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奇々怪々

錯覚

 この現象が起こり始めたのは十年以上も前になります。まだ私が学生だった頃の話ですから。 
 そのころ物忘れがひどくて。よくあるじゃないですか。用事があって二階に行ったらなにをしに来たのか忘れてしまうとか、忘れ物を取りに帰ってその忘れ物がなんだったかわからなくなるとか。そういうことがあったんですよ。 
 もちろんよくあることですから気にしていなかったんですよね。でもあれが予兆というか、そういうのだったんじゃないかなって。

 そのとき大学生で、チェーン店の中華料理屋のバイトをしてたんです。基本的に講義が終わってから、夕方のシフトに入ってたんですけど、ある日寝過ごしちゃったことがあったんです。その前日に課題のレポートを徹夜で書いてまして。まあ普段から前もってやるような人間だったわけじゃないんですけど。

 確かヨーロッパの歴史についてだった気がします。ええ、きちんと覚えています。徹夜自体慣れていなかったわけではないので。
 はい、次の日のことも覚えています。ですが、家についてすぐ寝てしまったんです。体調がすぐれない日とかは午後の講義をさぼって仮眠したりするんですけど。そうなんですよ、講義はさぼるのにバイトはさぼんないようにするんですよね。ははは。
 別に体調もいけそうだったので普通に講義受けて、家に帰ってバイト着をとってバイトにまっすぐ行くつもりだったんです。それが寝てしまって。 
 いや、横になったとかそういうことはしてないんです。なんというか、信じてもらえないと思うんですけど、家についてからの記憶がないんです。
 目が覚めると、五時だったんです。そのバイトが五時から十時、つまり十七時から二十二時ですね。その予定だったので急いで家を出たんです。
 ですが外は思ったより暗くて。人も全然いなかったんです。いつもだと犬の散歩をする人とか、家に帰る小学生が走ってたりするので、おかしいなと。
 よくよく確認したら早朝の五時だったんですよ。しかも二日後の。丸一日寝過ごしたことなんてなかったですから、そうとう焦りましたね。
 休日で、その日は朝からシフトだったので、怒られる覚悟で行ったんですけど、みんないつも通りで、怖かったんですよ。
 誰も何も言ってこなかったので、恐る恐る副店長に、バイト無断欠勤してすみませんでしたって、謝ったんです。でも何だかピンと来てない感じでした。その日休んでないだろって。
 そんなわけがないんです。覚えてないですし。でもほかの人も来てたぞって言ってて、正直ラッキーだなくらいに考えてました。
 それから体が疲れているというか、重い感覚が起こり始めたんです。

 そういったことが何回か起きまして、バイトだけでなく大学のゼミとか、友人との遊びの予定とか、そういうのをすっぽかしたこともあります。でもそのたびに周りの人間は私は居たと、すっぽかしていないと言っているんです。 
 最初は記憶障害を心配したんです。病院でMRI検査とか、心理検査を受けたんですけれど以上はありませんでした。担当の医師も原因が分からないとおっしゃっていました。
 夢遊病とか、ドッペルゲンガーの心配もしました。なので、玄関にカメラを設置することにしたんです。 

 しばらくしてカメラを確認したんです。内容を確認すると、あまりのことに声も出ませんでした。そこには何人もの私が映りこんでいたんです。
 私が何度か映り込んだとか、そういうことではありません。三、四人の私が、玄関で何か話していたんです。

 恐怖?そういったことは全く感じませんでした。だって私の代わりに大学にもバイトにも行ってくれるんですよ?最高じゃないですか。正直このままでも構いません。別に夢があるわけでもありませんし、このまま乗っ取られてしまってもいいと思っています。

 どう思いますか。

 いや、この体験についてではありません。私が、本当の、つまりオリジナルの私かどうかということについてです。

 あれから私は増え続けています。今私のアパートの住人は半分以上が私です。担当医も気づけば私になっていました。こうなってはどれが私でも関係ないことですよね。教授も私、バイト先の雇い主も私、片思いしていた人も私。みんな私です。世界が私になっていくのが、うれしいのです。
 価値観が同じ人間しかいない、楽園が作られているのです。

