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不登校はトランジションです。そしてトランジションは体験した方が良い。

 中学生や保護者の前でお話しするときに最近ではよくトランジションのお話しをしています。

 最近トランジションについて気づいたことは、トランジションはライフイベントで起こるのではなく、外部の環境の変化でも起こりうるのだということ、つまり激動の現代ではいつどこでトランジションに入るかわからないということです。
 そして、青年期というトランジションは子供を大人に変容しますが、現代ではトランジションを経由する度に、人は、子供(α)から大人(β)という1回きりの変容ではなく、αからβへ、βからγへ、γからδへと永遠に変容していくのだということです。
 さらに、青年期のトランジションの経験が生涯の変容のチャンスを形作ることになるのだということです。

 トランジションは人生の転機のことです。飛行機の乗り換えの時にトランジットすると使いますね。そのトランジットの名詞形です。トランジションはある人生からまた別の違う人生へトランジットしているところだと言って良いでしょう。

 トランジションは心身の変化や環境の変化によって起こります。子供から大人になる青年期の今の皆さんはこのトランジションの最中です。
 こういった人生の転機は心身の発達と共に起こることを中心に考えられてきました。環境というより年齢に応じた転機という捉え方です。
 人は、大人になれば親の仕事を継ぎ、当たり前のように結婚して子供をなし、やがて老いれば子供に仕事を任せて引退するものでした。人生の転機は子供から大人へ、結婚、引退といった年齢相応の数少ないイベントと直結していました。

 しかし、現代は、いつ何が起こるかわからない時代です。心身の変化だけでなく環境の変化も人生に直結することが実感されるようになりました。
 疫病によって職を失ったとか、戦争で物資が不足して商売が成り立たなくなったとか、産業構造が変わって職そのものが消滅したとか、年齢に関係なく環境の変化で人生の転機を迎えざるを得ないことがたくさんあります。そして、それはいつ誰に訪れるかわからないのです。

 誰もがいつか突然トランジションの時期が訪れる時代だからこそ、とレンジションをプラスに捉え、自分自身をこれまでとはすっかり違う形にして次のステージに進んでいくことが必要なのです。
 青年期の思考の柔軟なときにきちんとトランジションに向き合い、試行錯誤の末に自己変容を遂げて次のステージに進む経験をし、そういう生き方をすることが大切だと思うのです。

 もし、この時期に皆がするからと言うような理由で何の障壁も越えずに当たり前のように進学し、当たり前のように入職していったとすると、どうなるでしょう。結婚し、子供ができ、住居を購入し、生活が「安定」し、その「安定」を崩すまいとだんだん思考も柔軟性に欠けてくるようになって、突然トランジションが訪れたらどうなるでしょう。多分、その人には大きすぎる障壁になってしまうと思うのです。

 意思決定論を唱えたハリィ・ジェラットは「人生は急流を筏で下るようなものだ」と言いました。
 人生は頂上というゴールの定まった山登りのようなものではなく、いつどこで何が起こるかわからずどこに行き着くかもわからないものだと言うのです。
 そんな人生だからこそ、どんなことが起こっても対応できる感覚を身につけることが大切なのです。いつどこで何が起こるかわからなくても事前にできることはあるのです。

 その1つが、中学生や高校生の青年期の柔軟な時期にトランジションに入ることだと思います。そしてそれにしっかり向かい合うことだと思います。
 青年期には、体が成長する、自我が芽生える、といった心身の成長に加えて、学校環境の変化や他者との交流といった様々な要因でトランジションに入ります。
 青年期は人生で初めてのトランジションですから、次のステージに進むのに苦労します。この試行錯誤の時点で、状況を見極め、自己を再点検し、支援を受けながら戦略を練っていくことを身に付け、大人になって迎えるトランジションに対応できるようになっていきます。
 このトランジションで経験した自分自身の変容の経験は、単に困難への対応というのではなく、生涯にわたって繰り返される自己変容の経験になっていくはずです。

 トランジションのことを考えると、このタイミングで不登校になるのはべつに異常なことではありません(メンタルが健康でない状態についてはまた別途お話ししますし小学生の不登校についても保護者のご苦労も大変なのでまたお話しします)。
 初めてのトランジションだと考えると当然起こることだと思うのです。むしろ、トランジションに正面から向かい合い、自己変容をして次のステージに進む経験をしっかり積んでいく大きなチャンスの時期だと考えて良いと思うのです。

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