映画『ハッピー・オールド・イヤー』(2019)の感想
ナワポン・タムロンラタナリット監督の映画『HAPPY OLD YEAR』を観てきた。タイ映画で、断捨離やミニマリズムがテーマである。
主役のジーン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は、スウェーデン留学から帰国し、地理的にも利便性の高い場所にある実家を改装しようと試みるところから、物語は始まる。
北欧デザインとミニマリズムに傾倒するジーンは家族と対立したり、物を捨てていく過程で、他者との和解、すれ違い、修復不可能な関係などを思い知り、今現在の関係までも、壊してしまったりする。
断捨離は、物を捨てるだけでは済まないことが丹念に描かれていく。
捨てることで前に進むはずが、過去が立ちはだかってくる。
ジーンのお兄さんは、物に溢れた部屋を眺め、つぶやく。
「オレは、ここにあるすべてのものにときめきを感じるね」
この映画では、Spark Joyのこんまり(近藤麻理恵さん)が悪魔扱いされており、彼女のワールドワイドな活躍を確認することもできる。
ジーンの元彼であるエムは、一方的に断捨離をされた側である。
彼女はスウェーデン留学するにあたり、彼との連絡を絶った。彼は運命の人ではなかったし、自分を新しくするためだ。
しかし、無視された側は、ひどく傷つく。
「君に聞いてほしい話があったし、相談したいこともあったけれど、一人で解決したんだ。」
彼の嘆きに、彼女は自分の過去の行動を悔やむ。
映画の終盤のエムの言葉は印象的だ。
「人は、見たいものだけ見て、記憶したいことだけ、記憶して生きていく。君だけじゃない。みんなそうだ。みんなそうやって生きていくんだ。」
わたしたちは、自己愛が強くて、自分勝手だ。
自分が傷つくと大騒ぎする癖に、他人を傷つけたことはすぐに忘れてしまう。
ラストシーンのジーンの表情は、何とも言えない。
彼女は断捨離して、美しい仕事場(オフィス)を作り上げたが、その道程は穏やかにはほど遠く、彼女は傷つき、疲れ果てているところで、物語は終わる。
人間関係は大事にしたい。大事にしたいけれど、鬱陶しくて、面倒くさいものだ。
それでも、前に進むしかないのだけれど。