創作》地球儀
月に一度、僕の地元では骨董市をやっている。
駅の近くにイベント広場って場所があって、そこに市が立つ。
古着物に古い置物、掛け軸に食器。確かに骨董品だと思う古い物からそうでないものまで、若干フリーマーケットも混ざったような、そんな市だ。
僕はその市によく足を運んだ。何か面白い物に出会えそうな気がして。
古びた空気が広がった世界の一角で、僕は足をとめる。
硝子細工の置物が目についた。
干支の動物を象ったものから、一角獣に麒麟など、透明な動物たちが紫色の布の上で遊んでいた。
それらの中心で、地球儀が静かにたっていた。
透明な球体に、不透明の精巧な世界地図がのっている。
値段も手頃だったので、僕の家のインテリアの一つとして迎えた。
透明な地球儀は、陽のよく当たる出窓に、花の活けられる花瓶と並んだ。
太陽の光が地球儀を通り抜けて床に落ちている様はとても綺麗だった。
次の日、地球儀の足元に水が零れていた。
ごくごく僅かだったが、確かに落ちていた。
隣の花瓶の花を活け変える時にでも跳ねたのだろうか。
いやしかし、それなら地球儀そのものも濡れているはずだが、そんな様子はない。
だが、と、あまり気にせずに水を拭き取った。
しかし、水は毎日のように地球儀の足元を濡らしていた。
地球儀自体に水がかかる様子はないが、と地球儀をよくよくみていた。
そして、おや、と違和感を覚え、世界地図を広げた。
精巧に精密に描かれていたはずの硝子の球体の上の世界地図は、持っていた紙の上の世界地図と少し変わっていた。
北のてっぺんと南のてっぺんの形が僅かに変わり、太平洋や大西洋の島々の数が僅かだが減っていた。
これはいけない。
僕は慌てて地球儀を陽の当たりにくい僕の机に移動した。
これできっと大丈夫。
しかし、次の日、地球儀の足元には水が落ちていた。
何か良い方法はないものだろうか。
僕は毎日首をひねりながら、地球儀の足元を拭いている。
original post:http://novel.ark-under.net/short/ss/89