誰も教えてくれなかった「クリエイター」への発注方法
この文章は、「非クリエイティブ職」という人に向けて書いています。絵を書いたりデザインをしたりする以外のお仕事をしながらも、時々「ウェブサイトを作らなきゃ」「フライヤー作りたい」とか「この記事に挿絵があったら」と思い、普段あまり関わることのない「クリエイティブ系」の人たちを紹介してもらうイメージ。この記事はそんなあなたが気持ちよく、その道のプロと一緒に良いものが作れる助けになればと思って書きました。
ここで「クリエイター」というのは、主にイラストレーターということで話を進めていきますが、グラフィックデザイナーや、部分的にはフォトグラファーへの発注方法としても参考になるかと思います。
この記事のポイント
・代金は成果物の「使用権」に対して払っているのであって、作業時間に払っているのではありません。よって同じ成果物でも使用シーンが増えれば料金アップ。
・連絡する際は内容・タイムライン・使用シーン・予算を初めに伝えましょう。
・スケッチの修正は大体3回まで、ファイナルの修正も軽微なもの3回位まで。
・コミュニケーション命。コラボレーターとして、お互いに得意分野を尊重しながらいいものを作りましょう!
少し私の話をすると、大学時代からアーティストとはあまり関わることのないビジネス側の世界を歩いてきて、1つ目の起業を経て、2年前にコファウンダーとして世界中からアーティストを迎えるクリエイティブレジデンスAlmost Perfectを設立しました。今はほぼ毎日アーティストやクリエイターと呼ばれる人々と絡んでいる状態です。夫もイラストレーター。そこで日々思うのが、もっと前にクリエイターと上手く協業していく方法を知りたかった!(なんで授業でもなかったし誰も教えてくれなかったの!とも。)そんな背景からこのガイドを書いています。
どんな分野も、ロゴやウェブサイトは必要になりますのでデザインやビジュアルとは無関係ではいられません。しかし、そうでない世界の人間からはアーティストやクリエイターの都合や働き方に触れる機会が少ないため、協業がうまくいかない場合があります。コミュニケーションのぎこちなさは、成果物と納得感の不十分さに直結します。できることならお互いの得意分野を尊重しつつ、両者にとって良き商売につなげたいものです。
ということで、実際にクリエイターへの発注から支払いまで、順を追って説明します。ちなみに内容は私の周りのイラストレーターの実例と、グローバルのイラストレーター協会AOIのガイドを参考にしています。一応、世界共通の業界基準なんじゃないかと思っています。
友人でイラストレーターがいるから、と頼むこともできますが、イラストレーターといっても作るものは様々。それもそのはず、イラストレーターは、人とは違う自分のスタイル(特徴のあるタッチや色など)を見つけるのにかなりの労力を割いて、それを日々ブラッシュアップしています。運よくお友達に最適なスタイルのイラストレーターがいればいいですが、そうでない可能性もフェアに検討するのが良いかと思います。好きな雑誌のイラストからそのイラストレーターに連絡してみたり、ハッシュタグを使ってインスタで検索してみたり。
ちなみにお友達に依頼する場合も、「ちゃちゃっと描いてよ、安く」的には言わずに、友達だからこそ相手の職業を最大限尊敬する形でお願いするのが筋かと個人的には思っています。友達割引を期待するのではなく、もし割引してくれるようであれば多めに発注するとか、予算がなければ自分のサービスや商品を交換で提供するとか、他の仕事を紹介するなど配慮があるといいなと、自戒を込めて思うことがあります。
「使用権(ライセンス)」の考え方
まず最初に誤解を生みやすい「使用権」の考え方です。イラストレーターにお金を払ってイラストを描いてもらう場合、(そうでないと契約書に明記されている時以外は)自動的に著作権はイラストレーターのものになります。そして、発注者はそのイラストの使用権に対してお金を払っているのであって、絵そのものやイラストレーターの時間に直接お金を払っているわけではありません(もちろんそれは単価に影響しますが)。なので、同じイラストをウェブサイトだけに使う場合と、ウェブサイトに加えてパンフレットとトートバッグとTシャツに印刷して使う場合では、イラストを書く時間は変わりませんが支払う価格は後者の方が高くなります(使用範囲)。同じく、イラストを日本国内で使うよりも、日本国内&海外マーケットでも使う方が使用料は高くなります(使用地域)。また、数週間のキャンペーンなのか、今後10年間使用し続けるのかもポイントになります(使用期間)。最初は国内のウェブサイトに使うつもりで発注して、後からポスターや海外展開の際の資料に使うことが決まった際にはイラストレーターに連絡し、追加で使用料を支払う必要があります。イラストレーター自身の仕事量は変わりませんが、それは関係ないのです。なので、発注の際には使用シーンをできるだけ明確に決めておく必要があります。
ファーストコンタクト!
