創作》いつもより静かな朝に
「ねぇママ、アレは?」
忙しい朝。
朝食、お弁当作りに勤しむ私に、寝床から起きて来た娘がそう問うた。
「アレはどうしたの?」
「アレ?」
「そう、アレ」
私が指差した先を見て、娘が頷く。
いつもアレに無関心でいた娘。今朝はとても静かだから、さすがに気になったようだ。
毎日昼夜問わず、騒がしい、アレ。
私が「アレ」としか言わなくなった為だろうか、娘もアレと呼ぶようになった。
「もう捨てちゃうから、アレとは今日でさようならよ」
「そっかー」
娘はやはりさほど興味を持たず、幼稚園へと行く支度を始める。
そろそろご飯を食べて、家を出ないと、幼稚園バスが迎えに来る。
手のかからない娘は、しっかり身支度を終え、朝食をとる。
その間にお弁当を作り終え、娘の鞄に入れる。
娘は玄関に向かう前に、アレの方を見て手を振る。
「じゃあね、パパ」
リビングで血を流して倒れているアレ。
後は捨てるだけ。
今日は燃えるゴミの日だからね。
朗読版
Original Post:http://novel.ark-under.net/short/ss/81
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