映画『ドリーミング村上春樹』(2017)の感想
ニテーシュ・アンジャーン監督の『ドリーミング村上春樹』を2019年11月某日、映画館で観てきた。
この映画では、翻訳する人の生活を垣間見ることができる。彼女は基本的に、穏やかで、ときに少しだけ辛辣なことも口にする。デンマークの彼女の仕事場と彼女の日本滞在に密着されている。
この映画には残念ながら、村上春樹本人は出てこない。ただ、村上春樹がデンマークまで赴き、彼女と公開対談をしたところを見るに、彼女への信頼は厚いのではないかと思われる。
カエルくんが、闇の中を何度かのそりのそりと歩いていくシーンがある。それは少し不気味で、映画に寓話的な雰囲気をもたらす。
村上春樹は、今後の評価がどうなるかわからない作家である。女性蔑視的な描写が多いと指摘する声も少なくない。それは時代の変化であると同時に、それだけ様々な人の目に晒される人気作家の宿命だろうと思う。しかし、村上春樹の性差別的な描写に気づかない人が多いのは、読み手が取り立てて鈍感というわけではなかろう。やはり、村上春樹の文章というのは圧倒的にうまく、文体が卓越しているがゆえに、読者を盲目にしてしまうのである。村上春樹の世界にいるあいだは、それらのことに無頓着になってしまう。夢の世界に導ける作家という意味では、この映画のタイトルがふさわしいのだろう。
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