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挑み続け、感動を超えろ。ヴェルディサポになったわたしの1年間

10月下旬。サッカーJリーグの試合は、今年も残すところあとわずかとなった。
今年は25年間生きてきて一番熱心にスタジアムに足を運んだり詳細な試合の情報をネットで探しに行ったりした。
そう、今年のわたしは誰が見てもJリーグサポーターであったのだ。


わたしの住む街はJリーグチーム、東京ヴェルディのホームタウンである。幼い頃からヴェルディの存在は近く、最寄り駅前の歩道橋にはいつも緑の垂れ幕が靡いていた(無慈悲なことに、ヴェルディがJ2降格してしばらく経ったのち垂れ幕はそっと撤去された)。初めてヴェルディの試合を観に行ったのは8歳の頃。この時は正直サッカーの楽しさなんて全くわからなかった。点がなかなか入らないので退屈だし、ピッチが遠くて観るのが疲れるのだ。
わたしは中学・高校と、どちらかといえばJリーグよりプロ野球を熱心に観ていたが、それでも毎週それとなく朝の新聞でJリーグの順位を追っていた。ヴェルディの順位はいつでも危なかった。

大学に入って、近所のサッカー場でバイトを始めた。習い事や社会人サークルなどのための地域特化型の練習場で、東京ヴェルディが管理しているサッカー場だった。バイト仲間の中には遠征にひょいひょいと行ってしまうヴェルディサポもいて、試合に行ってはいないものの東京ヴェルディの存在はぐっと縮まった。

2020年、奇跡の天使が降臨する。
東京ヴェルディの新マスコット、リヴェルンの誕生である。

リヴェルン


可愛すぎる。

わたしは一瞬で虜になってしまった。ころんとしたフォルムも、大きい目も、はしゃぐたびに取れる帽子も、スキップする姿も全てがプリティーである。当時はご時世的にもスタジアムに行こうとはしていなかったが、いつかスタジアムでリヴェルンに会いたい、そう思いながらバイト先のサッカー場でホワイトボードにファンアートを描いた。子供から大人までなかなか評判が良く、わたしの描くリヴェルンも(可愛さの)精度を上げた。練習に来ていたブラウブリッツ秋田のコーチにも褒めていただきタジタジであった。

個人的に良く書けた一枚。鳥は基本的に難しい
2023シーズンが始まると同時に描いた大作。
この頃にはリヴェルンをお手本なしで描けるようになっていた


コロナがだんだんと落ち着く中、高校の同級生でヴェルディサポの友人がたびたび試合に誘ってくれるようになった。サッカーは依然よくわからないがリヴェルンに会えるのか…と思うと行こうかなと思える。マスコットは偉大である。
友人はサッカーやヴェルディについてよくわかっていないわたしを気遣って、最初の数回はバック席のチケットを取ってくれた。彼の易しい解説のもと観戦すると、今までただ90分走っているだけに見えていたサッカー(失礼極まりない)に起伏が生まれなかなか興味深かった。


そして忘れもしない日がやってくる。2023年12月2日、国立競技場にて、わたしは初めてゴール裏に立った。

J2の3~6位のチームは「昇格プレーオフ」にてトーナメント試合を行いJ1昇格権を争う。2023年シーズン、ヴェルディは3位という好成績を残しプレーオフに参加していることは知っていたが、数年前も同じようにプレーオフに参加し確か惜しくも負けてしまったことをうろ覚えながら思い出し、まあ今年もそう上手くはいかないだろうよ、、と思いながらサッカー場でトイレ掃除をしていた。なんせもう16年も昇格してないのだから。
しかしここで友人の熱い勧誘。この試合は絶対に、絶対に観るべきだというのだ。本当か…?相手は清水エスパルス。言わずと知れた名門チームである。正直サッカーを知らないわたしにとってはなぜJ2にいるのかわからないくらい「強そうなチーム」だ。そんなチームにあのヴェルディが、横断幕を外されたヴェルディが、勝てるのだろうか?
絶対に観るべきだという言葉にはピンと来なかったが、リヴェルンもいるし、なにせ国立競技場に入れる機会はなかなか無さそうだな、と思いチケットを購入した。マスコットは本当に偉大である。

