歌舞伎NEXT 『朧の森に棲む鬼』
クリスマスに行ってきました新橋演舞場。
劇団☆新感線といえば、古田新太・天海祐希がよく出ていて、TOHO系の劇場では「ゲキシネ」がよくやってて、中島かずきは「グレンラガン」で知ってる……。と、その程度の事前知識しかなかったが、今回は不朽の名作の17年ぶりリバイバルだというし、“歌舞伎NEXT”だというので現地見学に。ファンでもなく、玄人でもないため、ぼんやりと感じたことを自分の記憶のために残しておきたい。
「いのうえ歌舞伎」と「スーパー歌舞伎」と「歌舞伎NEXT」
今回は「歌舞伎NEXT」第二弾。まずは、ここに至る経緯を少し振り返ってまとめておこう。
劇団☆新感線は1980年11月、大阪芸術大学舞台芸術学科の4回生を中心に大阪で旗揚げ(来年が45周年)。主宰はいのうえひでのり氏。氏は、時代劇にアクションと独特な演出を融合させ、小劇場の枠を超えた新しいエンターテイメント「いのうえ歌舞伎」というスタイルを確立したことで知られている。
古典的題材に現代的演出を組み合わせるとなると、「スーパー歌舞伎」をどうしても思い浮かべてしまうが、スーパー歌舞伎第1弾「ヤマトタケル」の初演は1986年2月の新橋演舞場。一方で、「いのうえ歌舞伎」第一弾の「星の忍者」は1986年の2月に大阪は近鉄小劇場で初演されたようだ。
東西で同時期に、同じような試みが見られた!ということになるが、これは何かの偶然だったのだろうか(詳しい人に教えてもらいたい)?とりあえず、澤瀉屋の「スーパー歌舞伎」、高麗屋の「歌舞伎NEXT」と覚えておくことにする。
閑話休題。で、この「歌舞伎NEXT」というのは、「いのうえ歌舞伎」を歌舞伎俳優でやるシリーズということのようで、第1弾は「阿弖流為」(2015)。
出演者のスケジュール調整やコロナ禍などの影響で時間が空いてしまったが、その第2弾がこの『朧の森に棲む鬼』ということになる。
そしてさらに話は複雑になるが、この『朧の森に棲む鬼』は元々は、劇団☆新感線と松竹がタッグを組んだ《InouekabukiShochiku-Mix》シリーズということで、要するに歌舞伎役者=市川染五郎(現 松本幸四郎)は主演だが、現代劇の役者がワキをかためた布陣で2007年新橋演舞場正月興行で行われていたもののようだ。今回は役者陣を歌舞伎役者で揃え、演出も歌舞伎に寄せて「歌舞伎NEXT」として17年ぶりのリバイバル….ということになる。
※ちなみに、この2007年の『朧の森に棲む鬼』は2025年1月にBS松竹東急で初放送される模様。
『朧の森に棲む鬼』のネタ元
さて、それでは話の内容に入っていきたい。
「リチャード三世」は、薔薇戦争の渦中にある15世紀のイングランドを舞台に、敵や味方・肉親までをも欺き、殺して玉座を手に入れるリチャード三世の栄光と転落を描いたピカレスクロマン。「マクベス」も、11世紀中頃のスコットランドを舞台に、主君を殺して王位を奪う話。森で出会った3人の魔女から「女から生まれた者にはマクベスを倒せない」などと実現無理めな予言がなされるも、その予言通りに滅ぼされてしまう。
で、そこに酒呑童子の伝承が加えられているということだが、ここは筋書から下記のテキストを引いておきたい。
この善悪が入れ替わるという部分は、下記のテキストが参考になる。
源頼光は、源氏武士団のリーダーである軍事貴族。当時は、貴族社会に不満を持つ流民達が、物乞いや盗賊となり治安が悪化していたそうで、藤原氏の警護役として信頼を得ていた源頼光はその討伐担当だったとのこと。
そして、その反転する構図は、「マクベス」の有名なセリフである<きれいは汚い、汚いはきれい>にもこだましながら戻っているようにも思う。
『朧の森に棲む鬼』(2024)
さてさて。そして今回の『朧の森に棲む鬼』である。
元々は落ち武者狩りを生業にしていたライは、嘘(LIE)によって権力ピラミッドを上っていく。そして、後半は嘘というよりも武力(童子切安綱の妖刀的活躍)に頼るところがどんどん大きくなっていく。この、嘘に暴力行使もミックスさせるスタイルの悪党といえば、フィリピンの刑務所を根城とした詐欺集団「ルフィ」グループが真っ先に思い浮かび(その先に関係ないがスーパー歌舞伎「ワンピース」までついでに浮かんでくる)、この物語は"詐欺集団頭目の心性"を1つの悪の権化として呈示していると感じたのだが、よくよく考えると、戦争を主導するような国家元首の発言や言動は嘘と暴力のミクスチャーであり、もしかしたら普遍的且つ純粋な悪の姿なのかもしれない…と考えさせられた。(あるいは、外道が本道になる時代の話….)
ただ、3時間半くらいの長丁場である。何度も繰り返されるチャンバラシーン(同じ楽曲がそのたびに使われる)が登場する展開の構造はもう少し整理ができたのではないか。※例えば、どこぞの国歌や軍歌を和楽器で箏じる等の演出で意味レイヤーを重ね、(チャンバラをやめて)最新鋭の兵器が民間人にも被害を与えているような描写やセリフがあっても面白かった。
ロック調の音楽は、歌舞伎というより何か別のもので、自分は2.5次元演劇を観たことはないが、むしろ「いのうえ歌舞伎」がその源流になる?とか歴史も知らず勝手なことを申し上げるが、軽いものに見えてしまう瞬間があったのがやや残念ではあった。