さて、お願いしたいイラストレーターが決まり、イラストの使用シーンもわかる範囲で決まったら、ウェブサイトやインスタのDMなどから問い合わせをしてみましょう。少なくとも数週間は一緒に働くプロジェクトパートナーとなりますので、「この人と働いてみたい」と思ってもらえるようなコンタクトを心がけましょう。
まずは自己紹介、どんなイラストが何の目的で必要なのか、タイムライン、使用権のところで話した使用シーン、また予算があらかじめ決まっている場合は説明して興味があるか聞いてみましょう。「時間ありますか?」とだけ聞くのはやめましょう。内容や予算によって時間があってもやりたくないこともあるし、逆に無理にでも時間を作る!という場合もあります。
「今他プロジェクトで時間がない」「その予算ではできない」「そういう依頼は今受け付けていない」等、悲しいかなここで断られるのもよくあることです。気持ちを切り替えて他の人にアプローチするのも良いですし、めげずにイラストの数を削る、使用範囲を削るなどして交渉を続ければOKが出る場合もあります。臨機応変にいきましょう。因みにここで事務所(エージェント)と話して下さいと言われることもあります。
打ち合わせ・ブリーフィング
それでは一緒にやりましょう!となったら、リアルまたはオンラインでの打ち合わせ兼ブリーフィングとなり、ここで条件やプロジェクト内容を詳細に詰めていくことになります。イラストで達成したいことやメッセージを届けたい人、組織の風土や今後のビジョンなんかも語れるとイメージが膨らむと思います。そのイラストレーターの過去の作品からイメージに近いものを選んで提示するのも非常に効果的です。
たまーに発注者側が既に描いた絵をきれいに描き直して欲しいと依頼したり、または例えば「オフィスで6人の男女が輪になって座っていて一人が不安そうに手をあげている絵を描いて下さい」と絵の細かい内容を指定する事があります。発注する時点で何らかのイメージがあるのは当然のことで、それをイラストレーターと共有するのは大切なことです。
ただ、イラストレーターはアイディアやコンセプトをビジュアルに落とし込むことを生業としている人たちですので、もしかしたら最初に発注者が抱いていたイメージ以外にもアイディアがあるかもしれません。新しいアイディアにもオープンな姿勢で打ち合わせに臨めば、当初の予想以上の結果が得られるかもしれません!
詳細なブリーフィングのあと、正式な見積もりを依頼しましょう。前述の使用権のところで書いた通り、見積もりには様々な要素が絡んできますので、出てくるまでに少し時間がかかるかもしれません。
金額と詳細が決まったら、できるだけ契約書、少なくとも書面で条件を確認しておきましょう。
スケッチ→ファイナル
ついに、絵にとりかかってもらいます!しばらくして出てくるのが、「こんな方向性かと思うんですがどうでしょう?」を確認するスケッチ。スケッチを複数出してもらってそこから選びたい場合は事前に伝えておきましょう。修正点はがんばって言語化し、なるべく具体的に伝えましょう。スケッチがよければ、それをファイナルまで仕上げてもらいます。
納得いくまでやり直しをしてもらいたい気持ちも分かりますが、スケッチ段階の修正は最多で3回位まで、ファイナルでも小さな修正3回位が常識の範囲のようです。それ以上は追加料金が発生するかもしれません。コミュニケーションを密に取りましょう。
もしもキャンセルすることになったら
途中でプロジェクトが頓挫した、どうしても期待したものが出てこないなんてこともあるかも知れません。やむを得ず発注をキャンセルすることになったら、どこまでプロジェクトが進んでいるか(ラフスケッチ段階では合意した額の25%くらい、ファイナル納品後では大抵100%が多いようです)、誰の過失なのかなどで調整したキャンセル料を支払う必要があります。
支払い
ファイナルの納品を確認したら、請求書を出してもらいましょう。経理の都合もあるかと思いますが、できる限り早い支払いがベターかと思います。
それでは、良いプロジェクトを!
上記はモデルケースで、プロジェクトによっては違うプロセスもあるかもしれませんが、発注する際に知っておって損はないと思います。
プロのイラストレーターとして生きている人たちは、普段とは違う視点を教えてくれるかもしれません。今まであまり縁のなかった方も、発注先と発注元というよりはコラボレーターとして、クリエイターを仕事の良きパートナーとして迎えてみてはいかがでしょうか?
画像:
絵は全てLuis Mendo。
画像2枚目からのクライアントはHeading South、The New York Times、俳句四季、(CDカバーの却下になったスケッチ)、銀座和光。
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