そして、この日ヴェルディは遂にJ1昇格権を手にした。友人は感無量を体現しており、国立競技場から新宿駅までの道のりを一緒に歩きながら自分の思いを今までにないくらい語っていた。彼はヴェルディ徒歩部でもあり、語りたいことが多すぎて歩き足りなそうな顔をしていた。


試合の感想についてはもう何人ものヴェルディサポさんが涙を流しながら書いているだろうから割愛する。
素人のわたしが感じたのは二つ。
一つめは、試合に行かないとわからない熱気である。昇格をかけた争いであったこともあり、国立競技場は5万人以上の観客で埋め尽くされた。この16年間、わたしのように「なんとなくヴェルディを気にかけていた」人たちがこんなにもいたのか、と圧倒された。そしてDAZNを見守る人も、テレビを見守る人も、怖くて観ていられない人も、確かにいたのだった。
また、先述の通りこれがわたしのゴール裏デビューだった。初めはサポーターみたいな顔をして振る舞えるか不安だったが、不安は楽しさに化けた。チャンスの時は皆で熱くなるし、失点した時は皆で落ち込み、励まし、鼓舞する。サッカーはチームプレーであるが、それがサポーターも含め「チームプレー」である、ということを実感した。
そして二つめ、何より、ヴェルディの試合は観ていて元気が出るということ。がむしゃらで、真っ直ぐだ。試合中失敗したり落ち込んだりしているのが素人でもわかる。それでもずっとゴールを追う姿勢をやめない。

彼らをもっと観たい。
「俺のヴェルディ」の大合唱の下、わたしはそう思った。
2023年12月2日、わたしはヴェルディサポーターになった。

劇的なシーズンが終わり、わたしは学生時代お世話になったあのサッカー場に絵を描きに行った。それはもうとびきり大きなリヴェルンとヴェルディ君を描いた。


また、シーズンが始まる頃にも絵を描かせてもらった。あたたかい職場である。描いている途中サッカーキッズ達も「スゲー!」と盛り上がってくれた。ありがとう。

J1の先輩たちに囲まれるリヴェルン。



さて、それからわたしは2023年よりもサッカーを楽しむようになった。試合自体はたくさん行けなかったのだがアウェイデビューとなった町田GIONスタジアムでの惨敗の雨や、一味違った空気を楽しんだ東京ダービー、わたしにとってホーム初勝利試合となった鹿島戦など、思い出は多い。高くて手を出せなかったユニフォームも、試合を重ねるにつれうらやましくなって8月にとうとう買ってしまった。初めてのユニ、背番号は22。お気に入りの選手である。

今年はわたしのようにヴェルディにハマったサポーターがたくさんいて(姉もそのうちの一人だ)、だんだんとにぎわってくる味の素スタジアムが嬉しかった。これも苦しい時期にチームと並走しわたしたちを先導してくれた古参サポのおかげだ。彼らが率いて、皆でつくった今の東京ヴェルディは、わたしの大切な居場所である。

そして、一年を通してヴェルディはいつもヴェルディらしい試合をしてくれて、それが素晴らしくても、酷くても、微妙でも、全部楽しい。2024年、ヴェルディはまさしく「挑み続け、感動を超え」るものをわたしたちに見せてくれているのではないか?わたしはサッカーをよく知らないが(どのくらい知らないかというとまだオフサイドを人に説明できないくらいだ)、選手たち一人一人の、そしてチームとしての成長は目に見えるほどのものであったし、それは「好成績」という言葉にはおさまりきらない夢と希望をもたらしている。


シーズンが終わるまであと3試合。

わたしたちはこれから、どんなヴェルディに会えるだろう?
わたしたちはこれから、どんなヴェルディになっていくのだろう。


眼を閉じれば、いつでも大歓声のスタジアムを思い浮かべることができる。

空にはいつでも、あの日国立競技場で感じた、夕焼けできらきらしたすがすがしい風が吹いている。


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