総合学科だけじゃなく実施してほしい「産業社会と人間」の授業
総合学科の高校では、「産業社会と人間」という科目が必修になっています。
高等学校学習指導要領は「産業社会と人間」について、次のように定めています。
リアルな体験や体験的な学習を通して、職業と生活のためのコンピテンシーを身に付け、産業と社会の未来を考察し、進路と自己実現のデザインをすることだと言っています。これは、学校の教育活動全体で行われるキャリア教育の学びの内容そのものでもあります。
具体的にはどのような内容なのでしょうか。本校で実施されている「産業社会と人間」の内容を見ていきましょう。
〇リアルな体験や体験的な学習
1年次では職業に関わる体験だけでなく、各教科の学習に関連する本物体験を実施します。たとえば、自然科学や語学の体験、芸術や伝統芸能の体験、起業の体験をします。
リアルな体験の重要な働きに「遠い立場の大人に評価してもらう」という点があります。
同年代だけでなく、多様な年代の人々とつながりができる方がいい。そのために、様々な外部の人と連携をしていこうと考えています。
なお、体験的な学習は自分で成果を実感できる活動的な学習方法です。体験学習でなく「体験的な」学習と言っているところがミソです。
体験学習はリアルな体験をさせる学習ですが、体験的な学習はいわゆるアクティブラーニングです。チョークアンドトークの授業でなく調査研究やプレゼンやグループワークをするような学習です。
「産業社会と人間」ではそれが様々な学習場面で実施されます。
〇職業と生活のためのコンピテンシー
能力と態度と価値観と言っていますのでまとめてコンピテンシーと言えます。
学校の教育活動全体で様々なスキルを身に付け、各々のスキルが集まって、生きていく総合的な力であるコンピテンシーが身に付きます。
様々な大人や団体が学校に来て、ビジネススキルやお金の授業をしてくれます。
対人関係やチームワークのスキルも身に付けます。1対1の対話の方法から心の健康の保ち方、レジリエンスを高めることも含まれています。
レジリエンスはストレスに対して対応できる性質で、メンタルタフネスともいいますが、タフさ(強さ)より持続性、柔軟性、楽観性の方を大切にします。
〇産業と社会の未来
2050年と言えば今から30年後、ちょうど生徒の皆さんが皆さんの親ぐらいになった時、世界は大きく変わっていると言います。
日本や世界の未来を調べ、自分自身がそれにどのように関わるかを考えます。人工知能やデジタルトランスフォーメーションといった最先端科学やSGD’sが研究のテーマになりますし、私たちの身近な生活にも大きな変化が訪れます。
これらの未来像と自分が学びたい分野をもとに、ラーニングプラン発表会で自分自身の学びの未来像を発表します。
〇進路と自己実現のデザイン
キャリアデザインは、「①自己理解→②価値観形成→③情報活用→④将来設計→⑤意思決定→⑥適応」という意思決定の理論で成り立っています。
たとえば洋服を選ぶ時でも「①自分の体形を知り→②自分の好みをはっきりさせ→③どんな服があるか比較検討し→④着てみたときを想像し→⑤実際に選んで買って→⑥着て生活する」という流れになります。
人生の選択も①自分の進路適性を理解し→②学ぶ意義・働く意義を理解し→③進路情報を活用し→④将来設計を経て→⑤進路に関わる決定を行い→⑥その環境に適応していきます。
1年生の意思決定としては履修科目の選択を決定することが大きなテーマです。
本校では、まず自分の所属するゼミを選びます。そのゼミに関連するテーマで課題研究を作成する前提で学びたい科目を選択していきます。
ちなみに、2年次は課題研究のテーマを決定し、卒業年次は卒業後の進路決定を行います。
こういったデザイニング自体もコンピテンシーの一部で、自分で調べ、自分で考え、自分で発信する学びの課程とも重なります。
「産業社会と人間」の学びはキャリア教育の学びそのものですので、1年次で終わるわけでなく、卒業まで螺旋状に深まりながら、リアルを通して、コンピテンシーを身に付け、未来をデザインしていきます。
「産業社会と人間」は総合学科高校の学校設定科目ですが、全ての高等学校で実施すると良い内容です。大学受験に備えてできるだけ知識を詰め込みたい気持ちはわかりますが、「産業社会と人間」のように「人が生きることについて考えていく時間」が後期中等教育の中で必須だと私は思います。
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