べた場合、両者の周波数はどう違いますか?」・さらに頭をひねる海斗・「頭の中でイメージしてみてください。たとえば氷と水蒸気の見た目と構造を」・紫音に言われた通り想像してみる海斗・(氷はガチガチに固い。ということは氷を形作ってる素粒子もガチガチに固まってるはず。確か水蒸気は密度が低い。密度が低いってことは素粒子が動き回れるスペースがあるってこと)・その時、ピンと閃いた海斗・「気体の方が個体よりも周波数が高い。ってことは、周波数が高い物質は目に見えなくなる……?」・紫音は拍手をした・「その通りです。よくそこに気付きましたね」・自分の発見に驚いて喜ぶ暇がない海斗・「そ…それじゃあ、人間よりも周波数が高い存在は、僕らの目に見えないってこと?それって……」・すると紫音が人差し指を海斗の口元に当てた・「焦ってはいけません。ゆっくり説明します」・海斗は恥ずかしそうに頰を赤らめた・「海斗さんのご想像の通りです。このAnother Worldや常世、神世のような世界は、現世よりもはるかに周波数が高い世界です。ですから現世の人たちとは共鳴せず、五感でこの世界を認知することができません」・質問する海斗・「じゃあ何で今の僕にはこの世界を感じることができるんですか?景色を見たり音を聞いたり匂いを嗅いだり。肉体はもうないのに……」・「それは、人間の意識は肉体に宿るものともう一つ、高次元世界に宿るものの二つがあるからです。高次元世界とは簡単に言えば周波数が現世より高い世界のことです。ですので、高次元世界にあるもう一つの意識は、肉体を持っている状態ではあまり活用する場面がありません。しかし、現世で体験した記憶や感情は高次元世界にある意識、つまりハイヤーセルフに全て記録されます。ハイヤーセルフとはいわば、コンピューターのハードディスクのようなものです。そして、今の海斗さんのように肉体は死んでいないけど魂だけの状態になった人は、ハイヤーセルフと肉体の意識が量子もつれの状態にあるので、肉体がなくても五感を使うことができるのです」・海斗は量子もつれという現象を本で読んだことを思い出した・量子もつれとは、ある素粒子を二つに分けて離れた場所に置いた場合、片方の素粒子を変化させると、もう片方の素粒子に変化の情報がリアルタイムで伝わるというものだ・この現象は、二つの素粒子をどれだけ離していても同じことが起きる・たとえ宇宙の端と端に置いてもだ・「ちなみに、魂とハイヤーセルフはどう違うんですか?」・「ハイヤーセルフとは、魂という大枠の中にある高次の意識のことです」・だんだん理解してきた海斗・「……つまり、僕のハイヤーセルフは肉体の意識と常に連動してるってことですか?」・「えぇ、そう解釈していただいて大丈夫です」・これが死後の世界の正体……・小さい頃から追い求めてきた真実にようやく辿り着いたことを実感した海斗・「紫音さん、とても分かりやすい説明をしてくださってありがとうございます!死後の世界についてこんなに詳しい人なんて初めて見ましたよ!」・海斗は紫音が褒め言葉をクールに受け流すと思ったら、急に彼女は顔を真っ赤にしてモジモジし出した・「そ……そんなに褒められても、別に…これが私の仕事ですので……」・海斗は彼女の意外な一面を見てしまったような気まずい気分になった・(分かりやすいな、この人…)・気を取り直した海斗は、一番知りたいことを再び紫音に質問した・「じゃあ紫音さん、もうこのAnother Worldのことはだいぶ分かったんで、そろそろ教えてくださいよ。僕が現世に戻る方法を!」・すると紫音は急に深刻な顔になった・「海斗さん、本当のことを言います。あなたとあなたのご両親が巻き込まれた事故は、実は事故ではありません」・紫音が放った予想外の告白に一瞬思考が停止する海斗・「……え?」・「これは、あなたのお父様に恨みを抱くある人物が引き起こしたものです」・その言葉をよく理解できなかった海斗・「父さんに……恨み……?」・紫音は全て打ち明けることにした・「海斗さん…あなたが現世に戻るには、事故を起こした犯人の正体を暴かなければなりません。でないと、現世に戻ればあなたはまた危険な目に遭ってしまいます。それだけは……それだけは何としても避けなければいけません!」・海斗は、紫音がただAnother Worldのスタッフだからという理由だけでここまで自分の身を案じているようには思えなかった・そして彼女の姿を最初に見た時に感じたデジャヴのような不思議な感覚も思い出した・「どうしてそこまで僕のことを心配してくれるんですか?あなたにはあの事故のことは直接関係ないはずなのに……」・すると紫音は覚悟を決めたように秘密を打ち明けた・「関係なくはありません。それは私にとって命より大事なことです。なぜなら私は……13年前に流産で死んだあなたの妹だからです!!!」・その頃東京では、特捜部の東条が海斗の父親の職場と自宅を調べるため、捜索令状を裁判所に申請していた
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?