 あなたも気を付けてくださいね。あなた自身も、もうすでに私になっているかもしれません。

 そう言い残すと、その人は事務所から出て行った。人と記したのは、その人物が男性だったか女性だったか、思い出す事ができないからである。



レビュー

★★★★☆
投稿者:きんたろう
 いい温泉でした。滋養強壮、疲労回復に効く湯だそうで、独特のにおいがしましたが、確かに体の調子が良くなった気がします。

★★★☆☆
投稿者:田中のおじさん
温泉はふつう。料理は地元でとれた魚を使っているらしいが、生臭かった。値段を考えればこんなもんかな。

★★★★☆
投稿者:ジョナサン
 露天風呂がサイコーでした!いつか嫁とまたきたいなあ。

★★☆☆☆
投稿者:youko
 部屋が変なにおいがしました。なんというか、牧場でするような刺激臭です。部屋についてる貸切風呂にはずっと清掃員の人が居て、入ることができませんでした。部屋を代えてもらいましたが二度と行きません。

★★★☆☆
投稿者:篠田 義明
 部屋にどなたかの衣類がおきっぱでしたよ。

★☆☆☆☆
投稿者:ああああ
獣が死んでいるようなにおいがする。一晩中家鳴りがする。部屋を代えてもらったが改善されなかった。行かないほうがいい。誰かの気配がした。

★☆☆☆☆
投稿者:のあ
 友達ときましたが、友達が熱を出してしまいました。背中に水疱瘡のようなボツボツがたくさんできていました。布団のせいだと思います。酸っぱいようなにおいがしました。シャワー室の排水溝が短い毛で詰まっていました。たぶん陰毛だと思います。フロントには電話がつながらず、夜中には扉が外れたのか開きませんでした。全額返金してもらいませんでしたが二度と行きません。

★☆☆☆☆
投稿者:健司
絶対に行くな。顔がぐちゃぐちゃの作業員のような身なりの化け物がいる。

★☆☆☆☆
投稿者:リョウ
 夜中に耳元で殺すと何度もささやかれた。しかも英語でだ。あれは作業着などではない。ガウンか何かだ。ベルトか何かで拘束されていて、作業着に見えたのかもしれない。

★★★★☆
投稿者:キムラさん
 このサイトをみて、恐ろしいことが起こっていることを初めて知りましたが、においもなく、人の気配もありませんでした。きっと嘘です。嫌な人間もいるのですね。

★☆☆☆☆
投稿者:リョウ
 ついてきた


弔い

 ある山奥に魔女が住んでいた。魔女は生き血を好物とし、山の生き物を喰らい、動物がいなくなると人間を動物に変え、山で繁殖させ、食料を確保した。
 この話がまことしやかにささやかれるようになったのは、その山に入った者たちが二度と戻ってこなくなってからだ。
 そして誰かが山に入ると、何日かした後に山に狼煙が上がる。救助を求めているものだと思ったが、救助に行ったものも帰ってこない。
 誰かが言った。これは罠だ。魔女の罠だ。この山にはほとんど動物がいない。だから魔女が人を食い殺しているのだ、と。
 その当時西の最果てでは多くの魔女が出没し、そのほとんどが焼かれた。その生き残りがこの山に巣食っているのだという。
 やがて村では作物が育たなくなった。魔女の呪いだとして、村人たちは遠く離れた国に助けを求めた。 

 その国の国王は敬虔で正義感が強く、村人たちから話を聞くと二日もたたぬうちに精鋭たちをその村へと遣わせた。その兵士たちはみな胸に聖なる紋章をあしらったサーコートを身に着けており、彼らの行進はそれはそれは輝かしいものだったという。
 彼らは村につくとすぐ山に入る準備を整え、一晩待って、太陽が昇るとともに入山していったという。

 彼らはひと月経っても山から帰ってこなかった。
 ことを重く見た国王は、南の国から呪術師をよびつけ、山を調査させた。

 調査が終わると呪術師は言った。この山には魔女などいない。その言葉を聞いて国王や村の民は驚いた。ではなぜ彼らは戻ってこないのか、と誰かが訪ねた。呪術師は答えた。この山には魔女はいない。だが悪魔がいる。と。
 村人たちは恐れおののいた。対照的に国王は、その悪魔たちを討伐してやる、と息巻いた。そうして後日、前回の数倍の人数を連れて村にやってきた。
 国王は言った。これから悪魔を一人残らず討伐する。もしわれわれについてくるものがあれば、喜んで迎え入れよう。そうして村の体の動く男たちは各々武装して、軍と共に山へと入っていった。

