創作》コトバ集め
僕は世界の音という物を知らない。
言葉がどんな音で聞こえるのか、音楽がどんなものか知らない。
しかし、僕にはその人の発する言葉が美しいものかそうでないか、判る。
人は皆、言葉を発する時、羽を吐き出す。
美しい言葉なら純白に輝き、そうでなければ薄暗く、黒ずんでいる。
普通の人には見えていないようだ。
僕はその羽を「言羽」と呼んだ。
言羽は人の口から何枚か吐き出され、地面に落ちる前に消え去る。
たまに消えないで落ちているものもあり、僕はそれを拾い、ガラス瓶に集める事を趣味にしていた。
多分普通の人から見たら、空っぽのガラス瓶に空気を入れているようにしか見えないだろう。
ある日僕は公園で、それそれは綺麗で普通のものよりも少し変わった形の羽を拾った。
あまりにも綺麗で、僕はガラス瓶に大事にしまった。
あの言羽は誰が零したモノだろう。
ガラス瓶の中の羽を見つめて、僕は想像する。
その数カ月後、僕はあの綺麗な言羽の吐き出した主に出会う。
その主は女性で、テレビの中で歌っていた。あの不思議な形の羽を零しながら。
それそれは美しく、のびのびとした表情で歌う女性だった。
僕は喜んだ。
あんなにも美しい羽を零す人を見つけられたから。
しかしながら、よくよく見ていると、そのブラウン管の向こうで吐き出されている羽に、僕が拾った羽の美しさは見受けられなかった。
美しい、けれど、ガラス瓶の中のモノとは比べたくもないくらい、薄汚れていた。
彼女の羽を汚したのは、何であろうか。
僕はガラス瓶を抱き締めながら、涙を零す。
いつか、彼女に会うことが叶うなら、この瓶を、この羽を、彼女に返そう。
それで少しでも、彼女の吐き出す言羽が輝きを取り戻すなら。
original post:http://novel.ark-under.net/short/ss/102
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