ヨコハマ・フットボール映画祭2024にてまさかの再上映。しかも、倉敷保雄氏とベン・メイブリー氏(J-Sports実況・解説コンビ)によるオーディオコメンタリー付上映ということで、いそいそと馳せ参じた。
概要
まずは、劇場パンフにあたるとしよう。
上映時間は休憩含んで184分。
そういえば、サウスゲートが先日辞任を発表。勇退と言っていいだろう。
彼の就任期間にあたるこの2016年から2024年は、英国にとってBrexitやパンデミックを含む激動の時代。また、クロップやペップといった名将たちが集うことで、プレミアリーグが名実ともに世界一のリーグになっていくそんな時代である。
その頃、イングランド代表は長らく低迷を続けており、2000年以降はプライドをかなぐり捨てて外国人監督(エリクソンやカペッロ)までも招聘。それでもうまく行かず、好々爺ホジソンも駄目、続くアラダイスは不適切発言で1試合でクビ。と、万策尽きた中でU-21監督のサウスゲートが昇格する…そこから舞台が始まるわけだ。
演劇の視点
とはいえ、サウスゲートは知将や名将の類ではない。どちらかといえば"地味な男"という印象で、日本代表の森保監督にも近い。では、いかにしてサウスゲートを主役に据えた演劇が成立するのか?
サウスゲイトは代表監督就任早々にウエイン・ルーニーなど長年代表に選ばれてきた選手を外して世代交代をはかる一方で、心理学者を登用し、メンタル面の強化に着手する。
自らも過去にPKを外して心に傷を追った当事者サウスゲートが、サッカー選手のメンタルに関わる諸問題の解決に取り組む。その姿を描いたのが本作『ディア・イングランド』である。
このPKの失敗については、ウィリアム王子との対談動画も発見。
国民の期待を一身に受けての失敗、ということでダメージも大きかった様子。そうした感情を話すことは決して弱さではないといったことが二人の会話では語られているが、現代はSNSを通じてもサッカー選手はバッシングを受けており、メンタルヘルスの重要性はより一層高まっている。
日本で同じような例といえば、こちらになるだろうか。
さらに、こうした問題はサッカー界に限った話でもない。
vs Toxic Masculinity
こうしたメンタルヘルスの問題は、サッカー界に巣食う「有害な男性性」との戦いにもつながってくる。
そういえば、Apple TV Originalの『テッド・ラッソ』も同じテーマを描いていたことを思い出す。
新たな男性像・リーダー像
振り返ると、ここ10年〜20年で日本においても"男性像"は大きく更新されてきた。「草食系男子」という言葉が流行語大賞になったのは2009年。今ではそのあり方自体が当たり前になりすぎてしまって、もはや先の時代を思い出すことさえ難しいが、当時は自分も有害な男性性と戦わさせられていたように思う。
メンズファッションの分野も2010年代中盤以降にビジネスとして大きくなり、今ではスカートを履く若い男性も珍しくなくなった。着飾る男性が女々しいというイメージもだいぶ無くなってきたのではないか。昔よりはるかに多様な男性のあり方が許容されるようにはなったが、それでもアスリートの世界ではその価値観が立ち遅れているのだろう。
サウスゲートにしてもテッド・ラッソにしても、伝統的なリーダー像とは程遠い。強力なビジョンを示し、圧倒的な実力でチームを牽引するような強さはそこにはない。それは今までの捉え方で見れば、地味、ということなのかもしれない。しかし、世間の支配的な空気に抗い、一人ひとりの素の感情に寄り添ってチームのベストをデザインするその姿勢やあり方は、自分の目指すところであると強く感じる。