 そうして入山した彼らが見たものは悪魔であったのだろうか。山のあちこちには何かに身を食われたような骸があった。そして半分ほど登ったところで、彼らは見つけた。何物かがこちらに背を向け、骸の上にかがんでいる。その骸は、確かにあのサーコートを身に着けていた。
 軍の一人がその人物に声をかけた。我々はお前たち悪魔を討つためにやってきた。
 するとその何者かはゆっくりとこちらに向きなおした。手や口元か黒く輝いていた。それがその骸の血だと分かると、若い兵士たちがそれにとびかかり、我先にと槍でついた。
 それは幾千もの切っ先に息絶え、横たえた。兵士たちは喜び歓声を上げたが、その顔を見たある村人は腰を抜かして立ち上がれなかった。ほかの村人が近寄って様子を見ると、悪魔だと思っていたそれは、かつて山に入った村人だった。
 するとかの呪術師がどこからともなくあらわれ、こういった。我々の指す悪魔はおぞましく、地獄に潜むものではない。人間だと。


鬼女

一通目

 拝啓 梅子さん

 こうして手紙を出すのはいつぶりかしら。結婚してすぐのころ一通だして、それが最後だったと思われます。梅子さんはどうしているでしょうか。そろそろいい人が見つかったかしら。

 私の方は、三年ほど前に男の子を授かりました。かわいい男の子で、ヒロノブさんに顔がそっくりなの。生む前は、子を授かることが本当に不安だったの。ほら、私は母親がいなかったでしょう。男をつくって出て行ったっきり、帰ってこなかったの。
 だから母親というものがよくわからなかったの。でも子ができると、自然に母とはどうするべきなのか、わかるものなのよ。あなたもいつか分かるはずよ。
 問題はヒロノブさんの方なの。仕事が忙しいって、最近帰りが遅くて、休みもほとんどないから、家にいないのよ。役場って座っていればいいものだと思っていたけれど、忙しいときもあるのね。
 それで私も頼る人が居なくって、梅子さんに手紙を出したのよ。もしお暇があればお返事を頂戴。それではお体に気を付けて

 敬具

二通目

 拝啓 梅子さん

 お手紙、届いているかしら。返事が来ないようでしたが、続けてお手紙を出させていただきます。うっとうしかったらごみと一緒に捨てて頂戴。

 ヒロノブさんったら、まだ帰りが遅いのよ。どうもおかしいなと思って、役場に勤めるご近所の方に聞いてみたのよ。最近は忙しくて大変でしょうって。
 するとその方は、確かに、どうやって暇をつぶすのかで大忙しだよって皮肉っていたわ。
 おかしいと思いませんか。ヒロノブさんは忙しいっていってたのに。
 だからヒロノブさんについて尋ねてみたの。すると、あいつならいつもはやくに帰るっていうのよ。子供の世話をしなくちゃいけないって。
 それで次の日に役場へ行ってみたのよ。すると今日はヒロノブは休みだっていうの。
 私、ヒロノブさんが浮気をしてるようなきがするの。役場の人たちの噂話を聞いちゃったのよ。ヒロノブがきれいな女と歩いているところを見たって。だから今度、ヒロノブさんをつけてみるつもりなの。また進展があったら手紙をだすから、そのときはよろしくお願いしますね。私、なんだかワクワクしてきちゃったの。

 敬具

三通目

 拝啓 梅子さんへ

 聞いて頂戴。やっぱりあの人浮気していたの。
 この間、息子を隣の方にお預けして後をつけてみたのよ。するとヒロノブさん、役場とは反対の方へと歩いていくのよ。
 駅前の広場まで行くと、ある女がいて、そのとき、あの女がヒロノブさんをたぶらかした張本人だなってわかったの。みていると、やっぱりヒロノブさんはその女に話しかけるのよ。確かにお綺麗な方だったわ。でも多分、私たちとそんなに変わらない歳だと思うの。勘ですけれどね。
 二人は近くの喫茶店に入って、長いこと話していたわ。その時はそのまま帰ってきましたけれど、次はその女をつけてみようと思うの。
 やっぱり男なんて浮気をするものだから許してあげようと思うのよ。でも女はそうはいかない。あいつがたぶらかしたから浮気したに違いないわ。絶対にとっちめてやるんだから。

 敬具

四通目

殺してやるからな


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